⒓、ハーフムーン城 デリート砲
サミット会場であるハーフムーン城はハーフムーン湖に面しているが、その一帯はほぼ、お祭り騒ぎになっていた。多くの出店が軒を並べ、何十万人とも思える人の出が見られる。広場では音楽が演奏され、ダンスや大道芸が披露されていた。そしてあちこちでは決闘騒ぎも起こっている様子だった。
俺たちはハーフムーン城の主塔の8階、『月の間』にいた。9階に上がる階段は三ヶ所あり、何処から敵が来るかは判らない。リスティとグレタとナビは東、レオとマリーネとマサオは西の階段脇に分かれて警護してもらい、俺たちは月の間の傍にいる。此処にはユーリとケイト、そしてぽめらがいた。無論、それに加えて数名の警察官が配備されていた。
時刻は午後一時。既にセッション1のワーキング・ランチが終わり、セッション2の『差別撤廃』に議題は進行している。ユーリはモニターを空中に幾つも開いて、各ポイントを警戒していた。
「サミットは三日間あります。そのうちの何処で現れるか判りませんが、まあ警戒していきましょう」
「いや……もう来る頃だ」
俺は言った。ケイトが俺の方を見る。
「何か確信があるの、グラード?」
「連中は差別撤廃の合意を阻止したい筈だ。ならば、この最初の議題を潰さなければいけない」
「どうやら、その通りですね」
ユーリの声があがり、俺たちはモニターを見た。群衆をかき分けるようにして、馬に乗った兵士が三十騎ほど接近している。城の正面玄関には、15名ほどの警備隊がいる。彼らは敵の接近に備え、デリートガンを手にした。
「正面からとは…舐められてますね」
しかし、それは無理もない話しだという事がすぐに判った。
連中は新しい武器を手にしている。部隊の中の数名が、ロケット砲のような巨大な武器を発射した。ロケット弾が、警戒中の警備隊に直撃し、爆発する。するとその爆発した部分は、建物まで削除されていた。
「新型のデリート・ガン いや、デリート砲というべきですか」
一撃の反撃もできずに警備隊は全滅し、正面玄関を騎馬が走り抜けた。
「城に侵入された! 敵は新しいロケット砲タイプの武器を持っている。各部署、警戒しろ!」
ユーリの声が飛ぶ。
モニターの中では、連中は馬を降りた。城の中の階段は急であり、馬で駆けあがるには限界がある。そして細い階段では、どうしても一名ずつしか登っていけない。そこが迎撃ポイントだ。
が、奴らは思わぬ行動をとった。
天井に向けてデリート砲を発射する。すると天井を削除し、大きな吹き抜けの空間ができた。そこに別のロープ銃を発射し、フックでロープをかける。連中はそれを自動巻きしてどんどんと階を登っていった。
「しまった、連中は階段じゃなく、フロア中央を突破してる。フロア中央に集合して敵を襲撃しろ!」
しかしユーリがそう命令を出した時、連中は既に6階まで迫っていた。訓練されたと思われる、恐ろしい速さだ。
「来るな…」
俺は控えの間を出た。もはやモニターを見ていても、仕方がない。俺は中央フロアへ急いだ。
突如、視線の先の床が爆発する。完全に床が抜けたところから、フック銃が飛んできた。
「加速」
俺は走り寄り、そのフックのロープを片っ端から斬っていく。登って来ようとした兵士が、途中で落ちていった。しかし全部のフックは斬り切れず、何人かが上がってくる。そいつらが俺に向かってデリート・ガンを向けた。
「レイジング・サンダー!」
突如、飛来して来た稲妻が兵士を直撃した。その稲妻は暴れ竜のように、次々と敵に襲いかかる。振り返ると、ユーリが宝珠つきの杖を高く掲げ、稲妻を発射していた。
「通常のファンタジー攻撃の方が有効な場合もありますね」
ユーリが微笑する。ケイトがその後ろでデリート・ガンを構え、上がってくる敵を撃っていた。しかし兵士たちは次々と上がって来る。近接戦闘になり、相手の兵士たちはデリート・ソードを抜いて斬りかかってきた。
その連中を一人、二人と仕留めるうちに、俺は気づいた。
アルデバランがいない。
俺は控えの間に戻って、モニターを見る。すると別動隊が、レオとマリーネ達のいる西側階段に向かっていた。その中に、あの赤ゴーグルの姿があった。
「レオ! そっちへアルデバランが向かった。俺もすぐ行く」




