決着・アルデバラン
僕はそう呟くと、グラードの背中にクロノス・ブレイカーを突き込んだ。剣は身体を貫通し、目の前のアルデバランへと向かう。その切先が、スカイ・エンダーに届いた。
「お、お前、何をしている!」
クロノス・ブレイカーとスカイ・エンダーのエネルギーが衝突してスパークを起こす。しかし僕はさらに、剣を押し込んだ。
「や、止めろっ!」
アルデバランの声を無視して、僕は最後の渾身の突きを入れた。
「ウオオォッッ!」
吠えた。そうしなければ、泣いていたかもしれない。
一際激しい発光のなか、スカイ・エンダーが砕け散った。
その瞬間、超高速時間にいるのが、僕一人になる。アルデバランは、驚愕の顔のまま制止していた。
僕は剣を抜き横に廻ると、アルデバランの下半身を四回スライスした。そしてグラードとつながったままの両腕も落とす。
「ブレイク・アウト」
時の流れが戻る。アルデバランは支えるものがなく、床に転げ落ちた。
「これは! ク…どうやら、やられたらしいな」
アルデバランが、口惜しさを隠し切れない笑みを浮かべた。床に転がったアルデバランには下半身はなく、腕も肘から先がない状態だ。その状態でありながら、アルデバランはまだ笑いを浮かべながら僕の方を見た。
「ククク…まさか、自分のアバターをトラップに使うとはな」
「場所に相応しい戦術だ。お前が言っただろう?」
僕はそう言いながら、グラードに斬りつけたままの、アルデバランの腕を取った。
「何をしてる、お前?」
「お前は自分が安全な場所にいると、高をくくってるかもしれないが――」
僕はアルデバランを見下ろした。
「――雪人を殺したお前を、僕が許すと思うか?」
僕は手にしたアルデバランの右手の人差し指を跳ね上げ、ウィンドウを開ける。そこにはアルデバランのホームボックスへのアイコンもあった。
「や、止めろっ!」
初めてアルデバランが動揺した声を上げた。しかし僕は無視して、アルデバランのホームボックスに侵入する。そこで僕は、持っていた鉛色の球体を放ると、元の場所に還った。
「何をしたっ!」
アルデバランの大声には答えず、僕はユーリと連絡をとった。
「ユーリさん、今、アルデバランのホームボックスに、GPS爆弾を放ってきました。場所を確認してください」
「判りました」
画面の中のユーリが、探索をかけながら答えた。
「フランスの……パリですね。そこにアルデバランの入ったサーバーがあるようです。パリ市警に場所を送って連絡しますよ。…キアラくん、ご苦労さま」
ユーリは最後に微笑むと、通信を切った。
「な…なんだと……」
呻くアルデバランに僕は言った。
「レナルテの中でも、ホームボックスだけは自分のログインしたPCにデータセーブされる。そこを特定すれば、お前の本体を探せるはずさ。お前が雪人を見つけたのも、似た方法だったんだろう? お前は雪人以外にも、多くの人を殺してる筈だ。――裁きを受けるがいい」
僕はアルデバランにそれだけ言うと、グラードのアバターに眼をやった。
両肩から鉈で斬り込まれ、胸には僕の開けた大穴が空いている。僕はクロノス・ブレイカーで、そっと触れた。
触れた場所から、アバターが粒子化していく。
雪人、僕はまだそこには行けないけれど…せめてグラードを送るよ。さよなら、雪人。
僕は消えていくグラードを見ながら、雪人のために祈った。
*
セッション1『差別の撤廃』の合意がなされ、声明が出された。ニュースを聞いたハーフムーン城そばにいた民衆たちが歓声をあげる。その様子を、僕らは脇塔から見下ろしていた。
「アルデバランの本体および、配下の兵隊たちの身柄が確保されたようです。フランスは機動隊を総動員して、逮捕に向かったようですね」
ユーリがそう僕に教えてくれた。リスティとグレタ、レオの顔にも喜びが走る。
「サミットはまだ続くし、警備もありますが…とりあえず、彼らの襲撃はもうお終いでしょう。皆さんの、ご協力を感謝します」
ユーリが頭を下げた。不意にケイトが、僕に近づいてくる。
「ありがとう、明。……実は、死んだ潜入捜査官は、私の元恋人だったの」
ケイトが苦みの混じった笑みを浮かべる。




