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雪人の実家

「あの、雪人くんはいますか?」


 女性は警戒した顔つきになり、僕たちを見た。


「あなた達、誰?」

「あの……僕は神楽坂明と言います。大学で、雪人くんと友人でした」


 僕がそう言うと、女性は不意に表情を和らげた。


「ああ…あなたが……。よく、明くんの事は話してたわよ」

「そう…ですか」


 意外な気がした。と同時に、僕の事を話していたという事実に、少し嬉しくなった。


「僕の事を、どんな風に話してました?」

「頭のいい、お人好しの子だって。慣れない東京で世話になったって言ってたわね」

「いや……僕の方が、彼には世話になりました」


 僕が正直なところを口にすると、夫人は相好を崩した。


「そう言えば、ちょっと見は女の子みたいな顔だって言ってたわね。貴方、確かにそうね」


 夫人はそう言うと、少し笑ってみせた。


「大学卒業前に、急に彼がいなくなったんです。あの時、何があったのか、ご存知ですか?」

「いいえ。わたしも多分、その時からあの子に会ってないのよ……。むしろ、わたしの方が何があったのか聞きたいくらい」


 夫人はそう言うと、僕に目を向ける。という事は、雪人はこの母親にとって三年間も消息不明と言う事なのだ。


「――ご心配、ですよね」

「そうね……。けど、わたしは昔から、あの子が何を考えてるのか、まったく判らなかったから…。帰省した時に貴方の事を話すのも、初めて友達の話しを聞いたような感じだったの。だから東京でも、うまくやれてるんだって、思ってたんだけどね…。色んな人が訪ねてきたけど、もう三年も連絡もない。何処にいるのか、まったく判らないのよ」


 夫人は寂しそうにそう言った。


「色んな人が訪ねてきた?」


 ケイトが横で声を上げる。夫人がケイトの顔を見た。僕は夫人に訊ねてみた。


「訪ねてきた人たちというのは、どんな人たちですか?」

「警察やら、外人やらね…。あの子は何をしたのかしら? あなた達、なんであの子を探してるの?」


 僕は返答に困った。が、とりあえず口を開いた。


「実は僕らも、それを知りたくて、雪人くんを探してるような次第なんです。何か、心当たりはありませんか?」

「心あたりと言われてもねえ……」


 女性がため息をつく。と、ケイトが僕に顔を寄せて囁いた。


「家の中に隠れてるかもしれないわ。そうでなくても部屋に手がかりがあるかもしれない」


 ケイトが目つきで圧力をかけてくる。仕方なく僕は、夫人に言った。


「あの、雪人くんの部屋を見せてもらう事はできませんか? 何かヒントがあるかもしれないんで…」


 夫人はちょっと怪訝な顔をしたが、それでも言った。


「いいわよ、どうぞ上がって」


 僕らは家の中へと通される。二階に上がると、そこに雪人の部屋があった。 

 小さな部屋で、ベッドと机があり、棚にアニメのプラモデルが陳列してある。部屋の隅には、ダンボール箱が数箱、積まれたままだった。恐らく、普通のオタクの部屋だ。

 僕はふと気づいた。


「パソコンがありませんね」


 夫人がそれに答える。


「そうなのよ、パソコンは大学の下宿部屋に持って行ったから、元々、此処にはないの。けど、下宿部屋にも残ってなかったのよ」


「下宿していた部屋はどうしたんですか?」

「いなくなってから三か月後に、大家さんから家賃滞納の知らせがきたので、滞納分を払って荷物を引き上げたわ。荷物はまだダンボールのままね」

「ちょっと、中を見ていいですか?」


 夫人が頷く。僕はダンボールを一つずつ開けていった。着替えや雑貨を覗くと、中身は主に大学で使う教科書か文献だった。そこに何冊か授業で使ったらしいノートもあったが、特に注意を引くような記述もない。ノートをパラパラめくっていた時、最後のノートの終わりの方で、急にケイトが声をあげた。


「待って!」

「どうしました?」

「その単語」


 ケイトが指さす。そこにはメモのように、一つの英単語が書かれていた。

『Liberate』と書かれている。


「……リベレイト?」


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