レナルテの管理AI
「ディグの誕生に、貴方は関わっています」
「俺には、そんな記憶はない」
再び、アンジェラが悲しい表情を見せる。俺を、憐れんでいるのか?
「話せないのか。なら質問を変えよう。お前は誰だ? 何者なんだ?」
「わたしはアンジェラ。レナルテの管理AIです」
アンジェラはそう言うと、不意に背を向けた。緩くウェーブにかかった長い髪が、金色の光を放ちながら風になびく。ゆっくりと歩くアンジェラに、俺はゆっくりとついて歩いた。
「アンジェラという管理AIなどいない、と言われたが」
「……以前は、このような姿を持ってはいませんでした。閉ざされた場所から、皆さんを眺めるだけ。それがわたしの在り様でした」
「それが…どうして、そんな姿になった?」
少女が振り返る。口元に、微かな笑み。
「多分、あなたのせい」
俺の?
「…どういう事だ?」
ゆっくりと、アンジェラの身体が宙に浮かんでいく。少女は、寂しげな表情をしていた。
「危機が…迫っています」
「一体、何が起こるというんだ?」
アンジェラは首を振った。
「判りません。ただ…もう、わたしにはどうする事もできない」
「俺にどうしろと言うんだ?」
宙に浮くアンジェラの手から、一枚の紙片が舞い落ちてきた。俺はそれを手に取る。写真であった。
三人の人物が写っている。何処か森を背景にした、高原だ。その真ん中にいるのはアンジェラだ。左右には、二人の男。右は剣士、左は魔導士のような格好だ。
「これは……ノワルドの写真か?」
「わたしを探して」
アンジェラが悲し気な笑顔で、そう伝える。俺は宙へ浮くアンジェラを見つめた。
「お願い、グラード……。望ましい世界を――レナルテの在り様を守って」
アンジェラは光を放ちながら上空へと浮かんでいき、やがて眩い陽射しのなかへ、溶けるように消えていった。
*
憤慨するユーリをよそに、俺はアンジェラと合った顛末をケイトに話した。
「それが――渡された写真?」
ケイトは写真を見ながら、腰に手をあてた。
「二人の男は誰なのかしら?」
「それが多分、アンジェラがいう『危機』を回避する手掛かりになるんだろう」
俺がそう言うと、冷静さを取り戻したユーリが口を開く。
「しかし危機とは何でしょう? 次のサミットに関わることか…」
「今夜の新エリア発表時に、何か起きる可能性も考えられる」
俺がそう言うと、ケイトが訊ねてきた。
「で、あんたはその新エリア探索に行くわけ?」
「仲間とな――キアラとして」
俺がそう答えると、ケイトは若干不機嫌な顔を見せた。
「じゃあ、私も連れて行きなさい」
「当然、わたしも同行しますよ」
俺は少しうんざりした。
*
新エリアは、時刻が一番早いノワルド・Jから解禁になる。僕は19:00のオープニングに合わせて、部屋で待機していた。
電話がかかってくる。有紗だ。
「もしもし、有紗?」
「明くん、あたし受かっちゃった!」
開口一番、有紗の明るい声が聞こえた。良かった、嬉しそうだ。
「そう、良かったね。有紗が望むことなら、それが一番だよ」
「今からそっち行っていい?」
「あ、今からノワルドのイベントがあるんで、リアルだと難しいけど」
「ううん、レナルテで逢いましょ」
「判った、それならいいよ」
僕は電話を切ると、フロート・ピットを着けてベッドに寝る。ホームボックスでミラリアを選択して、僕のレナルテ上の部屋で有紗を待った。と、その部屋の真ん中に少女が現れた。
「じゃじゃじゃーん!」
小柄な少女だ。髪は長めのピンク色で、左右をリボンで結んでいる。パープルのふわふわのスカートは、裾が細かい白のレースで縁取られている。肩に白いフリルのついたブラウス。ふわふわでキラキラのザ・少女という感じのいでたちだ。
「あ……あの…」
「こんにちは。桜月ぽめらだよ!」