スカイ・エンダー
レナルテの審査をクリアする機能と、アルゴリズムを超高速で処理する機能。それが僕の考えた『魔法』だった。
僕はある日、ノワルドで会ったサガに一つの時計型アイテムを手渡した。
「これを受け取ってくれ」
「これは?」
サガが不思議そうな顔で訊ねる。
「俺が作った魔法アイテム『スカイ・エンダー』だ」
サガは自分の杖にアイテムを装着する。
「どういう魔法なんだ?」
「今から、エリア22のラスボスを狩りに行こう。そこで使ってみればいい」
「おい! この前、キャラレンタルして5人編成で駄目だった相手じゃんか。俺たちの装備じゃ無理だよ」
「行けば判る」
グラードは、軽く笑ってみせた。
*
その数分後、呆然とするサガがいた。
「――こんな……事って…」
「だから言ったろう? 心配はない」
『スカイ・エンダー』をサガが使った瞬間、ラスボスモンスターの動きが完全に止まった。後はただ、無防備な相手に攻撃を喰らわせるだけである。相手は一瞬で沈んだ。
我に返ったサガが声を上げた。
「すげぇ! すげぇよ、グラード! これがありゃ、おれたちは無敵だ! 1位クリアも夢じゃねぇ!」
「…1位クリアが、そんなに凄い事なのか?」
「当たり前だろ!」
サガは大きく両手を広げた。
「1位クリアなら賞金が出る。大金だぞ! その賞金で生活するプロプレイヤーがいる、現実的な金だ。3億レナルテくらいだって、聴いてるぜ」
考えもしなかった高額賞金に、さすがのグラードも息を呑んだ。
「なあ、次のエリアが発表されたら、真っ先に行こうぜ。おれたちがトップを獲るんだ」
息巻くサガを前に、グラードは軽く苦笑して見せた。
実際、次のエリアではその事が現実となった。1位の褒賞ポイントは3億レナルテ。それまでの中ボスを倒すポイントも含めると、相当な収益が得られた。学校であった雪人は、興奮気味に話しかけてきた。
「おい! おれたち凄い金持ちになったぞ! 信じられねえよ……お前は天才的な発明をしたよ!」
僕は、少しだけ笑ってみせた。雪人が怪訝そうな顔をする。
「どうしたんだよ、あんま嬉しそうじゃないな?」
「いや……嬉しいけど――」
僕は、自分の気持ちを整理しながら、雪人に話した。
「僕は…ずっと現実から離れることばかり考えてきたんだ。ノワルド・アドベンチャーを始めたのも、その逃げた先だった。…それなのに、その逃げた先で現実的な利益を手にするなんて……不思議だと思って」
「稼ぎたくないのか、明?」
雪人が不安そうに訊ねてくる。僕は笑って答えた。
「いや、僕にはお金が必要なんだ、雪人」
それから、僕らの快進撃が続いた。
*
7回連続で1位を獲った時には、僕らは二年生の終わりを迎えようとしていた。ネットではグラード&サガは、もはや伝説的なコンビになっていた。けど、僕らはキャラレンタルもせず、ログ・ビューも公開しなかったため、ネットでは謎のキャラという扱いだった。
ノワルドの街にも必要最小限の買い出しにしか行かなかったが、中にはプレイヤーショップもあるため、グラードとサガの風貌などは少しずつだが知られるようになっていた。
7回目の1位を獲った後、僕は何気なく他のプレイヤーのログ・ビューを見ていた。が、その中にキャラ名こそ挙げてないが、間違いなくグラードとサガのビューが上がっているのを発見して僕は息を呑んだ。
翌日、僕は学校で雪人を探し出し、校庭の隅で雪人に怒鳴りつけた。
「雪人、君があのビューをあげたのか?」
雪人はバツの悪そうな顔で、こちらを見た。
「あ……いや、ちょっと皆さんのリクエストに応えてもいいかなって」
「何を言ってるんだ!」
僕は怒鳴った。
「あれはいつ規約違反が指摘されるかも判らない代物なんだ。その危険性は前にも話したろう!」
「けど…今までだって大丈夫だったじゃないか。多分、公開しても大丈夫だよ」
「すぐに消すんだ!」