アンジェラとの遭遇
俺は時壊魔法を発動させた。
一瞬にして、跳躍したバグ・ビーストが空中で固まる。俺はデリート・ソードを抜くと、そのバグ・ビーストに斬りつけた。
が、そのデリート・ソードが、途中で見えない壁にぶつかったかのように止まる。
「なに?」
俺は気配を感じて横を振り返った。
燦然と光を放つ少女が、静かに掌をこちらに向けている。
「アンジェラ」
プラチナの髪が輝きながら揺れている。白いドレスをまとった少女は、俺を見つめた。
「おやめなさい」
アンジェラは言った。何処かで見たような…懐かしさを感じる面影。しかし間違いなく、初めて出会った少女だ。アンジェラは俺の時壊魔法の中で普通に動いている。明らかに、同じ力を持った者でないとできない芸当だ。
「お前は――サガなのか?」
「わたしはアンジェラ」
俺は動いた。デリート・ソードを横に構え、突進する。アンジェラが音もなく後退する。脚を使っていない。空中を浮遊して動いている。
周囲のものが制止する時間の中で、俺はアンジェラを追った。アンジェラの浮遊する移動に、俺の走りは中々追いつかない。
「加速」
俺はさらに通常の加速魔法を使った。さすがに予期してなかったらしく、アンジェラに追いつく。
俺はデリート・ソードを斬り返してアンジェラに袈裟に斬りつけた。アンジェラは手をかざして、見えない力の壁でそれを止める。が、それは俺の狙いだった。
俺は素早く手錠を取り出すと、アンジェラの手首に装着した。
「あ」
アンジェラが声をあげる。実体化されたアンジェラの細い腕を、俺はさらに掴んだ。
「やめて、離して!」
「乱暴にするつもりはない。お前は何故、あのバグ・ビーストどもを庇う?」
金髪の少女が、青い瞳を潤ませて俺を見上げた。
「あの子たち――ディグも生きているのよ」
「ディグ? バグ・ビーストを、お前はそう呼んでいるのか。しかし生きているとは、どういう意味だ?」
不意にアンジェラの手が動き、腕に装着された手錠に触れた。手錠が一瞬で砕ける。その瞬間、アンジェラは非接触モードになり、俺の手をすり抜けた。
距離をとったアンジェラは、俺を見つめて口を開いた。
「グラード、これはあなたにも関わりのあることなのよ」
「俺に? いや……それより何故、俺を知っている?」
一体、何の話だ。俺が戸惑う中、時壊魔法が途切れた。
次の瞬間、アンジェラは消えていた。俺はパーティーの場所へと戻る。バグ・ビーストは幾つかのアイテムを喰った後で、既にその群れも消えていた。
「グラード、どうしたの? 急に消えて」
「…アンジェラに会った」
「え!」
どうやらケイトや他の者には、まったく見えてなかったらしい。俺が時壊魔法を発動中に現れたからだ。俺はケイトが横で何か言うのを聞き流しながら、アンジェラの言葉の意味を考えていた。