ホーン・ブラック
「『トゥルー・ソード』で、誰に学んだ?」
俺は問うた。その間に、奴が距離を取る。
「『ホーン・ブラック』のアルデバラン教官だ」
「…なるほど」
俺は理解した。
「もう充分だ。終わりにしよう」
「終わりにだと――?」
ドーベルが顔を歪める。
「貴様っ、何様のつもりだ!」
ドーベルが最速の踏み込みで斬りかかって来る。避ける事は出来ない。だが、それは俺の待っていた攻撃だった。
奴の剣が俺に襲いかかると同時に、俺は僅かに踏み込んで奴の来る位置に刀を振った。
ドーベルの剣が俺に届くより先に、クロノス・ブレイカーが奴の眉間を割る。ドーベルの剣が空を切る。と同時に、俺の刀が奴を上から下までを斬り割った。
「がぁっ――」
ドーベルが目を剥きながら、呻き声をあげた。
「な…なんだ、これは……」
「剣技だ」
俺は刀を納めた。ドーベルが地面に倒れると同時に、決闘終了の音が響く。途端に、風景が元の青の沼の傍に戻った。
「ドーベル!」
「しっかりしろ!」
アルティメット・フレイムのメンバーがドーベルに駆け寄ってきた。エリア攻略中にHPがゼロになると、そのエリアでのレベルがゼロになり最初の地点に戻される。しかし決闘ではそういうリスクもない。が、HPがゼロになるという事は、攻略中でも決闘でも相当の疲労感を伴う。ドーベルは仲間に肩を借りながら、よろよろと立ち上がった。
「『ホーン・ブラック』は金を払えば、どんな奴でも教えてもらえる場所だったな。思い出したよ。…貰うのはこいつにしておくか」
俺はウィンドウに表示された奴の所持品から、加速の宝石を一つ選んだ。決闘で勝利すると、相手のプロテクトのかかってない所持品から、アイテムを一つ奪える。
ドーベルが憔悴しきった顔で、俺を睨んだ。
「……このままでは済まさんぞ、グラード」
ドーベルはそう言うと、ウィンドウを開いてログアウトしていった。仲間もそれに倣う。格闘家が、マリーネに声を荒げた。
「今日は終いだ! お前もさっさとログアウトしろ!」
マリーネは、こちらを見つめていた。俺は言った。
「仲間をよく選ぶことだな」
マリーネはもの言いたげな表情を見せた後、無言でログアウトしていった。
*
「あの~…」
僕は恐る恐る、画面に映るケイトに話を切り出した。
「なに?」
「ちょっと明日、お休みが欲しいんですけど…」
「なんですって?」
ケイトは、あからさまに苛立ちの顔を見せた。
「私はまだアンジェラの姿も見てないのよ。よくお休みだなんて言葉が出てくるわね」
ケイトの言葉に、僕は慌てて弁明した。
「いえ、あの、僕らが捜索を続けて10日になりますが、どうも最近はデリーターが増員したらしく、僕らが行ってもほぼデリーターがバグ・ビーストを片づけてるじゃないですか。あの早さでは、アンジェラもそれを阻止することができないんじゃないかと」
ドーベルと決闘した後くらいから、その傾向が強いと思ってきた。
「なので、もうこの作戦も終了でいいんじゃないかと…」
ケイトがじろりと僕を睨む。美人過ぎるので、画面越しでも恐い。だが、ケイトは少し息をついて言った。
「そうね……少し休みましょうか。けど、作戦はまだ終わらないわよ。バグ・ビーストの出現頻度は上がってる。別のやり方を考えておくわ」
「そうですか、ありがとうございます!」
僕は嬉しさに跳びそうになりながら、通信を切った。
急に休みをもらったのは、急に有紗が休みがとれたので会いたいと言ってきたからである。僕は翌日、いそいそと待ち合わせ場所に出かけた。
新武蔵野市のカフェに、有紗の姿があった。僕の姿を見つけると、有紗は笑顔で手を振ってきた。ああ、なんて可愛いんだ。
「お待たせ」
僕は有紗の席に近寄り、向かいの席に座った。
「ごめんね、急に。よくお休み取れたね」
有紗が微笑して言う。僕も笑い返した。
「うん、新しいプロジェクトのリーダーが理解ある人でさ、最近、休んでないからどうぞって」
「へ~、いい人ね」




