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AMGジャパン

 打ち合わせが終わり、僕は少し和やかな気分になって仕事をしていた。しかしそれを破るように、社長が奥の部屋から飛び込んできた。


「おい、明!」


 社長の風間万佐夫が、奥の部屋から太目の身体を揺らして走ってくる。出勤してたとは、知らなかった。


「どうかしたんですか?」

「どうしたも、こうしたも――お前、何かやったのか?」

「何か…って、何ですか?」

「だから何かだよ」

「いや、仕事はしましたけど。特にミスはないと思いますが……。一体、どうしたんですか?」


 僕の質問に、社長がようやく答えた。


「AMGが、お前を指名で呼んでるぞ」


 親会社のAMGが? 全く、身に覚えはない。


「とりあえず行って来い。失礼のないようにな」

「判りました」


 僕は不安な気持ちを抱えたままフロート・ルームに入った。フロート・ピットを装着し、AMGジャパンの受付へとフロートする。


 AMGジャパンの本社は、巨大なビルである。そのエントランスの中央に受付がある。僕はそこへ向かった。

 弧を描く大理石のカウンターの奥に、髪を綺麗にまとめた女性が座っている。僕はその受付まで行くと、声をかけた。


「あの……カザマ・テックから来た者ですが」

「承っております。こちらへどうぞ」


 女性は歩へ見ながら、プラスチックの皿にフックを入れて出した。僕はフックを手に取る。女性は優しく微笑んでみせた。多分、受付用のAIアバターだ。笑顔が100点過ぎる。

 僕はフックを起動させた。瞬時に移動したのは、大きな木目調の両開きのドアの前である。僕が到着するなり、自動で開き出した。


「入りたまえ」


 中から低めの威厳のある声がした。失礼します、と僕は言ってから入室する。そこに立っていたのは、銀色の髪をオールバックにしたスーツ姿の男性だった。


「神楽坂明くん…だね」


 その人物を見て、僕は驚愕した。


「――天城CEO…」


 その人は、世界中の誰もが知る有名人だった。

 天城広河CEO。AMGの前身となるアマギ・メカニクスの創業者であり、フロート・ピットの開発者だ。今や世界最大規模のメガ企業となったAMGのCEOであり、世界の経済人トップ10にも選ばれた事のある人物である。という事は…


「……此処は…アメリカ本社?」

「レナルテ内ではあるが、一応、アメリカ本社内の私の部屋だ。まあ、かけたまえ」


 天城CEOが僕にソファにかけるように促す。僕は事の大きさに驚いて、動悸がし始めていた。

 どうして僕が? こちらは日本支店の小さな下請けの、その中でも入社3年目の下っ端社員である。この世界的経済人が、僕に何の用だというのだ?

 動悸を隠しながらソファに座ると、腰を下ろした天城氏が口を開いた。


「神楽坂くんは、バグ・シングを知っているかな?」

「はい、一応は」

「遭遇したことはあるかね?」


 僕ははい、と言って頷いてみせた。

 バグ・シングというのは、最近になってノワルド・アドベンチャーで見られるようになったバグ現象のことである。


 森の中の小道を歩いていたのだが、目の前に妙な黒い塊が落ちていた。物体、というよりは、影が実体化したもの、という感じに近い。それが何か、もぞもぞ動いて、道に落ちていたのである。どうやらモンスターではない、と判ってから、それが最近噂になってるバグ・シングだと気づいた。


「これを見給え」


 天城氏が空中のアイコンを押して、僕らの横に大きな画面を出す。それはノワルド・アドベンチャーをプレイしてるパーティーの映像だった。

 モンスターを攻略し終わり、はしゃいでいた直後である。黒い影のものが画面を横切った。


「な、なんだ、こいつは?」


 画面の中で、パーティーメンバーに混乱が走る。その間に、その黒い影がまた姿を現す。バグ・シングのように影の塊っぽい外観だが、これは四つ足である。形状的には耳のない犬だ。


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