6 絶空の魔導士サガ 混成チーム
妙な光景だった。
ノワルドの新エリア、『目覚めの広場』には、大勢のプレイヤーが集まっている。その中で、僕の傍に複数人。
右側に獅子頭のレオニード。そしてセクシーな剣士リスティとクールな魔導士グレタ。は、攻略を約束した仲間だから当然として。
左側には赤髪で剣士姿のケイト。と、嫌味な美形魔導士ユーリ。そして僕の一番傍に、何故かメイド姿の桜月ぽめら。
「――ちょっとキアラ、訊いていい?」
「は、はい」
リスティが腕を組んだまま、声をあげた。
「この人たちは、キアラの知り合いなのよね? まさかとは思うけど、これが攻略チーム?」
「ち、違うよ。え~と、こちら二人は初心者のケイトとユーリ。ノワルドの見学…に、来たんだ」
グレタが無言で、不審な横目を流す。そこにユーリが前に出てきた。
「急に入ってしまって申し訳ありません。よろしくお願いします」
胸に手を当てて軽く礼をする。ケイトはそれを横目でみてるだけで、何も言わない。その代りにリスティがさらに口を開いた。
「で、そのお嬢さんは?」
「桜月ぽめらだよ! よろしくね」
腰から身体を横に傾けて挨拶するぽめら。可愛いけど、明らかに場違いだ。リスティは、諦めたように前髪を手でかきあげた。
「――で、ぽめらが新しい治癒系なわけ?」
「ちゆ系ってなに?」
ぽめらがきょとんとして僕を見上げた。
「あははは、いや、彼女は特に職業ないんだ。この娘も見学…に来ただけ」
「見学者ばかりね」
「レオ、近くで見ると迫力だね~」
周囲の混沌をよそに、ぽめらはレオに近づいて口を開いた。
「なんだ? 俺のこと知ってるのか?」
訝し気な顔をするレオに近づいて、僕は耳元で囁いた。
「中は有紗なんだよ」
レオが驚いた顔を見せる。レオがまじまじと見ると、ぽめらはにっこりと微笑んだ。
「ところで、治癒系はどうするの?」
グレタが声をあげる。僕はあたふたと、そちらに向き直った。
「そうだね、マリーネをレンタルしておかないと」
そう言ってウインドウを開き、キャラレンタルのリストをめくる。が、マリーネの名前がない。
「あれ? おかしいな」
僕はマリーネを名前で検索した。該当者はなし。僕の心を動揺が襲った。
「いない。マリーネがレンタルできない……」
「だよね。わたしもさっき探したんだ。で、どうする? 特にあてがないんなら、わたしたちが普段レンタルしてるキャラを引っ張ってくるけど」
グレタの言葉に、僕は我に返りながら頷いた。
「そうしてもらえると助かるよ。ごめん、三日くらい前まではリストにあったのに……」
何かあったのだろうか? それとも、新しいチームの方針なのだろうか。何にしろマリーネはあてにできない。が、それ以上に、何か不穏なものを感じて、僕はマリーネの事が心配になった。
「ね~、もふもふしていい?」
「ああ、いいぜ」
ぽめらはレオのたてがみをもふもふしている。その間に、グレタは新しいキャラをレンタルしてきた。
現れたのは、水色の豹である。大きい。リスティを見ると、なついた様子で身体をこすりに行った。そういうキャラ設定らしい。
「おっきな猫さん!」
「猫じゃなくて豹よ。彼女の名前はサファイア」
わー、と声をあげてぽめらが撫でに行く。その隙に、ケイトが僕に近づいてきた。
「ちょっと、どういう事なの?」
「どういう事とは?」
ケイトが僕を睨む。
「なんでグラードじゃないのよ!」
「いや、普段はキアラでやってるから…」
「それに何? ライオンを除けば女ばっかりじゃない。あの、ふわふわした娘はなに?」
「…実は、僕の彼女です」
ケイトが目を剥く。
「貴方の趣味はああいうのなのね!」
いや、そうじゃないんだけど。というか、何故、僕は怒られているんだ?




