表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/115

東城市ゲート

「B―Rainに問い合わせてみると、ジェイコブ氏は自宅で面会したいと言ってきたのです。それでジェイコブ氏の自宅がある東成(とうじょう)市に向かっています」

「東成市――」


 思わず声が洩れた。僕の様子に、ケイトが後ろを振り向く。


「なに? 東成市に何かあるの?」

「いえ…なんでもありません」

「東成市は、特別な場所ですからね」


 国枝がそこで口を開いた。


「なに、特別って?」

「アメリカのサンディ・スプリングス市を真似たんですよ」

「あの、富裕層の富裕層による、富裕層のための都市?」


 ケイトが少し嫌そうな顔で言った。国枝が苦笑する。


「そう、それの日本バージョンといったところです。住民は年収2000万以上ないと居住権が認められません。日本の警察庁管轄下の警察は此処にはなく、事件・事故・治安維持には住民の税収で雇う警備隊が対応します。役所の仕事も消防隊も、皆、民間企業として都市に雇用されてる立場です」


「サンディ・スプリングスは住民が貧困層への行政サービスに税収を使うのが嫌だという理由で、低い行政サービスを改善するために街を法人化したと聞いてるわ」

「そうですね。サンディ・スプリングス市は街を法人化する手続きを取りましたが、東成市は特別行政地区に選定される事で、行政サービスの民営化が始まったんです。いわば最初から富裕層の囲い込みが念頭にある、上からの選抜ですね。――もう、ゲートが見えてきましたよ」


 ゲート、というより巨大な駅ビルのような横長の建物が見えてくる。道路はそこから複数に分岐し、そのどれもに渋滞ができている。その中でも一番空いている後尾に着くと、しばし待った。


 10分後、車がゲートのなかに入る。目の前にはトラ模様のバーが降りており、勝手には進めない。警備服の係員が出てきて、声を出した。


「車を降りてください」


 車を降りると、ゲート横の壁を指さした。ドアがある。


「こちらのエレベーターに一人ずつ乗って、上階の控室でお待ちください」

「私は警察庁の国枝ですが」

「誰であろうと同じです。一人ずつ、お乗りください」


 言葉を発した国枝に、係員はピシャリと断言した。国枝は眉を上げて見せる。


 最初に国枝、次にケイトがエレベーターに乗り込み、最後に僕が乗り込んだ。エレベーターの中で、手首仕込まれたAIチップを読み取っているのだろう。身分証明と、持ち物検査、検疫検査などをこの個室で行っているのに違いない。やがてドアが開くと、控えの部屋にいる国枝とケイトが、ソファに腰かけていた。

 少し待つと、別の制服姿の係員が現れる。


「警察庁の国枝佑一警視様、AMG社員のケイト・コールマン様に関しては、入市の許可が下りました」


 役所の人間のような笑みを浮かべて、男が言う。ケイトがソファから立ち上がって声を上げた。


「ちょっと待って、じゃあ明は?」

「神楽坂明様は、元この都市の住人でして――その場合、入市はかなり難しいことになります」


 柔らかい物腰で言っているが、内容は極めて堅い条件である。


「あ、いいですよ。じゃあ、僕は此処で待たせてもらいますから、お二人で行ってきてください」


 僕は国枝とケイトに言った。しかしそれを聞いて、ケイトが怒り出す。


「何を言ってるの! 貴方も行くに決まってるでしょ。それより明、此処の住人だったってどういう事なのよ」


「15歳まで、この東成市の住人だったんです」

「元住人だったら入市できないって、どういう事なの?」


 ケイトは矛先を係員に向けた。係員は涼しい顔で答える。


「警備上の安全対策です」

「此処の住人は、元住人に恨みでも買う連中ってわけ? まったく…」


 涼しい顔のままの係員をよそに、ケイトはARグラスのウインドウを開いている。何処かに電話するらしい。


「――ケイトです。東成市というところで、捜査協力者が入市できずに……はい、お願いします」


 電話を切る。と、係員の身体がビクリと動いた。自分の電話が鳴ったらしい。


「はい…いえ、決して失礼な事が――はい。はい。判りました、確認いたします。はい」


 係員が僕らに向き直り、さらに張り付けたような笑顔を見せた。


「此処で、もう少々お待ちいただけますか? すぐに戻ります」


 それだけ言うと一礼して、係員が去っていく。ケイトは僕の方に向き直ると、ソファに腰を降ろした。


「何処に圧力かけたんですか?」

「外交筋よ。ね、元ここの住人だったって事は、明の家も富裕層だったわけね。どうして街を出たの?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ