チーム集合
「…どういう事だ?」
僕は目でユーリを促した。ユーリが口を開く。
「実は私からのお願いでしてね。申し遅れましたが、私は公安の国枝といいます。が、ここではユーリと呼んでください」
「公安! 警察の人?」
学が驚きの声をあげる。ユーリはそれに対し、嫌味なくらい爽やかな美形の笑みをみせた。
「そうです。今度のサミットでは警備部も困惑しています。レナルテでの警護など…しかもゲーム空間内での警護など前例がありませんからね。警備部では慌てて警護の人間のレベルアップを図ったのですが、なにせ普段から忙しい警察官のことです。ゲーム自体に慣れてない。恐らく、警察では警護しきれない、と私は判断しました」
ユーリはそこで息をつくと、今度は僕の方を見た。僕はざっくりと今までの経緯を説明した。皆、一様に驚いている。
「サミット会場になる新エリアは、プレイヤー同士のバトルが許された新しいエリアだ。一番の目標は、サミットが行われる会議室で、これはハーフムーン城のバルコニー傍の10階の大広間になる。此処に辿り着かれて首脳たちが削除されたら、会議は失敗に終わる」
「けど、その超高速を使われたら、私たちにもなす術はないんじゃないの?」
グレタが流し目を送りながら、そう言った。
「そう。けど、アルデバランにしても、城に入る前からいきなり超高速を使えば、会議室まではもたない。だからある程度までは手勢で警備を蹴散らしながら接近するはずだ。けど相手は多分、『トゥルー・ソード』で戦闘訓練を積んだ傭兵部隊『ブラック・バッファロー』の連中だ。恐らく『ノワルド』用にキャラクターもレベルアップして準備してると思う」
「おい、今、なんて言った?」
レオが急に声をあげた。皆がその雰囲気にレオを注視する。
「ブラック・バッファローってそりゃ…俺の故郷で鉱山を支配した武装勢力だ」
「そう言えば、アルデバランの活動履歴に、コンゴがあったね」
「俺の国は、隣国ルワンダからの移民間や、部族間での内紛が絶えなかった……」
レオは苦い表情でそう話し始めた。
「幼い頃から、ずっと戦争だったよ。女の子は10歳くらいになると、兵士たちの道具にされてた。けど男の子は、労働力であると同時に性的な対象でもあった。働かされた上で、弄ばれる…。そして物心ついた時には、銃を握らされる。友達の多くが死んだ…俺は、生き延びるのに必死だった。あの武装連中の大半がいなくなるまで、国は本当に悲惨だった」
「NISがコンゴで採掘をしていたという訳ね」
ケイトが納得したように頷いた。レオは僕の方を見ていった。
「協力させてもらうよ。あいつらには恨みもあるし、このサミットを破壊するなんて真似させたくない」
「あたし達もだよ」
リスティが口を開いた。
「レオにそんな過去があるなんて知らなかったけど…まあ、あたし達も近い状況だ。あたしは紛争に巻き込まれて、身体の一部を失ったし、グレタは同性愛者というだけで、死刑にされかけた」
「同性愛者?」
リスティの言葉に、学が反応した。
「貴女たちは、ゲイなんですか?」
「まあね」
リスティがほがらかに笑う。学はそれを真剣な面持ちで見ていたが、やがて口を開いた。
「ぼく…実はノワルドのアバターがあります」
そう言うと学は、僧侶の姿になった。ただし僧侶服の上から判るほどの筋骨隆々たる体躯で、上背も高い。しかしフレームの薄い眼鏡はそのままで、知的そうな顔である。
「この姿では、ナビとお呼びください。そして私も参加させていただきます」
「ありがとう。治癒系かつ物理攻撃か、いいね、凄く戦力になる」
「ぽめらは何したらいい?」
ぽめらが声をあげる。それに続いてマサオも声をあげた。
「オレはどうしたらいいんだよ。オレも変身してえなあ」
「二人はノワルドでのキャタクターがないので、まずそれを造るけど、後で一緒にレベル上げに行く。けど、基本的にはキャラクター能力にこだわらず、デリート・ガンとデリート・ソードで支援を頼みたいんだ。――みんなに言っておきたいけど、もちろんこの戦いで死んでも、現実に死ぬわけじゃない。けど多分、相手はデリート・ガンとデリート・ソードで武装してる。それにやられると、アバターが消えてしまう。その覚悟だけは、しておいて」
「大丈夫です……」
ふと、マリーネが声をあげた。見ると、もう涙ぐんでいる。それを必死に堪えながら、マリーネが言った。
「皆さんが消えないように…頑張って支援します!」
「ありがとう、マリーネ」
両手で拳をつくって気合を見せたマリーネに、僕は笑ってみせた。




