ベルベット・タウン
グレタが流し目で僕を見る。セクシーなリスティが人気だけど、クールなグレタも妖艶な美女だ。まともに見つめられると、クラクラする。
「そうだね、二人がそれでいいなら、それで行こう」
「あ~あ、マリーネちゃん好きだったのになあ」
リスティがぶっちゃける感じで、伸びをする。僕とレオは顔を見合わせた。
「それって…その~……どういう意味で?」
僕はリスティにそう訊きながら、グレタの方を見た。グレタは余裕の感じで微笑を浮かべている。
「馬鹿ね! 妹みたいって事よ! ね?」
「あたし達、二人ともマリーネが気に入ってたのよ。いい子だったわ、本当」
リスティの言葉にグレタが応じた。続けてグレタが話をする。
「ただ…ちょっと気になる事があるんだけど」
「なんです?」
「マリーネの入った『アルティメット・フレイム』、前の治癒系僧侶はラミアっていう子なんだけど……最近、『ベルベット・タウン』で、姿を見たって噂があるのよね」
僕とレオは顔を見合わせた。
『ベルベット・タウン』は、レナルテにおける歓楽街として有名なワールドだ。そこにいけばアバターとのセックスができる。商業的性行為が禁止されてる日本でも、アバターによるセックスは今のところ禁止されてない。そもそもレナルテにおいては、ワールドが何処の国に属するかは極めて難しい問題だ。
『ベルベット・タウン』においては、ミラリアによる行為はもちろん、どんなアバターとのプレイも楽しめる。ノワルドに使う比較的リアルタッチの3Dもあれば、少女漫画風の手描きタッチのアバターの店もある。女性客のためのイケメン揃いの風俗店もあれば、特殊なプレイをする専門の店も多い。客をとるのは人が入ってるアバターが多いが、AIアバターの場合も多い。
…という、話だ。いや、行ったことないから本当に。これくらいは、まあ一般常識として知ってるという程度です。いや、そんな事を気にかけてる場合じゃない。
「ラミアって子はアルフレを抜けた後、ベルベット・タウンで働いてる、ってことか?」
「…か、ラミアのアバターが買い取られたか、だろうね」
レオの疑問に、補足をつけた。そこにグレタが話を続ける。
「少し気になったんで調べたんだけど、どうもアルフレのサポートメンバーとして入って、その後、ベルベット・タウンで働くようになった女の子が、何人かいるのよ。まあ、全員ってわけじゃないんだけど」
「アルフレが結構、上位のチームなんでログを見られる率が高いのね。それで、サポートの女の子も人気が出る。…で、ベルベット・タウンにいると、話題になるのよ」
リスティがグレタの後に言葉を続けた。
「ね、大丈夫なのかしら、マリーネちゃんは?」
リスティが、本当に心配そうな表情で口にする。僕とレオは、言葉を失ったまま眼を見合わせた。
*
突然、有紗が僕の部屋にやってきた。レナルテではなく、リアルの部屋にである。
「ごめんね、突然」
済まなそうに有紗が言った。絨毯の上に座った有紗の斜めに僕も座る。
「どうしたの?」
「明くんに、謝らなきゃいけない事があるの」
「何?」
「あたし……明くんのステディじゃいられない」
え? えぇ?
「な、なに突然、どうしたの?」
動揺する僕をよそに、有紗はため息をついて話を切り出した。
「…うちの事務所にね、新しい子たちが入ってきたの」
「うん」
「その子たちを見てて『わあ、可愛い』って思ったのね」
なんか、ちょっと前に聴いた話だ。
「それって、その子たちを妹みたいに思ってるんだって、前は思ってたの」
「……『前』は?」
そこで突然、有紗は僕の方に顔を向けた。
「そう! そうなの。前はそう思ってたの。けどね、今回は違うって判った。最近、明くんと色んな事したじゃない? あたしは凄いあたしの事が好きなんだって思ってたけど…そうじゃなかったの。どうもあたし……女の子の事が好きなのよ」
有紗の顔は至って真剣だ。思い付きや、気の迷いではないらしい。
「明くんの事は好きよ。けど…女の子の事が好きな気持ちが抑えられないの。あたし、きっと浮気をするわ。そうなる前に、明くんにちゃんと言わなきゃって思って。…あたし、ヘンだよね」
「ヘンだとは、思わないよ。正直に話してくれて、ありがとう。…それで、誰か特定の好きな子がいるの?」




