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バグ・ビースト

 その犬の影が、メンバーの一人に飛びかかった。


「わぁっ!」


 剣士だったそのプレイヤーが、剣で斬りつける。が、その剣を犬の影が咥えた。

 瞬時に、剣が喰いちぎられる。無論、ゲーム上の剣だ、鉄でできてるわけではない。しかし、ゲーム的な効果で剣が破壊されるような場面では、ちゃんと鉄の剣が折れるような描写になっているのが普通だ。しかしこれはその法則を無視している。


 剣をまるでチーズが何かのように、犬の影はむさぼった。みるみるうちにプレイヤーの剣が手元まで無くなる。


「オ、オレのアイテムが!」


 剣士は悲鳴を上げると、剣の柄を捨てて飛び退いた。メンバーたちは顔を見合わせると、脱兎の如く逃げ出した。

 画面がそこで止まる。


「これは……」

「バグ・シングと呼んでいたものが、姿を変えてプレイヤーアイテムを喰うようになった。我々はこれをバグ・ビーストと呼ぶことにした」

「バグが……進化した?」

「進化という言葉が適切かどうかは判らんがね。このバグ・ビーストが一ヶ月ほど前から出現し始めたのだ」

「まさか…これをなんとかしろと?」


 それが呼ばれた理由なのか? しかし天城CEOは首を振った。


「そうではない。対応策は既に講じてある」


 そう言うと天城氏は、別の動画を開いた。やはりパーティーの前にバグ・ビーストが現れている。バグ・ビーストが魔法の杖をばくばく食べてているその場所へ、不意に新たな出現者が登場した。


 それは二人の人間であり、顔を完全に隠したフルフェイスのヘルメットを被っている。その下の全身には、ライダースーツのような光沢のある素材を身に着けていた。ヘルメットもスーツも、黒地にグレイのラインが入ったようなSF的デザインで、ファンタジー世界にあまりそぐわない先鋭的デザインだった。


「彼らは?」

「『デリーター』だ」


 画面の中で、彼は右の腰のホルダーから銃を抜いた。銃、というよりは、少し細身のスピードガンのような形状だ。それをバグ・ビーストに向けて撃つ。ゴルフボールくらいの光の弾丸が発射された。光弾が犬の影を撃ち抜くと、バグ・ビーストは驚いたように飛び退った。


「グルルルル……」


 バグ・ビーストが唸る。こいつらが音声を発するようになった事に驚いた。が、次の瞬間、バグ・ビーストの頭が上下に裂けるように広がった。それは口を開いたなんてものではなかった。


 その大きく開いた口で、デリーターの一人に襲いかかる。デリーターは銃を撃つが、バグ・ビーストの動きが早すぎて当たらない。バグ・ビーストがその銃を、構えた腕ごと銜え込む。僕は思わず息を呑んだ。

 が、バグ・ビーストはその銃も腕も喰いちぎることはできない。


「彼らのデリート・ガンもあのスーツも、対バグ・ビースト用に特殊加工された素材なのだ」


 天城氏の言葉に、僕は一瞬だけ目を向けた。再び目を戻すと、銃を咥えられたデリーターはそのまま銃を乱射する。犬の影を貫いて、何発かの光弾が地面に当たった。その間にもう一人のデリーターは、左の腰のホルダーから柄を引き抜いた。それを構えると、光の剣が出現する。


「デリート・ソードだ」


 天城氏が言葉を添える。デリーターはその光の剣で、バグ・ビースの胴体を真っ二つに斬った。咥えた腕を離したバグ・ビーストが黒い霧が破裂するように霧消した。


「このデリーターに、なれというわけですか?」

「いいや。このデリーターの特殊チームで、バグ・ビーストに対応しつつ、バグの出現理由を解析中だった。しかし一週間前に、事件が起きた」


 天城氏はそう言うと、さらに別の画面を開いた。

 それは三匹のバグ・ビーストに、4人のデリーターが対峙している場面であった。デリーターの一人が銃を撃つ。一発被弾するも、バグ・ビーストは移動して襲う隙を伺っている。そこに突然、眩いばかりの光が射した。


 デリーターたちが、ヘルメットの頭を上げて上空を見る。そこには、光に包まれた一人の少女が現れていた。緩やかなウェーブのかかった、背中まで伸びる長い白金(プラチナ)の髪。柔らかな素材の白のロングドレスを身にまとった姿で、その少女は輝きを発しながら地上へとゆっくり降りてきた。


「な、なんだ?」


 デリーターが言葉を発する。少女は厳かに口を開いた。


「おやめなさい」


 その時、バグ・ビーストが逃げようとした。それに気づいたデリーターが銃を向ける。しかしその瞬間、少女の姿が消えた。


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