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禅空の稽古

 それから僕は、禅空先生と立ち合った。最初の一本は、一瞬で斬られた。リセット・ポイントを此処にしたので、すぐにその場に戻って来る。その後も、何度も僕は斬られた。


 先生の元を去ってから、ノワルドで決闘もしたしそれこそアルデバランとも戦ったが、先生の剣技の凄さは比較にならなかった。けどそれは、威圧的だったり恐ろしいというものではない。気づくと斬られている、という体のものだった。


 先生は殺気を出さない。出す時は、それはなんらかの仕掛けなのだ。殺気がないまま、すっと入り込んでくるか、その殺気に動かされたところを斬られるか。何しろ、動きは極めて速く、いつの間にか動いてる。そういう動きだった。


 最初の30分くらいはケイトも見ていたが、やがて「終わったら、連絡して」と言い残し去っていった。僕は構わず、先生と立ち合っていた。2時間くらいやった時、先生が不意に微笑しながら言った。


「稽古はしてたようだな」


 僕は嬉しくなった。そう、僕は先生の元を去った後も、独り稽古を続けていた。そしてノワルドでも多くの戦いを経験した。考えて工夫をし、また稽古する。その繰り返しだと先生に言われた事を、忘れずに守っていた。


 やがて僕は気づいた。先生はそれまでに教えてくれたことを、僕が思い出すように反復してくれている。僕の剣技はノワルドでモンスターなどを相手にするうちに、荒くなった部分があった。それを丁寧な剣技を思い出すように、稽古をつけてくれている。剣を交えて必死になりながら、先生の指導に泣きそうだった。


 6時間くらい経った。僕の剣が、一瞬速く先生の肩を斬る。先生は僕の眼前で、剣を止めた。多分、実戦なら先生は深手だが、僕は即死だ。けど、禅空先生は微笑を洩らした。


「まあ、いいんじゃねえか。満足したよ、俺も」


 禅空はそう言うと、刀を納めた。体力には反映しない、はずなのに、全身に凄まじい疲労があった。僕は身体を支えきれず、その場で座り込んだ。


「…ありがとうございます」


 僕はそのまま、地面に額をつけた。本当に有難かった。この恩義に報いたい――そんな想いで胸を熱くしていると、先生の声がした。


「まあけど、あいつに勝つのは難しいかな」


 僕は驚いて、先生を見上げた。


「少し稽古したくらいで、いきなり強くなるんなら苦労はしねえよな。奴だって、今までに多くの積み上げがあるから実力がある」

「じゃあ……」


 僕は、どうしたら――


「お前は、あいつに勝つのが目的なのか?」


 今更、何を訊かれているのだろう。僕は混乱した。


「守るべきものを守る事と、相手に勝つことは違う場合もあるぜ」


 禅空はそう言って笑ってみせた。


「先生、それはどういう――」

「何が必要か、自分でよく考えるこったな。じゃあな、今日はいい稽古になったぜ」


 禅空はそう言うと、ログアウトしようとした。僕は不意に思い出して、禅空に声をかけた。


「あ、先生、公安の国枝さんが『よろしく』って言ってました」


 禅空が動きを止めて僕を見る。


「佑一が? ――お前、早くそれ言えよ」

「あ、すいません。なんか必死で…」


 禅空は苦笑してみせた。


「あの野郎に、たまには顔出せって言っといてくれ。――アルデバランと真剣勝負したら、勝っても負けてもいい。お前の破門を解く」

「先生!」


 僕は驚いて、声をあげた。禅空が微笑む。


「また遊びに来い」

「……先生、ありがとうございます!」


 僕が深く礼をして頭をあげた時、もうその姿は消えていた。


   *


 そこに集まった面子は、次のようだった。

 レオニード、リスティ、グレタ、ケイト、ユーリ、そしてマリーネと桜月ぽめら。加えて疾風マサオと赤路学、である。


「あの~……これはどういう…?」


 委員長の学が、眼鏡の奥で怪訝な目つきを隠さず口を開いた。

 集まってもらったのは、ノワルドの中にある小さな家だ。街から離れた森の中にある丸木小屋である。そこで皆にテーブルを囲んでもらった。しかし怪訝な顔つきは、皆、大なり小なり一緒だった。ただ、リスティとグレタだけが何かを悟っている。


「みんなに協力してほしい事があって、集まってもらったんだ」


 僕は言った。


「みんなに、明日のサミットの警護を頼みたい」

「サミット?」


 驚きの声をあげたのはマサオだ。レオがそこで口を開く。


「サミットの警護なら、警察がやってるんじゃないのか? 俺たちは素人だぜ」

「うん。警察の警護もつくことになってる。…けど、彼らは『ノワルド』の上級者じゃない」


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