表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/115

トゥルー・ソードへ

「クロノス・ブレイカーの人証識別を解除して、国枝さんに持ってもらうんです」

「貴方、その人証識別を解析するのに、一年くらいかかるって言わなかった?」


 ケイトの声に、僕は答えた。


「普通のコンピューターなら、です。それをクロノス・ブレイカーを用いて、量子コンピューターの最大速度で解析すれば…試したことはないけど、一日くらいで解析できるんじゃないかと…」

「いい案ですが、問題がありますね」


 国枝が、思案気に口を開いた。


「実のところ、私でもアルデバランを止められるという気がしません。戦って判りましたが、もし実戦なら私の方がやられていた。というか、あのアルデバランと白兵戦で勝てる者というのは、相当に難しい条件です」


 頭の良いこの人のことだ、本当にそう分析したのだろう。しばし途方に暮れたように、僕らは黙り込んだ。僕は考えて、覚悟を決めて口を開いた。


「……一人だけ、アルデバランに勝てる人を知ってます」

「なに? 何処の誰?」


 ケイトが勢い込んで訊ねる。


「その人は、『トゥルー・ソード』にいる――僕の師匠です」


 僕はそう答えた。


   *

 

「……ちょっと…いつまで歩くのよ、これ?」


 ケイトが不満たらたらの顔で音を上げた。無理もない。僕たちは既に山道を30分以上登っている。

 とはいうものの、これはゲーム空間の中の峠道だ。本当に日焼けする訳でもないし、足が筋疲労で動かなくなることもない。…筈だ、多分。


「『トゥルー・ソード』では土地を購入して、好きにフィールドを広げることができるんですよ。うちの師匠は何を思ったんだか、こんな山を造って、そこに籠ってるんです」


「それにしても何? あのログインする前の体力測定みたいなのは?」

「文字通り体力測定ですよ」


 腕立て伏せ10回、スクワット10回、反復横飛び10回、垂直飛び5回。それ以外に持っている武器で素振りを10回。基本攻撃を10回。…と、これくらいの事をやった上でログインしたのである。


 僕は木洩れ日の中を歩きながら説明した。


「あの運動をしてる間に、フロート・ピットが身長や体重はもちろん、筋肉量やその強さ、瞬発力、持久力などを計算するんです。武器の重さやその負荷も計算します。『ノワルド』では、プレイヤーの体力が反映されないように、キャラクターの行動反応速度は一律でした。けど『トゥルー・ソード』は全く逆で、プレイヤーの肉体的条件を完全に反映させることが狙いなんです」


「なんで、そんな事するの?」

「そこでリアルな斬り合いができるようにです」


 獣道のような細い地面を辿って、足を進める。


「剣道にしろフェンシングにしろ、試合形式のものは実際に真剣を使う時とは動きが異なってきます。古流剣術のように寸止めで試合しても、逆に危険性は残る。しかしゲーム空間の中なら、肉体的条件を再現しつつも、安全に実際に近い斬り合いができる。それが『トゥルー・ソード』です」

「なるほど…訓練場所にはもってこいね」


 ケイトが頷いた。


「実際、沢山の人が、正体を隠してこのゲームに参加してます。剣道のチャンピオンや、古流剣術の宗家等、素で負けることが許されないような立場の人も、此処では自分の実力を試せる。それに中国拳法家やフェンシング等、様々なジャンルの人も集まるようになった。土地を購入してフィールドを造り、大掛かりな軍隊の演習地にしてる国もあります。けど基本は、正体を伏せたままです。ちなみに師匠も外れないサングラス姿です。――着きましたよ」


 着いたのは、背の高い藁ぶき屋根の古民家だった。表の庭に面して、長い縁側がある。その間口は完全に開け放たれていて、開放的な空間が家の奥まで見えた。


 庭に独りの男がいる。

 青い着物に袴をはいているが、その股立ちを取り白い脚絆が見えている。腰には二本大小の刀が差され、その一本の抜き身を手にしていた。


 その着ているものは武士風だが、顔にはフレームの太いバイク・サングラスがはまっている。その黒いグラスの下には、薄く口髭と顎鬚を生やしていた。


 男がこちらに気付いて、刀を納める。僕は一度立ち止まって、礼をした。男は腰に手を当てて、その場に佇んでいた。僕は入ってもいいサインと受け取り、歩を進めた。


「お久しぶりです…禅空先生」


 僕は近づいて、改めて頭を下げた。顔を上げると、禅空が微笑んだ。


「アキラか。確かに久しぶりだが。――美人連れとは恐れ入ったね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ