クロノス・ブレイク
全てのリスが倒れると、俺は一旦剣を納めた。ケイトが駆け寄ってくる。
「貴方、凄いわ……。これが貴方の能力ね」
「違う」
俺は答えると同時に、歩き出した。
「今使ったのは、普通の加速魔法だ。誰でも使える」
ただし様々なアイテムを持ってる俺の加速は、普通のものより大分速くはあるが。
俺は先を歩いた。
「何処へ行くの?」
慌ててついてきたケイトが訊ねる。
「此処のラスボスはXランクだ。そこで――俺の力を見せる」
迷宮の巨大な扉を開く。そこは大広間になっていた。
灯がともると、奥の方で数匹の小動物が跳ねている。ウサギだ。
「あ、ウサギだわ。可愛いわね」
ケイトがそう言って近づこうとするのを、俺は制した。
「近づくな」
その数匹のウサギが、一箇所に集まる。やがてそれは合体しあい、一つの白い塊になった。それがみるみるうちに膨張していく。
「ちょ……ちょっと、何よこれ!」
ケイトの声が飛んだ。その声を無視して、白い塊は10mを越すサイズにまで巨大化する。それが終わると、ウサギだったものは、頭を上げた。
「ひっ――」
頭が四つある巨大なウサギが、真っ赤な眼を向けて歯を剥いた。こいつがこのエリアのラスボス、フォーヘッド・ラビットだ。
ウサギが頭を振った。長い耳が、急激に伸びて俺たちに襲いかかる。棒立ちになっているケイトを、俺は押し倒して耳の攻撃を躱させた。
床に倒れたケイトの顔が、目の前にある。その瞳と、目が合った。
「あ、ありがとう……」
「起きろ」
俺はケイトを抱え上げて走る。
細い腰を抱えて、俺は円柱の陰にケイトを押し込んだ。
「そこで見ていろ」
「ちょっと待って! ラスボスって普通、5,6人のパーティーで攻略するんじゃないの? それにXランクって…規格外ってことよね?」
少し顔を赤らめたケイトが、俺を見上げて声をあげた。
「問題ない」
俺はそれだけ言うと、円柱から出た。
四つ頭のウサギが、赤い眼でこちらを睨んでいる。凄まじい速さと変幻自在の動きで、八本の耳が襲いかかってきた。
「クロノス・ブレイク」
俺は剣の柄頭にある時計を撫でた。
その瞬間、耳の攻撃が動きを止めた。
いや、正確にはゆっくりとだが動いている。だが、俺には止まっているに等しい。
俺はクロノス・ブレイカーを抜くと、駆け抜けながらウサギの耳を切り刻んだ。斬られた耳は、バラバラになりながらも空中で制止している。俺はそのままウサギの巨体に近づき、縦横無尽に剣を振ってその巨躯を寸断した。
再び元の場所に戻り、俺は剣を納める。
「ブレイク・アウト」
再び時が動き出す。寸断されたウサギの巨体が空中で弾け、破裂した。
柱の陰で見ていたケイトが、驚きに眼を見開いている。
「なに? 一体、何が起きたの?」
俺は口を開いた。
「超加速だ。あんたには、何も見えなかったろうがな」
ラスボスを倒した経験値とポイントが加算された。ケイトが自分のゲージに気付いて口を開く。
「あ、物凄く経験値が入って、一気にレベルが上がったわ」
「一緒にラスボスを倒したパーティーメンバーという扱いだからな」
ケイトが上目遣いで、何か言いたげにこちらを見る。が、何も言わない。やがて切り替えたような顔で、口を開いた。
「その……貴方はアンジェラの能力が、自分と同じ質のものだと思うのね」
「恐らくな」
「それについて、心当たりがあるの?」
俺は少し、目線を外した。
「同じ能力を持つ奴が、もう一人いる」
「誰?」
俺は、ゆっくりと口にした。
「俺の以前の仲間 サガだ」
そう言った後に、俺の口からため息が勝手に洩れた。