ドーベル
ただし、決闘で時壊魔法を使ったことはない。だが俺は決闘でほぼ全勝していた。動画を公開してからは、なお一層申し込みが相次いだ。その全てを引き受けても、俺は負けたことはなかった。
ドーベルが俺を見ながら、口を開いた。
「あんたに負けてから、俺はプライドをズタボロにされて、ゲームを止めようかと思ったほどだ。だがオレは、オレ自身の力を上げて、アイテム力も上げるために、つぎ込める金はみんなつぎ込んだ。そうして再試合を挑もうとした矢先、あんたは突然いなくなった。もう、このゲームに飽きて消えたんだと思ってたぜ。だが、こうしてまたあんたに合えるとはね。――あんた、運営側の人間だったのかい?」
「違う」
俺は手短に答えた。ドーベルはなおも問い続ける。
「じゃあ、あの変な黒い化物はなんだ? あれはモンスターじゃねえだろ」
俺は返事をしなかった。ケイトも何も言おうとしない。ドーベルは肩をすくめた。
「だんまりかよ。まあいい。それよりグラード、オレと勝負しろ」
ドーベルは俺に挑むような眼でそう言った。
「言っておくが、三年前のオレとは違うぜ。オレは『トゥルー・ソード』で修行もして、加速アイテムも手に入れてる。今のオレなら、あんたに引けをとらないつもりだ」
『トゥルー・ソード』という言葉に、無意識に俺の身体が反応した。俺は口を開いた。
「いいだろう」
「ちょっと、グラード! あたし達、そんな事してる場合じゃないでしょう?」
「好きにさせてくれ」
俺はケイトを見る。気の強そうなケイトの顔が、困り顔になった。
「もう、勝手なんだから!」
俺のウィンドウに決闘の申し込みが来る。俺はYesのボタンを押して、決闘を受けた。
突然に、辺りの風景が青の沼の傍から円形の闘技場へと変わる。ケイトやアルティメット・フレイムのメンバー達は、客席へと遠ざかっていた。
闘技場の中にいるのは、俺と奴の二人だけ。
ビィィィッ、と笛の音が響く。決闘開始の合図だ。
ドーベルがにやり、と笑って剣を抜いた。見事な長剣だ。何がしかの魔法特性を持つ代物に違いない。俺はクロノス・ブレイカーの鞘に手をかけた。
「加速」
加速魔法をかけつつ走り込みながら、一気に奴との間合いを詰める。そのまま横なぎに抜刀し、奴の胴を払った。
が、その刀が空を切る。
ドーベルが薄笑いを浮かべながら、後退してこちらの刀を見切っていた。
「加速魔法を使うのは、お前だけじゃない!」
ドーベルが一回転して身体を翻すと、横から剣で斬りかかって来る。俺はその攻撃をかろうじて刀で受ける。と、ドーベルは左掌をこちらに向けていた。
「ボム!」
掌から炎弾が発射された。一発目は姿勢を変えて躱したが、二発目は動けない腹部に撃ってくる。直撃を喰らう、と思われる瞬間、俺は地面に向かって前転してそれを躱した。
身体を起こす際を狙い、ドーベルはなおも追撃を撃ってくる。俺はその炎弾を刀で斬り捨てた。
「ハッ! ざまあないな、あのグラード様が地面を這いつくばるとはよ! 見たか、やはり三年前とは違う! 今のオレはあんたにも等しい速さと強さを持っている!」
ドーベルが息巻いて斬りかかってくる。確かに俺と同様の速さだ。加速魔法で凄まじい連撃を繰り出してくる。俺はそれをなんとか防いでいた。
そして気づいた。奴はオレより速い。俺が5%速さを上げてるとしたら、奴はもう少し上をいっている。
「オラオラ、防戦一方かよ! どうしたんだよ、最強の剣士はよ!」
ドーベルは剣技に加え、炎弾を撃ってくる。さらに、剣の鞘から炎の鞭が自動で繰り出されて来た。
「……思い出したぞ」
攻撃を防ぎながら、俺は呟いた。
ドーベルが、少し目を見開く。
「挑戦者の中に、金にあかせてアイテムをかき集め、剣技が全くおそまつだった奴がいた。あれはお前だったか」
俺の言葉を聞いたドーベルの顔色が、一瞬にして変わった。
「貴様――殺してやる!」
ドーベルが渾身の力で打ちかかって来る。俺はそれを受け止めた。力が拮抗し、ギリギリと刀身が音をたてる。
顔を寄せたドーベルは、憎しみに満ちた目で俺を睨んだ。
「そうだ! 貴様は負けたオレに向かって『剣技がなっていない』とぬかしやがったんだ! だからオレは『トゥルー・ソード』で師匠について、剣技を学んだ。お前に思い知らせてやるためだ!」