ギガ・デリート
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皆には、俺がキアラから突然、別人になったように見えたろう。だが、そんな事に構っていられないほど、バグ・ビーストの大群が襲い掛かってきた。
「クロノス・ブレイク」
時が制止したように周囲の動きがゆっくりとなる。俺はクロノス・ブレイカーを引き抜いて、デリー
ト・モードに変えた。
「ギガ・デリート」
デリート・ソードになったクロノス・ブレイカーをさらにモードチェンジさせる。ガンの威力を剣に加えて、5mはある巨大な剣の姿へと変化させた。
「加速」
俺はさらに加速魔法を使い、まずぽめらの傍のバグ・ビーストを両断した。そのまま仲間たちの傍にいるバグ・ビーストを片っ端から斬っていく。バグ・ビーストは、もっと広範囲に現れていた。
俺はその場から駆け抜けながら、他のプレイヤーたちを斬らないようにバグ・ビーストを両断していく。しかしその数が多すぎる。百匹も斬り捨てたところで、時壊魔法が途切れた。
時が動き出す。バグ・ビーストの群れはまだまだやってきている。一瞬、バグ・ビーストの群れが動き、再びプレイヤーを襲おうとした。
「クロノス・ブレイク」
もう一度、時壊魔法を発動させる。動き詰めで息が上がる。腕が鉛のように重たい。だが俺は剣を振り続けた。魔鋼竜の身体を周回するように、プレイヤー傍にいるバグ・ビーストを全滅させていく。
「――くっ」
魔鋼竜の身体を一周して、元の仲間たちの傍へと戻ってきた。途端に時壊魔法の限界が来る。時がまた動き出した。
「――あれ? バグ・ビーストは?」
リスティが声をあげて周囲を見回した。恐らく、突然消えたように見えたのだろう。レオニードが、俺を見て口を開いた。
「キアラ、お前その姿は?」
黙る俺の代わりに、グレタが声を上げた。
「知ってる。その姿は、『時壊の剣士』グラード…」
グレタの言葉に、レオやリスティを含め、周囲のプレイヤーが驚きの表情でこちらを注視した。
「――まだバグ・ビーストの新手が来る。その前にこの怪物を攻略するんだ」
俺は息をつきながら言った。プレイヤーたちは我に返ったように、怪物の残骸を攻撃し始めた。
「俺たちでプレイヤーを守るんだ」
「けど、数が多すぎるわよ。三人じゃもたない」
ケイトがそう言った瞬間、不意に周囲に幾つもの影が現れた。ヘルメットにエナメルスーツ姿のデリーターだ。デリーターが、何班もこの場所に到着してきた。バグ・ビーストの新手も、何人ものデリーターが駆除し始めている。
これなら。俺はクロノス・ブレイカーを通常モードに戻した。
「クロノス・ブレイク」
周囲の動きが止まったように遅くなる。俺はクロノス・ブレイカーを振り上げると、怪物の残骸を滅茶苦茶に切り刻んだ。
「ウオオオォッ」
吠えた。この時壊魔法の間に、怪物を仕留める。時壊魔法は莫大な魔法力を消費する。もうこれが限界だ、次は無い。
「ク……」
魔鋼竜を切り刻むが、まだクリアにならない。元々、相当の大人数で制圧する前提のモンスターだろう。やはり、単独でダメージを喰らわせても、まだ遠かったか。
俺は疲労の限界がきて、足元がふらついた。倒れる前に膝を地面に着く。
「駄目なのか…」
俺は歯噛みをした。その時だ。
「――らしくないな」
男の声。俺以外の全ての時が止まっているこの時壊魔法の中に入ってくる者など、一人しかいない。俺は空中を見上げた。
紫の髪と、口元に浮かべた皮肉っぽい笑み。
「サガ……」
笑みを浮かべたままサガが空中から降りてくる。俺の傍に立つと、サガは左肩だけすくめてみせた。
「グラードが、弱音か?」
「気のせいだ」
俺は立ち上がる。その俺を見て、サガが笑った。
「相変わらずの強がりだよ。まあ、話は後にして、こいつを片づけるか」
「ああ」
頷いた俺に、サガが薬瓶を投げてよこす。回復ポーションだ。俺はそれを一息に呑み、僅かの体力と魔法力を回復させた。
「じゃあ、行くか」
サガの言葉に、俺は頷いて見せた。
「上下の同時攻撃だ」
サガが紫のマントを翻し、再び宙に浮く。サガは杖を握った右手を前に出した。




