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ソードマスター禅空

 からかうような声。この人は全く変わらない。


「一緒に仕事をしているケイトさんです。――ケイトさん、こちらは禅空先生。この『トゥルー・ソード』では、ソードマスターと呼ばれている人です」


 ケイトが礼をする。禅空も、軽く会釈した。


「で……どうしたってんだい? まさか、そのお嬢さんを弟子にしろってんじゃないだろうな」

「いえ、違います」

「じゃあ、何だ? 言っておくが――破門にした弟子に、教えることはないぜ」


 口調は軽いが、内容は厳しかった。やはり僕は禅空に許された訳ではない。胸が締め付けられて、苦しくなった。


「破門?」


 ケイトの怪訝な声がする。僕の脳裏に、過去の事が一瞬で甦ってきた。


   *


 些細な事が始まりだった。


「ソード・マスターとか言ってるが、あんたは実際に戦場で人を斬った事があんのかい?」


 そうつっかかってきたのは、ホーン・ブラックの隊員たちの一人、ガザである。ガザは迷彩柄の戦闘服をまとい、肩から小銃をぶら下げていた。その後ろには、ホーン・ブラックの教官、赤い丸目ゴーグルのアルデバランがいた。アルデバランはガザの行動を、にやにや笑っているだけで止めようともしない。弟子の暴言を、そのまま静観するつもりらしかった。


 禅空はそれに対し、苦笑を浮かべた。


「ないね。俺は平和に暮らしてるんでな。それに、別にソード・マスターとかこっぱずかしい事を名乗った覚えはないんだがな」


 それを聞いたガザがさらにつっかかる。


「フン、日本の古流剣術とかいうものが、実戦の役に立つのか? 実戦も知らない奴が、有難がって拝んでるだけだろうよ」

「俺は別に、実戦の役に立つと言った覚えもないんだが…」


 禅空はただ軽く受け流すだけである。


「俺はただ、知りたいって奴に教えてるだけだよ」

「ハン、実際の力もない型を、偉そうに教えてるだけか」

「そうかもな」


 禅空は軽く笑った。禅空先生は怒らない。だが、傍にいた僕がその暴言に憤った。


「お前! 実際の力がないだと? お前自身で試してみるか!」


 僕の声を聴いて、ガザが喜色を露わにした。


「いいぜ、やってやるよ。お前たちの化けの皮を剥がしてやるよ」


 ガザが腰のホルダーからナイフを抜き、小銃の先端に着装した。銃剣の状態である。


「おいおい、無駄に喧嘩すんなよ。立ち会う時は、礼儀が必要だぞ」

「けど先生、あいつが先生を侮辱したんです。許せません」


 僕は前に歩み出て、ガザと向き合った。ガザが歯を剥き出しにして笑ってみせる。威圧してるつもりなのだろう。僕は黙って剣を抜いた。


 少し足を前に出し、切先を相手の左目につける。青眼の構え。ガザは切先を中心に据えている。一撃で心臓を射抜く構えだ。


 僅かに歩み寄った。と思うや、ガザが銃の台尻の方で横殴りにかかった。間合いが伸びてくる。銃の先端のナイフを見ていたら、恐らく打たれていただろう。だが僕は、ガザの動き全体を捕らえていた。台尻を僅かに躱し、逆にその攻撃の裏に入り斜めに斬る。僕の剣が、ガザの顔を斜めに割り込んだ。


「が……」 


 ガザが呻いて倒れた。勝負は一合で終わった。


「It”s over」


ゲームからの終了アナウンスがかかる。ガザの姿が消えた。立ち合いに負けたら、それぞれのスタート・ポイントまで戻る仕組みだ。


「やるなあ、小僧。次は俺とやらないかい?」


 不意にアルデバランが、そう言いながら出てきた。


「別に貴方と立ち合う理由はありません」

「可愛い弟子がやられてんだぜ? 俺に敵討ちさせてくれよ」


 そう言いながら、アルデバランは舌を出した。そしてその両手は後ろ腰の鞘から二本の長い鉈を抜いている。躊躇する間もなく、アルデバランが仕掛けてきた。


 左の袈裟切りと右下からの切り上げが、ほぼ同時に襲いかかってくる。袈裟切りを間合いで見切り、切り上げを剣で受ける。が、突然、腹部に横蹴りを受けた。


「ぐっ」


 思わず後ろによろめいたところを、鉈が手首を狙って振りかかってきた。避けられない。


 その瞬間、僕はクロノス・ブレイカーを発動させた。


 アルデバランの動きが突如、止まったようにゆっくりになる。僕は小手を躱すと、再び時間を戻した。

 アルデバランの鉈が、小手を空振りすり抜ける。自らの攻撃が外れた事が意外だったのだろう。その驚きに包まれているアルデバランの腹部を、剣で貫いた。


「チ…やられちまったか……」


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