あの日の真実
紫に光る球体が、円を描くようにサガの背後に8つ現れる。
「デストラクション・ブラスター!」
紫の球体から白熱の光線が一斉に発射された。その太い光線は一点へと集中し、魔鋼竜の装甲を爆裂させていく。
「相変わらずの威力だ」
俺は一瞬だけ笑むと、自分も剣を構えた。
咆哮しながら駆ける。巨大な白刃を思う様に振り抜き、俺は怪物を切り刻んだ。
「ウオオオォッッ!」
サガのブラストが上から降りてくる。俺は下から斬り上がる。そのギリギリの衝突点で、俺たちは怪物から離れた。
再び時が動き出す。
魔鋼竜が機械が軋むような悲鳴をあげ、崩壊していく。クリアしたのだ。
「皆、ログアウトしろ!」
俺は声を張り上げた。いきなり眼の前の怪物が倒れたことに、レオを初めとしたプライヤーたちは戸惑っている。しかし一斉に動きだしたバグ・ビーストの様子を見て、幾人かのプレイヤーはログアウトを始めた。
「よし 」
安堵した瞬間、俺は全身に衝撃を受けた。
気がつくと、俺は吹っ飛ばされている。地面を転がりながら、いきなり起きた視界の変化を俺は理解した。つまり、サガが時を止めて俺にタックルを喰らわせ、遠くへ移動したのだ。そこは森の傍の草原だった。
「む……何をする」
俺は疲労の限界の中で身を起こした。まだ立てない。
サガは浮遊から地面に降り立ち、俺の目の前に立った。
「成り行き上、助けたが――お前に訊きたい事がある」
サガはそう言うと、皮肉っぽい笑みを浮かべた。だが、眼が笑っていない。
「グラード、お前は何をしている? AMGの運営の手先にでもなったのか?」
俺は抜いたままの剣を地面に置き、立てた右膝の上に腕を置いた。
「まあ…そのようなものだ。脅されてだが、AMGの命令で動いている」
サガの顔から笑みが消えた。だが、俺にも訊きたいことはあった。
「サガ……どうして、俺の前から姿を消した?」
俺はサガを見上げた。サガの瞳に、一瞬悲しみに近いものがよぎる。やがてサガは口を開いた。
「グラード、お前はあの日の事を覚えてないのか?」
「あの日とは――いつの事だ?」
「三年前、オレたちが10回目の1位クリアした、あの日だ」
俺は記憶を探るが、特にクリア以外の記憶はない。
「…何があった?」
サガが俺の眼を見つめている。ゆっくりと、噛むようにサガが言った。
「グラード、お前は記憶を消されている」
サガの顔には、皮肉な笑みすらない。そして俺には返す言葉がない。俺たちは、しばし見合った。
「……クリアした直後だ。オレたちは体力も魔法力も使い果たし、疲労困憊していた。そのまま地面に寝ころび、二人でクリアを喜んでいた時だ――」
サガが語り出した。俺はただ耳を澄ます。
「突然、数人の影が現れた。そいつらはヘルメットのようなものを被り、テカテカ光るライダースーツのようなものを身に着けていた。そう、今、デリーターと呼ばれてる連中に似た格好だ」
サガが眼を鋭く細める。
「そいつらはいきなり、お前の手に手錠のような道具を嵌めた。そしてお前を無理やり立たせて、何処かへ連れ去ろうとしていた。非実体化モードになれない、とお前は言った。強制的に実体化モードにする手錠だったと後から考えて判った。時壊魔法も絶空魔法も、もう使える魔法力がオレたちには残ってなかった。お前は抵抗したが、数人に抑えつけられ連行された」
サガが少し息を吐く。俺は――何も言えない。
「オレはお前を助けようとした……。しかし連中の持つ銃で撃たれた。すると、オレの身体に穴が開いた。そこだけ、データが削除されたんだ。オレは身体、脚、顔の半分を次々に撃ち抜かれ、身動きが取れなくなって這いつくばった。オレは動けないまま、連れ去られるお前を見つめる事しかできなかった……」
横を向いたサガの顔に、苦渋の表情が浮かんだ。俺はそこでようやく、口を開いた。
「俺は――どうなったんだ?」
「判らない」
サガが俺の眼を見た。
「ログアウトした俺は、お前――明の下宿部屋へと行った。だが、そこはもぬけの空で、PCやフロート・ピット一式も無くなっていた。オレはお前が、本体も拉致されたことを理解したんだ」
サガが、俺から目を逸らした。