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3、相良雪人 ホームボックス

 新武蔵野大学に入学した僕は、教室の隅で授業登録に悩んでいた。

 前もってタブレットから選んだ授業を、登録授業として申請する。そういうシステムである。けど、そのページの作りが判りづらく、僕は苦戦していたのだった。


「――あ、授業選んだ?」


 不意に背後からかけられた声に、僕は振り返った。見たことのない男子である。洒落っ気のない服装の上に、リュックを背負っている。怪しい感じでも、馴れ馴れしい感じでもない。躊躇いを含んだ表情に、少し安堵した。


「いや、今、選んでるところ。けどこのページ、ちょっと判りづらくて」

「そうだよな、おれもそう思ったんだよ。…隣いい?」

「あ、どうぞ」


 男子生徒は隣に座ると、背負っていたリュックを降ろして自分もタブレットを取り出した。


「どの授業がよさげか、判る?」

「ううん」

「一応、匿名の授業感想サイト見つけたんだけど――」


 男子生徒はページを移すと、書き込みのサイトを開いて見せた。


「あ、そんなページあるんだ」

「うん。けど信用していいのかどうか。厳しいって評価の先生の方が、もしかしたら勉強になるかもしんないし。とにかく、大学も東京も初めての事だらけで、判んない事ばっかだから」


 彼はそう言うと、照れくさそうに笑った。僕はその笑顔に好感を持ち、笑い返して見せた。


「何処から来たの?」

「長野。君は東京?」

「うん」

「そう。おれ、相良雪人。よろしくな」

「僕は神楽坂明。よろしく」


 僕らは名乗り合った後、少し照れくさくなって笑った。

 すると彼が言った。


「神楽坂明って、凄い名前だな」

「そう?」


 僕らは学内で一緒にいる事が多くなり、仲良くなった。学内だけでなく、あっちこっち東京見物に連れて行ったり、バイトがない日には授業終わりに彼の下宿先に転がり込んだりした。


 雪人の下宿先では、彼がオススメする映画を観たりしていたが、彼がなかなかのマニアで蘊蓄を垂れるのを、僕は面白がって聞いていた。

 ある日、彼の下宿で話をしていて驚かれた事があった。


「え? フロートした事ないの?」

「うん……そんな機材買う余裕、うちにはなかったしね」

「そうかあ。じゃあ、ちょっと入ってみろよ。面白いぜ」

「どうすんの?」


 そうすると彼は、フロート・ピットを手に取ると、何かスイッチをいじった。


「人証識別をオフにしたんで、これで大丈夫。被ってみ」


 僕は渡されたフロート・ピットを自分の頭にセットした。


「バイザー降ろしたら意識が飛ぶけど、驚く必要ないから。で、小さい部屋みたいなとこに出るから、少し待ってて」


 そう言われて、僕は床に寝ころんだ。バイザーを降ろす。

 その瞬間だった。


 周囲の景色が飛ぶ。視界が光に包まれる。僕は叫び声をあげそうになったか、もしかしたら出したのかもしれない。

 不意に、自分が小さな部屋に立っているのに気づいた。目の前に鏡がある。と、不意にベルの音が鳴り響いた。


「わっ」


 驚いて辺りを見回すと、空中でベルのアイコンが揺れている。僕はそれを押した。


「OK、そこがホームボックスな」


 横に画面が開いて、雪人の顔が映る。どうやら、パソコンを覗いてる体だと判った。


「これ、今、僕の身体はどうなってんの?」

「横のモニターのアイコン押してみろよ」


 言われた通りに押してみる。と、魚眼レンズで覗いたような、僕の額から下の身体が映し出された。


「フロート中の自分の身体の状態は、そこで確かめる事ができる。けど、一旦そっちに入ったら、こっちの身体は動かすことができない仕組みなんだ」

「じゃあ、出る時は?」

「ログアウト・ボタン。そんなに心配しなくてもいいよ。ついでに、『ノワルド・アドベンチャー』に行ってみるか。そこのお気に入りからセレクトしてみて」


 僕は言われた通りにする。


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