表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/115

ノワルド発表時の写真

「レオ……」


 ちょっと泣きそうになった。のを、堪える。


「そうだね…。ま、あたしたちだって秘密だらけだし」


 リスティがそう言って、席につく。グレタも微笑みながら、僕の方を見た。


「それじゃあ、変わらず攻略チーム結成ってことでいいのかしら?」

「ありがとう、みんな」


 僕は皆に、礼を言った。


「――で、あの二人の事はどこまで話せるの? バグ・ビーストに、あの二人は対抗できる武器を持っていた。グラードもね。もちろん、偶然じゃないんでしょ?」


 グレタの問いを受けて、僕の方に視線が集まる。僕は考えながら、口を開いた。


「僕もどこまで話していいのか判らないけど……。あの二人はとある機関の人たちで、僕は今、臨時でその仕事の手伝いをしてる。それがバグ・ビーストと関係ある事柄なんだ」

「ふうん、じゃああのふわふわした娘は?」

「あれは僕の彼女」


 問いをしたリスティが、ぶっと噴き出した。


「ちょっと~キアラって、ああいう子が好みなのね」

「いや、そうじゃないんだけど」


 僕は苦笑しながら、そう答えた。


   *


 ケイトに呼ばれて行ったのは、夜景の見えるバーだった。かなりの高層ビルの一角にあるようで、窓から都市の夜景が見下ろせる。とはいえ、レナルテの店だ。それにしても、誰の趣味だろう。


 窓際から少し離れた白のテーブルに、ケイトと国枝が待っていた。細身のスーツ姿の国枝の前に、眼が冴える程の赤いドレスのケイト。二人は向かい合わせに座っている。


「……なんか、凄くその場に入りづらいんですけど」

「なんで?」


 ケイトが何でもないように訊く。


「美男美女の席に、邪魔しに行くようで」

「くだらないこと言ってないで、座りなさい」


 促されて、僕は渋々席に着いた。


「あの場には今までにない規模でバグ・ビーストが現れたみたいよ。けど、相当な数を駆除したみたい。デリーターも総動員されたらしいけど、グラードがかなり倒したみたいね」


 ケイトが横目を流してくる。なんか胸元が開いたドレスを着て、口紅も赤いせいか色っぽい。なんだ、この雰囲気に合わせたのか、国枝に合わせたのか?


「あの直後、姿が見えませんでしたが?」


 国枝が問いかける。やはり、誤魔化しきれそうもない。


「実は、サガに会いました」

「――それで、何か判ったの?」


「まず、サガがアンジェラではない事、ですね。サガは電子涅槃教、デジタル・ニルヴァーナの教祖としてのアンジェラを追ってたんです。これについて、何か知ってますか?」


 僕は国枝を見た。国枝は中指で少し眼鏡を直すと、口を開く。


「聴いたことがありますね。別の班が追ってる、ネット界の新興宗教団体です。教祖がアンジェラという名だとは知りませんでしたが……少し、仲間の方から情報を貰ってみましょう」

「あと、元AMGの技術管理官、アリ・モフセンって男が、NISにいるって言ってましたね。犯罪組織のフォッグは、NISと提携をしているとも」


「まあ、それは判ってた事ではあるけど……。そのモフセンが、このバグ・ビースト騒ぎの元凶なのかしら?」

「それはなんとも……ただ、サガはアンジェラがくれた写真を知ってました」


 僕はアンジェラが写った写真を出してテーブルに置く。


「真ん中のアンジェラは、レナルテ創始者のアンディ・グレイ、剣士は天城広河で、魔導士がジェイコブ・レインだそうです」

「ジェイコブ・レイン? B―Rainの社長の?」

「ええ」


 国枝が僕の言葉を受けて、少し考える。


「確か……三人は共同開発関係であるとともに、友人だったはずですね…。これはいつの写真なんですか?」

「ベータ版のテスト前、ノワルドが発表された時のものみたいです。だから2033年、もう――10年くらい前のものですか」

「アンディ・グレイの自殺前、という事ですね。あの当時は、非常に大きなニュースになりました」


 やっぱり、見た感じは若いけど、国枝さんてそれなりの年齢だ。僕は10代だったので、まったく社会のニュースなどには興味がなかった。


「どうしてアンディ・グレイは自殺したんです?」


 国枝が指でウインドウを開く。少しスクロールさせているが、なかなか決定的な情報は出てこないらしい。


「詳細の死因については報道はされてませんね。自殺、とだけ報道されてる。アメリカの警察も、事件性はないと判断してます」


 アンジェラは、『わたしを探して』と言っていた。あれはどういう意味だったのか。


「それを調べる術はないんですか?」

「……ジェイコブ氏を訪ねてみますか?」


 国枝の発した言葉に、僕は少なからず驚いた。


「そんな事できるんですか?」

「ええ。ジェイコブ氏は日本のB―Rain本社にいるはずですからね。アポを取れば会えるでしょう」

「日本の警察の力で、算段つけて」


 ケイトの言葉に、国枝は苦笑した。


「そんな権力をかさにきるような真似はできない国ですよ。色々とコンプライアンスがうるさいんですから。けど、そちらの方はなんとかしましょう」

「頼みます。……なんか、そこにヒントがある気がするんです」

「ふむ……実は貴方がいない間に、大きな発表が会ったんですが、それとも関係するのかもしれない」


 国枝の言葉を受けて、ケイトが口を開いた。


「サミットの会場が、『ノワルド』にあることが発表されたのよ」


 一瞬、意味が判らなかったが、僕は驚きの声をあげた。


「えっ! あ、あの新エリアにですか?」

「そう。新エリアにハーフムーン湖というのがあるのだけど、その湖畔にハーフムーン城という城が建っている。その城が初のレナルテ・サミットの会場だと、発表があったのよ」

「実はそれに合わせて、もう一つの発表がありました」


 国枝が今度は言葉を継ぐ。


「アメリカ大統領サマナ・グリーンは、サミットの前日に来日するそうです」

「え? レナルテでのサミットなのに?」

「日本とは特別の関係である事をアピールするようですね。おかげで今、日本の警備部は大慌てですけど」


 国枝が苦笑して見せる。アメリカの大統領ともなれば、警察の警備も相当厳重なものになるのだろう。

 騒がしくなるな、とふと思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ