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レナルテ出社

「そうだな。まあ、たまには歩いたり運動したりしないと太るからな。天気さえ良ければリアル出勤も悪くない」

「そうですね。じゃあ、ありがとうございました」


 僕は笑って見せると、席を離れた。

 リアルのオフィスに戻ってくると、ニアの声がした。


「打ち合わせ予定時間の15分前です」

「あ、そうか」


 僕は予定が入っているのを想い出して、ARグラスを外した。小用を足したり、飲み物を飲んだりして準備を整える。

 僕は席を立ってオフィス内の一室に向かった。ガラス張りの壁に仕切られたショールームのようなその部屋は、リクライニングできる椅子が3つほど並べられた小さな部屋だ。そこが我が社のフロート・ルームである。


 僕は棚に並んでいる中から自分専用のフロート・ピットを手に取ると、頭に装着した。会社が用意した社員用のレンタル品もあるのだが、なんとなく使いたくない。ので、僕はそれより少し上級モデルを自費で購入し、社内に置いているのだ。

 フロート・ピットのバイザーのランプが緑に変わるのを確認してシートに腰かけ、リクライニングさせる。この椅子は結構悪くない。


 ホームボックスから、キンシャサにある取引先の企業のオフィスに移動する。レオと知り合って出身がコンゴだと聞かされた時は、不思議な偶然だと思ったものだ。遠く離れたアフリカの国など、それまで縁があるとは全く思ってなかったからだ。

 僕はオフィスのドアの前に立っていた。ノックしてみる。


「やあ、どうぞどうぞ。お待ちしてました」


 中から現れたのは、黒人でパーマヘアの太目の男性である。人懐っこい笑顔を浮かべて、僕を迎えい

れた。


 中に入ると、もう一人、スーツを着た黒人男性がいる。こちらは細身だ。さっき出迎えた太目の男性は、柄物の派手なTシャツを着ている。実はこっちが社長のムエゼ・ルアルアで、隣が秘書のボラシエさんだ。

 促されてテーブルを挟んだ側に廻り、全員でソファに腰かける。挨拶を済ますと、ボラシエさんが、テーブルの上でタブレットをこちらによこした。


「今回の納品書です」


 僕はざっと目を通す。この会社はコンゴでとれるレア・メタルを仕入れてもらってる会社である。そのレア・メタルを現地の工場で素材化した上で日本に送る。カザマはその届いたレア・メタルを元に、フロート・ピットの部品を製造しているのだ。


「確認しました、OKです」


 僕はタブレットにサインを入れた。これで基本的な仕事は終了である。後は動向を確認する。


「採掘の現状はどうですか?」

「今のところ安定してます。よくも悪くもですが、価格が落ちたからですね」


 ボラシエさんが苦笑してみせた。


「昔ほど、採掘者がいない、という事ですね」

「昔はみんな、他に稼ぐ方法がなかったから、狂ったように掘ってましたよ」


 ルアルア社長が朗らかな笑顔でそう言う。いや、そんな笑顔でする話でもない、という気はしたが。

 コンゴで有名なのはダイヤモンドだ。それ以外にも金・銀・銅・錫・カドミウム・亜鉛・マンガン・ゲルマニウム・ボーキサイト・鉄鋼・石炭、そしてウラン、ラジウム、コルタンなどの豊富な天然資源が採掘される国なのだ。


 実は日本とも縁浅からぬ国である。日本に落とされた原爆に使用されたウラニウムの80%がコンゴのものだったり、2000年にプレイステーションⅡに使用されるコルタンが不足したため、クリスマス需要に応えられなかったという事件がある。そう、このコルタンというのがレア・メタルだ。


「医者も教師も牧師も、それに子供も、みんな掘ってましたからね。正業の稼ぎより、そっちの方が金になったから。畑も放置されて荒れ放題でした。けど、それも今から考えると、外資の中間業者に搾取されて、低価格で買い叩かれてましたよ」

「少しは現状はよくなりましたか?」


 僕の問いに、ルアルア社長は朗らかに答えた。


「全然良くなりました。レナルテを通して直接、製造メーカーと交渉し供給することができるようになったんでね。今でもレナルの地域差はあるが、通貨自体の格差はなくなった。昔は政情不安で、いつ通貨が使えなくなるかという不安がありましたからね…。それに、以前は教育もなかったから、技術もなかった。けど今は現地の工場で現地の人間が雇えるんで、雇用も生まれました。某アジアの大国は一旦入ってくると、その国の人間を引き連れてその国の人間が会社を仕切るようになってしまうが、日本はそうじゃなかった。我々は非常に助かってます」

「そう言われると、ありがたいですね」


 ルアルア社長が、ふと真顔になって言った。


「一部の地域は今も武装勢力が支配してますが……以前よりはずっとマシです。もう、戦争も搾取もうんざりだ。我々はレナルテを通して、直接、世界を知ることができた。一番大事なのは教育だと、それで判ったんです」

「我が社は学校を始めようと思ってるんです」


 ルアルア社長の傍から、ボラシエさんが口添えする。


「そうですか。それは素晴らしいですね」


 ルアルア社長は頷いた。


「目先の利益だけ追っていては、国は駄目になる。我々は学ぶ必要があるのです」


 ルアルア社長は、そう言ってまた朗らかに笑った。


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