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2、時壊の剣士グラード ARグラス

「朝です。起きてください」


 そういうニアの声で僕は目覚めた。時間は6:00である。僕は身体を起こした。


「今日は出社日か……面倒だなあ」


 レナルテ出社の日なら、もうちょっと寝てられるのに。今日はリアルに出社しなきゃいけない日なので、仕方ない。僕は変わり映えのしないスーツに着替えると、ARグラスを着けて表へ出た。


 ARグラスは眼鏡よりは少し大きめのバイザー状をしているが、これは拡張現実(Augmented Reality)を可視化する装置である。僕は空中に表示されるアイコンから音楽プレイヤーを起動させて、音楽を聴きながら街を歩いた。


 音楽は骨伝導で聴くので、外部には洩れないし、また外部の音も聞こえなくなることもない。もっとも、車はほとんど自動運転で、車の方が歩行者を優先して止まるためクラクションの音を聞くことはあまりないが。


「後ろから自転車が来ています」


 不意にニアの声が響いた。車は自動になったらけど、歩道を自転車で走ろうとする愚か者は後を絶たない。僕の使うARグラスには、感知範囲なら急接近してくるものを警告する機能があり、それをニアが音声で知らせるように設定している。


 通りを歩くと、AR内に広告表示するように設定してるショップもあるが、煩わしいので僕は非表示設定にしてある。僕は駅に向かい、改札を通り抜けた。


 多くの人がゲートを通り抜けていく。ゲートが閉じることは、まずない。皆、手首に埋め込まれたAIチップが認証されてるのだけど、残額が足らないこと以外でゲートが閉まることはないからだ。

僕の行く先はスーパーシティである新武蔵野市で、既に行先は設定してある。デジタル化を進めるために10年前に計画された街で、何もかもが新しい。AR内にホームへの矢印が表示され、到着予定の電車の時刻が表示される。充分間に合う時間だ。


 電車が到着すると乗り込んだ。レナルテ出勤の人が増えたので電車のラッシュは昔ほどではない、とよく年配の人に聴くのだが、本当なんだろうか? 僕のようにARグラスを着けてる人は半数くらいか。眼鏡型の小さなグラスの人もいるので、判らない部分もある。ちょっと席には座れなかったので、僕は電車の真ん中部に立った。


 電車が動いて落ち着いたので音楽を消す。メニューの中から読み途中の本を出して、読みかけのページを開く。ちょうどいい距離の空中に本が出現した。そこまで空中で指を動かす動作をしたら、後はページをめくる矢印をつまんで、膝のあたりまで降ろした。こうしておけば、手を降ろしたままページがめくれる。しばらく本の世界に没頭した。


「まもなく駅に到着します」


 ニアの声で、僕は本の世界から我に返った。本を消すと、到着した電車から降りる。不思議なもので、電車内のアナウンスもあるのだが、自分のマネージャーの声を聴く習慣がつくと、外の声に対してあまり反応しなくなるらしい。僕は駅から出て、新武蔵野市に降り立った。

 歩いて15分ほどのビルに、僕の勤める会社がある。株式会社カザマ・テックという小さな会社だ。


   *


 空中に現れてるキーボードを打って、見積もりを書く。会社のPCもあるのだけど、自分のARグラスにあるキーボードの方が慣れてるので打ちやすいのだ。社員は数十人いるのだが、現在オフィスにはそれほどいないし、オフィス自体も広くない。そもそも自分のデスクというものも自分のPCもない。レナルテ出勤とシフトで出勤するので、個人デスクやPCを用意するのは経費の無駄なのだ。


 カザマ・テックは工業部品などを扱う会社で、その扱う商品は数は数百にのぼる。レナルテを発表し、フロート・ピットを発売した大企業、AMGの傘下企業だ。

 不意に気になってた案件を想い出したので、僕は空中にあるレナルテ・オフィスのアイコンをクリックした。僕の視界が、レナルテ・オフィの方に移動する。


 レナルテ・オフィスには沢山のデスクに人が座っていた。明らかにレナルテ・オフィスの方が人が多いのだ。僕は視界下にある矢印を押して、前に進む。目的の人物の傍まで、視界を移動させた。


「中西さん、三鷹の件、どうなりました?」


 僕は白髪混じりの中年男性である中西さんに声をかけた。スーツを着た中西さんが、パソコンから目を上げる。正確にはレナルテ内で再現されたPC形状のアイテムだ。向うには、空中に出現した二次元画面に、僕の顔が表示されてるはずだ。


「ああ、処理しといたよ。向うの入力ミスだ。ミスはいつでもヒューマン・エラーだな」

「あ、そうなんですね。よかった」

「お前、今日、出勤日か」

「そうなんですよ。天気が良くてよかったです」


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