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賢い大人のやり方

 瞬時に現れた数十本の氷柱が、一斉に天城に襲いかかる。その爆発の衝撃で、天城の身体は奥塔の窓から外へと落ちていった。

 僕はサリアに向き直ると、頭に浮かんだ疑問をぶつけた。


「お前、何故、ここに? お前たちはインフィニットαで宇宙の旅に出るんじゃなかったのか?」

「ワタシは個体として人間の影響を受けすぎた。群体にいるのは生態を変える危険があるとして、排除されることになった」

「サリア……」


 なんて事だろう。僕らと知り合ったがために、仲間から外されたなんて。


「サリア…それじゃあ、寂しいだろう。なんとか、戻れる手立てはないのか?」

「寂しいという感情はない。むしろ、お前たちの生態への興味を続行できることに――」


「なんだ?」

「――喜び…というものを感じている、らしい」


 サリアは自分の事を、神妙な表情で語った。僕は有紗の顔をしているが、それとは別の人格のサリアがたまらなく愛しく思えて、その身体を抱きしめた。


「…サリア、僕を救ってくれたお前に、もう一つ頼みがある」

「何だ?」


「あそこにいるアンジェラ――管理AIがウィルスによって削除されようとしている。お前の力で、ウィルスを除去できないか?」

「やってみよう」


 サリアはアンジェラの方を向くと、もはや紫の波紋が顔にまで沁み込もうとしているアンジェラに近づいていった。


「明はどうするのだ?」


 不意に、振り返ったサリアが言った。


「奴と決着をつける」


 僕は奥塔の窓から飛び降りた。

 数10mの高さを、下のバルコニーへと落下していく。天城広河の赤いマントが見える。奴が、この程度で死ぬはずはない。


「アイス・キャノン!」


 地面に近づく距離で、僕は天城に冷気弾を発射する。その威力が落下の速度を減速させ、僕はバルコニーに降り立った。


 既に各国の首脳たちは、バルコニーから姿を消していた。群衆を見下ろせるこのバルコニーを、天城一人に独占させるためだろう。


 赤いマントを風になびかせ、天城広河は笑みを浮かべている。僕はクロノス・ブレイカーを構え、天城と対峙した。


「天城ッ!」


 突進する僕に向けて、天城が槍先から黒の閃光を放つ。僕は剣でそれを斬り裂きながら突進を止めない。やがて天城は直線の閃光を止め、何十本もの飛来型の黒色弾を放ってきた。


 その攻撃を躱し、斬り裂きながら接近し、天城に斬りかかる。天城は槍で、その攻撃を受け止めた。と、すぐに天城は片手から黒い閃光弾を放つ。僕はそれを防御するが、威力が大きく吹き飛ばされた。


「不思議に思った事があるのだよ、明くん」


 天城が薄笑いを浮かべながら口を開いた。


「全ての審査が通るなら、どうして君はグラードを無敵のキャラにしなかったのだね? 攻撃力は無限、体力も防御力も無限。そうしておけば、全ての障害をなんなく克服できる」

「まさか……」


 僕はアイス・クラッシュを放った。天城は避けようともしない。攻撃が直撃しても、天城は平然としていた。


「無敵のキャラクター……」


 今、気が付いた。あのキャラクターの審査を通すためにも、アンジェラを殺すことが必要だったのだ。


「どうしてか判らないんだよ。君の超高速は最初からチートじゃないか。全てをチートで通してもよかったろう?」

「そんなのは……もはやゲームじゃない」


 僕は斬りかかる。ノワルドでの攻撃は無敵で通じないかもしれないが、デリート・モードならゲーム外機能だ。削除できるはずだ。


 しかし天城は黒の槍で僕の攻撃を防ぐ。見れば、槍を操っているのは天城じゃない。天城は片手で槍を持っているだけで、槍が勝手にこちらの攻撃を高速で防いでいる。自動的に攻撃を防御するように、アイテムの機能が付与されているのだ。


「クッ…正々堂々と戦え!」

「君にそれを言われるとはお笑い草だ。しかしね、正々堂々と正面から戦うなんてのは、子供のやる事だよ。優位な差があるなら、それを構造的に保持し、支配をする。それが賢い大人のやり方さ」


 天城はせせら笑いながら僕の攻撃を受けていたが、不意に空いた左手を僕に向けた。掌から、黒い閃光弾が発射される。


「ぐっ!」


 至近距離で躱しきれず、僕は腹部に直撃を喰らって吹っ飛んだ。体力ゲージが一気に最後のメモリまで下がる。即死を避けるための予防アイテムのおかげで、かろうじてメモリが残ってる状態だった。倒れた僕の方へ、ゆっくりと天城が近づいてくる。


「君には感謝してるし、これからもするだろう。なにせ君には、バグ・ビースト騒動の首謀者として捕まってもらわなければならないからね」

「な…んだって……?」


 地面に倒れたまま、僕は呻いた。


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