表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/115

NIS

 僕の問いに、ケイトは頷いた。

 NIS(Neo Islamic State)は、ISILあるいはISと呼ばれたイスラム過激派組織、あるいはそれが建国した国を前身に持つ、シリアの中に勢力を拡大している国だ。世界でテロ活動をしたり、自国内の女性に対する人権侵害の政策などを見ても、すこぶる印象が悪い。


「どうして、雪人がNISに関わったりしてるんです?」

「それはこっちが聞きたい事よ。貴方たちが知り合いの頃、相良雪人にそういう一面はなかったの?」


 雪人の一面――。

 そう言われて、僕は気づいた。僕は雪人の事を何も知らないのかもしれない。一緒にゲームをして授業を受けたけど、彼がなにを見ていたのか、何を考えていたのか。そして、どうしてあの日、僕から去っていたのか。


「……知ってる限りでは、雪人にNISに関わるような気配はなかったと思いますが…」


 僕の、小さな胸の痛みを抑えた言葉に頓着する様子もなく、ケイトは話しを続ける。


「相良雪人はNIS内外における、抵抗運動に加わったか、それを支援している。それでNISが国際的に指名手配を出してるのよ。イスラム原理主義者たちにとっては、彼はテロリストという扱いになるわけ」

「それはだけど、西側諸国にとっては保護対象なのでは?」

「イスラムの勢力は内部紛争が多いから、彼もその意味でイスラム原理主義者なのかもしれない。そういう意味では、西側にとっては彼は要観察対象といったところね」


 雪人が…テロリスト? そのイメージが、僕にはどうしても沸かない。


「なににしても、本人が保護を求めてきてない。現在、相良雪人は消息不明よ」


 そこで僕は、ようやくこの旅の意味に気付いた。


「長野って、そういえば雪人が故郷だって言ってた  」

「そう。彼は長野県の戸隠村出身。そこに彼の実家があるわ。もしかしたらそこに潜伏してるかもしれないし、そうでなくてもなんらかの足跡が残ってるかもしれない」

「雪人を見つけたら、どうするつもりですか?」


 僕の問いに、ケイトは厳しい表情で答えた。


「まず、彼がアンジェラかどうか確認するわ」

「アンジェラのやってる事が、イスラム原理主義と関係あるんでしょうか?」

「例えばバグ・ビーストを使って、世界中に広まってるレナルテに対し、なんらかの破壊活動を行う予兆かもしれない。いわばそれは世界的なサイバーテロになるわ」


 ケイトの言葉の意味の深刻さに、僕は少し震えた。


「バグ・ビーストは文字通りのバグではなく…アンジェラが用意したサイバーテロ・ウィルスの可能性がある、と?」

「そうね。けど今のところ、まだ『ノワルド・アドベンチャー』以外のレナルテに出現したという報告はないわ。けど…これは時間の問題かもしれない」


 雪人がそんな事をするとは、到底思えない。僕は言葉を失って黙り込んだ。


「それじゃ長野まで三時間。あたしは寝るから、長野に着いたら起こして」


 そう言うとケイトはシートをリクライニングさせ、眼を閉じた。あっという間に寝息を立て始める。どうもこの人、寝てなかったらしい。僕は独りで、長野に向かう景色を眺めていた。


   *


 長野インターを出ると、遠景に山が見えてきた。まだ白い雪が山頂付近に残っている。その奥に襖のように連なる連峰は、真っ白な壁のように視界を囲んでいた。残雪が残る景色は、まだレナルテでも表現されてない自然の美しさだった。


「ケイトさん、長野に着きましたよ」


 僕は隣のケイトを起こした。ケイトがのろのろと身体を起こす。


「よく寝たわ…。これから自動運転の難しい地域に入るのね。面倒」


 不機嫌な顔をして、車内に搭載されたナビを起動させた。既に行き先は入力されているらしかった。

 長野市街地を通り抜け、山に入る。山は新緑が瑞々しく輝き、樹々からの木洩れ日が車窓に差し込んだ。集落は山の中腹部にあり、段々に作られる畑を横に見ながら車を進めていった。

 やがて一件の、古い造りの家にたどり着く。ケイトはそこで車を停めた。


「此処ね」


 僕とケイトは車を降りて、家を訪ねた。

 チャイムを押すと、擦りガラス製の横開きのドアが開く。どうやら鍵は開いていたらしかった。


「どなたさんですか?」


 中から現れたのは、年配の夫人だった。ほとんど化粧っ気はなく、ラフな格好をしている。スーツで現れた外国女性に、少し驚いた顔をした。


 ケイトが僕を肘でつつく。あ、そうか。この女性はARグラスも翻訳機も着けていない。ケイトがそのまま話しても、女性には伝わらない可能性が大だ。僕は口を開いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ