表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/115

Vドル、オーディション

 僕の問いに、有紗は首を振った。


「ううん。今のところは、まだみんな可愛いなあって感じ。…けど、あたし自分が、本気で女の子を好きになるなんて思ってなかったの。だって、男の子も好きだし。けど、明くんはちょっと女の子っぽいから好きになったのかなあ」

「一応、僕の事もまだ好きなのね?」

「もちろんよ。けど、明くん一人、って事じゃあなくなってしまうわ。……明くん、怒るよね?」


 そんな愛らしい涙目で訊かれて、怒れる訳がない。僕は思わず苦笑を洩らした。


「怒らないよ。ちょっと残念なだけ」

「明くん、本当に優しいのね。じゃあ、友達でいてくれる?」


 友達かあ、残念な響きだ。僕はため息をつきながらも笑ってみせた。


「いいよ、友達ね」

「本当? ありがとう明くん。じゃあ、あたしたちセックス・フレンドね」


 え? 


「え? そこはするの?」

「…いやなの?」

「嫌じゃないけど……ああ…そういう感じ…」


 混乱だ。これって男の方がよく言うような事なんじゃ? まあけど、有紗が可愛いので、とにかく認める。

 そこで落ち着く間もなく、有紗はわっと僕に寄ってきた。


「ね、聴いて明くん!」

「き、聴いてるよ」

「マネージャーがひどいの!」


 有紗は憤慨した顔で、僕のすぐ傍まで迫ってきた。


「どうしたの?」

「もう、あたしがタレントとして市場価値がないって」

「…それは酷い。そんな事はないよ。本当にそんな事言われたの?」


 有紗は少し膨れると、下を向いた。


「そう、直接あからさまに言われたわけじゃないんだけど…。もう年齢が結構いってるから…とか、他にも沢山モデルはいるとか……そういう事言うの」


 ま、そうかもなあ。有紗は僕より一つ年上の26歳。これから売り出すとなると、中々に難しいだろう。


「それで…なんて? もう辞め時だとか言われた?」

「なんかね…オーディションを受けろって」

「オーディション? いいじゃない。つまり、まだ可能性がある場所なんでしょ?」

「それが――Vドルのオーディションなのよ!」


 有紗は真顔で僕に訴えた。

 Vドル。それはバーチャル・アイドルの略。美少女アバターでアイドル活動をしてる人たちの事だ。


「い…いいんじゃないかな」

「どうしてなのよ! あたしはスタイルもいいし、顔だって結構いい方だと思うの。なのに、わざわざそれを隠して美少女のアバターでアイドルやれっていうのよ? どうしてなのよ!」


 有紗は憤りを僕にぶつけてくる。僕が困っていると、上目遣いの有紗の瞳に、じわっと涙が滲んできた。


「ひどいわ…。あたしのプライドはボロボロだよ」


 わっと有紗が、僕に抱き着いてきた。胸で顔を埋めて泣く有紗の頭を、僕は優しく撫でる。


「大丈夫。有紗が魅力的な事は僕が一番よく知ってるよ。いいんじゃないかな、オーディション。受けてみれば?」

「えぇ?」


 涙顔の有紗が顔を上げた。僕は頬笑んで見せる。


「有名なVドルになったら、正体を明かせばいいんじゃない? そうしたらみんな驚くよ。売れたり有名になったりするのにさ、入り口は一つじゃないんだから、何処でもまず挑戦してみたらいいんじゃないかな」

「明くん……」


 有紗は鼻をすすって、僕から離れた。


「そうだね。入り口は一つじゃないよね。ありがと、明くん。あたし頑張ってみる」

「うん。Vドルってのも、きっと大変なんだと思うよ」

「そっか、そうだよね」


 有紗が涙が乾いた笑顔を見せた。やっぱり可愛い。この笑顔は独り占めで、僕は構わないのだが。


「そのアバターって、もうお披露目されてるの?」

「うん。6人分いて、みんなキラキラで可愛い感じ」


 なるほどね。アバターが先にあって、そこに入る人の方をオーデションするのか。


「オーディションって、沢山受けるの?」

「あんまり聴いてないけど、結構受けるみたい。その6人で、『バーチャル・クラウン』っていうところの三期生って事みたい」


 アイドルにもVドルにも詳しくない僕だが、少し聴いた事くらいはある事務所だ。


「それで、オーディションはいつなの?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ