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アンジェラ

 再び少女の姿が現れる。その手には、デリート・ガンとデリート・ソードが握られていた。


「あ! い、いつの間に?」


 デリーターたちは自分の手から銃と剣が奪われているのに気付き、驚愕の声を出した。その隙にバグ・ビーストが逃げていく。少女が悲し気な表情を僅かに見せると、背中を向けた。そしてその姿は一瞬で消えた。

 これは――


「彼女は『アンジェラ』、と名乗ったという情報がある」

「アンジェラというと、確かレナルテの管理AIがそういう名前だという噂がありましたね」

「それはあくまで噂だ。そんなものは存在しない」


 天城氏は傲然と言い放った。


「その噂を元にして、そう名乗った誰かだろうと我々は考えている。このアンジェラがデリーターの駆け付けた場所に現れて、デリーターの妨害をすることが二週間前から起きている。残念ながら、デリーターには、あのアイテムを奪う現象に対抗する術がない。そのためバグ・ビーストは野放しで、プレイヤーアイテムが喰われる被害が続出している。君に頼みたいのは、このアンジェラの捕獲だ」


 天城氏は僕の眼を見据えてそう言った。僕は全身に走る緊張を感じながら、口を開いた。


「僕には、そんな事は――」

「神楽坂明くん、君が『時壊(じかい)の剣士グラード』であるという事は判っている」


 僕は息を呑んだ。

 ――知られている、この人には。僕の正体を。


「我々は最初、アンジェラの正体が君ではないかと考えて調査をした。しかし君ではない事が判った。しかしあのアンジェラの能力は、君が以前に保有していた能力――時壊の剣士グラードの力と同質のものであると考えている。…君はどう見たかね?」


 僕の頭の中を見抜くような目つきで、天城氏が僕に問うた。

 背中に流れる冷や汗を感じながら、僕は答えた。


「……同じ質のものだと……思います」

「よろしい。では言いたいことは判るね?」


 天城氏は微かに笑みを浮かべると、ソファから立ち上がった。


「君がやった事は『ノワルド・アドベンチャー』の規約違反で、君が従ってくれない場合は、訴訟を起こす準備をする。その損害賠償額は100億レナルにもなるだろう」


 100億! 僕は悲鳴を呑み込んだ。

 レナルテが発表されたのが日本だったためか、レナルはほぼ円と同期している。しかし世界中でレナルが使われ始めたため、過去のような各国の通貨はもはやあまり使われないのが普通だ。訴訟を起こされたら、僕は100億円もの賠償金を支払うはめになる。

 思わず、唾を飲み込んだ。もはや、選択肢はない。


「我々に協力してくれるね」


 僕は立ちあがると、黙って頷いた。天城氏が、頬笑みを見せる。


「しかし……いつ現れるか判らないアンジェラを…それも、どうやって捉えるのですか?」

「具体的な方法については、エージェントを送ってある。後の仕事はそちらに聞きたまえ。じゃあ、よろしく頼むよ」


 天城氏が頷いた。会談の終了の合図だろう。僕はログアウトするアイコンを出した後に、天城氏に訊ねた。


「僕の事を……いつからマークしてたんですか?」

「ずっとだよ神楽坂くん」


 天城氏が笑顔のまま言った。


「君がどうしてカザマに入れたと思う?」


 ――そうなのか。そうだったのか。

 思わず目を見開いた僕に、天城氏が言った。


「それでは我々、双方(・・)の利益のために。頑張ってくれたまえ」


 僕は目を背けると、ログアウトした。


 社のフロート・ルームに戻ってきている。僕は重い気持ちのまま、フロート・ピットを脱いだ。と、そこに風間社長が駆け込んでくる。


「明! 戻ってきたか!」


 明らかに慌てている。僕は眉をひそめた。


「どうかしたんですか?」

「お前にお客だ。早く応接室へ来い」


 僕は社長と一緒に応接室へと急ぐ。扉を開けると、中から女性の声が響いた。


「Are you done talking? Then let’s get down to business」


 そこにいたのはソファから立ち上がり、片手をくびれた腰にあてたミニスカートのスーツ姿の女性。赤い髪を緑のカチューシャで後ろでまとめ、青い眼をこちらに向けた美女である。背が高く、とにかくスタイルが抜群だ。


「I’m Kate Coleman.an agent from headquarter」


 やばい。英語で喋ってるのは判るが、全然聞き取れない。


「ちょ、ちょ――ウェイト! ジャスト モーメント! …プリーズ」


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