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ぽめらのお披露目ライブ

 ホームボックスに戻ると、メールが来ていた。有紗からだ。


『大丈夫? 戻ったら連絡してね』


 心配してくれてるのか、なんて可愛いんだ。僕はすぐ返信した。


『今、戻ったよ』


 すぐに電話が鳴る。僕はウィンドウを開きながら、ワンコール待たずに出た。


「明くん、大丈夫だったの?」


 画面に映る有紗が、心配そうな顔で覗き込んでいる。僕はその可愛らしさに見惚れながらも、表情には出さずに言った。


「大丈夫だよ、何も心配ない」

「ねえ、今からそっちに行くね」

「来てもいいけど、ぽめらは止めてね」

「もう、判ってるってば」


 有紗は一つ微笑むとウィンドウから消えた。僕はホームボックスから、自分の部屋のデジタルツインに移る。ほどなく、有紗のミラリアが現れた。


「明くん!」


 有紗が抱き着いてくる。僕はその身体を抱きしめた。


「どうしたの?」

「だって、心配したんだよ。明くん、なんか変身しちゃうし、いなくなっちゃうし、帰ってこないし……」

「ごめんごめん。もう大丈夫だから」


 僕は有紗を促してソファに腰かけながら、逆に有紗に訊ねた。


「有紗の方は大丈夫だった? ぽめらのアバターに傷はない?」

「うん、大丈夫だった。だって、明くんが守ってくれたんだよね?」

「ああ、うん、まあ……」


 有紗が無言で、僕の胸に頭を預けてきた。僕はその頭を、優しく抱き寄せる。と、有紗が頭を離して、こちらに目線を向けた。


「ね? あの変身した剣士も明くんなんだよね?」

「ああ、そうだけど」

「あっちはキアラじゃないんだよね。なんで二人いるの?」

「あっちの剣士の方が、昔使ってたキャラなんだよ」


「へー、そうなんだ。ねえ、あの黒いのはモンスターだったの?」

「違う。あれはバグ・ビーストって言って、最近ノワルドに現れてるバグなんだ。僕はAMGから頼まれて、あのバグ・ビーストに関する調査をしてて、ケイトさんはAMGからのエージェントなんだ」


 僕は多少、事実と異なる部分はあるが簡単に説明をした。


「そうなんだ。じゃあ、あれもお仕事の中だったのね」

「まあ、そんなとこだね。仲間とエリア攻略するのは、仕事じゃないんだけど――ちょっと線引きが難しいね」


 言いながら、我ながら苦笑が出た。仕事でも遊びでもレナルテに入り浸りだ。


「わかるぅ。なんかぽめらになってから、それが仕事なのかプライベートなのか、ちょっと判らなくなってたから。――あ、あのね、ぽめらでお披露目ライブやるんだよ」

「へ~、いつ?」


「明日の18:00から」

「随分早いね。歌とかダンスとか、レッスンが必要なんじゃないの?」


 僕はふと疑問に思って言った。すると有紗は、屈託のない笑顔を見せる。


「なんかね、レッスンはあるんだけど、ダンスの方はサポートがあるって」

「サポート?」


「動きをプログラムしておいて、アバターはそれで踊るんだって。極端な話、ダンスのレッスンはしなくてもいいみたい」

「へぇ~」


 ちょっと感心した。という事は、一糸乱れぬ華麗なダンスがすぐに披露できるわけか。


「けどね、プログラムで踊るのは最初だけで、段々、ちゃんと踊るみたいよ。なんかね、揃ってビシッと踊るより、多少、バラつきが会った方が、Vドルはウケるんだって」

「なるほど、そういうものかもね」


 僕はちょっと笑った。統制のとれた動きがコンピューターで幾らでも再現できる以上、むしろ不揃いな方が人間味があるというわけだ。


「面白そうだね、僕も行くよ。そんな急な話だから、特にチケットとかないんでしょ? 何処でお披露目するの?」

「バーチャル新武蔵野の駅前広場」

「ああ、あそこね」


 納得した。スーパーシティ新武蔵野は、むしろバーチャルの方が有名なのだ。



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