マテリアル・キャプチャー
「加速」
加速魔法で駆け抜けながら、俺は三体のバグ・ビーストを寸断する。ケイトがそれに対し、驚きの顔を見せた。
「え? どうしてその剣で斬れるの? デリート・ソードは?」
「ガンとソードをクロノス・ブレイカーに組み込んだ。モードで使い分けができる」
「そんな事できるの? プログラムの記憶はないって言ってたじゃない!」
「一番高度で複雑な領域は覚えていないという意味だ」
俺とケイトのやりとりをよそに、バグ・ビーストどもはまだ辺りをうろついている。
「なるほど、魔法ね」
ユーリはそう呟くと、銃を持ったまま右手を顔の前にかざした。
「増加」
その姿のユーリが、突如、分離する。二体から四体、四体から八体、八体から十六体にユーリが増加した。十六体のユーリは一斉に駆け出すと、右手に持ったガンで撃ち抜き、左手のソードでバグ・ビーストを撫で斬りにしていく。
「……なんか、あの人異常に上手くない?」
「活き活きしてるな」
俺とケイトは、増殖したユーリの活躍に呆気にとられた。しかし間髪を入れず襲い掛かるバグ・ビーストの撃退にこちらもぼんやりとはしていられない。
「これだけバグ・ビーストが出現しているのに、何故、デリーターが出てこない?」
俺は途中で気づいて、ケイトに声を上げた。ケイトが足を止めて、本部との連絡を試みている。
「――どうも少し前にノワルドEとIで、バグ・ビーストが大量出現してたらしいわ。デリーターはそっちの対処に追われて、こっちまで対応できないみたい」
「じゃあ向うのエリアにアンジェラが現れることも考えられるな」
俺がそう呟いた時、増加してたユーリから声があがった。
「な、なんだ?」
光が歩いてくる。眩しさの中で目を凝らすと、それはやはり金髪の少女――アンジェラだった。
だがバグ・ビーストは、向かってくるアンジェラにも襲い掛かろうとした。
「おやめなさい」
アンジェラが掌をかざすと、襲いかかろうとしたバグ・ビーストの群れが動きを止めた。
「あなたたちは帰りなさい」
アンジェラがそう告げると、バグ・ビーストは静かに去っていく気配を見せる。その中で、ユーリが呟いた。
「貴女がアンジェラですね」
十六体のユーリが、一斉に手錠を取り出す。ユーリがアンジェラに向かおうとした次の瞬間、アンジェラが消えた。
「クロノス・ブレイク」
俺は時壊魔法を発動させる。アンジェラは超高速移動でユーリの分身を次々と掌で打ち抜き、消滅させていく。だが、ユーリは自分が制止した状態で、自分が攻撃されている事にすら気づいていない。俺はアンジェラを止めるべく迫った。
「お前には、色々と聞きたいことがある」
俺はクロノス・ブレイカーのモードを、デリートから拘束に切り替えた。剣で斬りかかると、アンジェラが掌をかざして防御する。見えない力場のシールドによって、剣が防御された。
しかし次の瞬間、クロノス・ブレイカーから衝撃波が放たれた。
「ああぁっ」
アンジェラが悲鳴を上げた。と、同時に驚きの表情を見せる。強制的に実体化モードが延長されたのだ。アンジェラは浮遊して逃げ出した。俺はそれを追う。
森を抜け、草原に出る。辺りには黄色い花が一面に咲いていた。その黄色い花弁を蹴散らしながら、俺は少女を追う。やがて俺はアンジェラの細い腕を掴んだ。
捕まれたアンジェラの瞳が、俺を見つめる。
「待て。……別に手荒な事をするつもりはない」
俺は腕を離した。アンジェラも、今度は逃げない。
「お前は以前、バグ・ビーストの事をディグと呼んでいたな? そもそも、あれは何だ?」
少女の白金の髪が風に揺れた。
「ディグは……情報の海に生まれた新しい生命体」
「生命体? あれがか? 何故、そんなものが生まれた? 誰かが創ったのか?」
俺の問いに、アンジェラは悲し気な表情を見せた。
「個人情報に関わることはお話しできません」
「では、俺についての質問はどうだ? お前はあのディグについて、『貴方にも関わりがある』と言ったな。俺に関わりがあるとは、どういう事だ?」




