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傭兵との戦闘

 男の背後まで来ると、ケイトが口を開いた。


「何処の組織?」

「CIAだよ」


 男の答えを聞いて、ケイトの表情が一瞬変わる。その瞬間だった。

 男は身体を倒して両手を着くようにして足を延ばし、ケイトの足を刈りとる。一瞬の早業に、ケイトの身体が倒れそうになる。それを堪えたが、男は素早い動きで身を起こしてケイトに向かって腕を振り上げた。


 ケイトの持っていた銃が、森の中へ転がる。男の手には、いつの間にか大きなナイフが握られていた。


「ケイトさん!」


 ケイトの右手から鮮血が流れている。男が横なぎにナイフを払うのを、ケイトは素早く後退して躱した。が、その腹に男が横蹴りを入れる。


「うっ!」


 ケイトが吹っ飛んで、地面に倒れた。


「形勢逆転だな」


 男はナイフを片手に、にやりと笑ってみせた。ちらりと僕を一瞥した。


「そっちのガキは素人だな。匂いで判るぜ」


 男が歯を剥いて笑った。ケイトに眼を移す。


「顔を切り刻まれたくなかったら、おとなしく俺を楽しませろよ」


 男はケイトに近づいていく。ケイトは手の傷と腹部の衝撃で、立ち上がるのも辛そうだった。

 僕は辺りを見回した。1.5mほどの棒が落ちている。僕はそれを拾い上げると、ケイトの傍に駆け寄り男の前に立った。


「なんだ、ガキ? そんな棒きれで何しようってんだ?」


 僕は棒を中段に構えた。


「ケイトさんに手出しはさせない」


 僕の言葉を聞いて、男が笑い出す。


「おいおい、お前素人だろ? 顔に怯えが出てるぜ。俺は戦場で何人も殺したプロの傭兵だよ。だが安心しな、お前は殺さねえ。女を楽しんだ後に、たっぷり痛めつけてやるから、お前はそこで見てな」

「下品な馬鹿は、ゴミ屑以下だ」


 僕の言葉に、男の顔色が変わった。笑いが消え、どす黒い憎悪が剥き出しになる。


「止めて! 明、逃げろと言ったでしょ!」

「……もう、逃がさねえよ。こいつは今すぐ痛めつける」


 男がスタンスを開いてナイフを構える。僕は棒を身体の後ろに引くように、左前の真半身に構えた。

 男が踏み込んでくる。瞬間、僕は真半身から右半身に身体を切る。僕の棒が男の手を捉えていた。


「くっ」


 男が呻いた瞬間、ナイフは横に飛んでいる。僕は棒を廻すように振り上げると、男の側頭部に打ち込んだ。


「う……」


 男のサングラスが飛ぶと、男はものも言わずに顔から地面に倒れ込む。


「ふぅ……」


 僕はやっと息を吐いた。


   *


 二時間後、僕は市街地にある病院にいた。

 男を倒した後、警察と救急車を呼び、怪我をしたケイトを搬送するのに付き添って病院へ来た。現れた警察は、ケイトが何か告げると、それ以上は追及しようとしなかった。


 ケイトはすぐに緊急手術になり、僕も事故の後遺症を検査した。後から症状が出る可能性もある、とは言われたが僕はむちうちにもなっておらず、今のところ元気である。僕は空いている病室の一角に待機するように言われ、表には警官が立っていた。要は軽い軟禁状態である。

 そこに看護婦が押す車椅子に乗ったケイトが現れた。


「ケイトさん、大丈夫ですか?」

「車椅子なんていいっていったんだけどね。身体は大丈夫。けど手は10針縫ったわ」


 ケイトは包帯に巻かれた手を見せた。改めて見ると、頭にも包帯を巻いている。看護婦に促され、ケイトがベッドに横になった。看護婦が出ていくと、ケイトが上半身を起こして苦笑してみせた。


「貴方に助けられるなんてね…。貴方、何者?」

「ただのゲーマーのサラリーマンですけど」


 ケイトが肩をすくめる。


「ただの…な訳ないでしょう? あの後ろに構えたところからナイフを持った手を打った時、早すぎて全く見えなかったわ」

「あれは――剣術の動きなんですよ」


 僕は簡単に解説した。


「剣を身体に隠して軌道を悟らせずに、手で打つのではなく、身体を正面に向ける腰の切りで太刀を出す。本来は刀のような重いものの方が速さが出る技です」

「それにしても…よくプロの傭兵相手に落ち着いて戦えたわね」

「落ち着いてなんていませんよ。ただ、少しああいう相手に慣れてただけです」


 僕は苦笑して見せた。


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