⒒、トゥルー・ソード リスティたちの素顔
雪人からもらったフックを使い、僕は移動した。
そこは広い体育館のような場所だった。集まった人々が、僕の顔を見て驚く。その多くが、中東系の顔だ。
「誰だ?」
「どうやって、此処に来た?」
僕は制するように、片手を上げた。
「待って下さい。僕は相良雪人の代理で来た者です。リスティとグレタに会いに来ました」
僕の言葉を聞くと、髭面の男たちが顔を合わせる。その向こうから、一人の少女が姿を現した。
「ユキの代理だって?」
現れた少女は眼鼻がくっきりとした濃い顔立ちの少女で、まだ若く17、8歳くらいに見えた。服の上からでも判るくらい細身で、その左脚は膝の下から無くなっている。少女は、杖をついて歩いていた。
「…君が、リスティ?」
少女が怪訝な顔をする。と、すぐに目を見開いた。
「まさか…キアラなの?」
僕は頷いた。さらに奥から、もう一人の女性が現れる。こちらは40代後半くらいだが、ボブにした黒髪の半分が白くなっていた。
「此処で私たちと会うとはね」
その口調で察した。この年配女性が、グレタだった。
*
「――ユキが…死んだ?」
別室で、ここに来るまでの経緯を話すと、リスティは驚きの声ををあげた。僕は黙って頷いた。
「うそ……」
リスティが涙ぐむ。それを見ると堪えきれず、僕の眼からも涙が零れた。
「キアラの言う事だから、本当なんだろうね…」
グレタも憂いの表情で、ため息をついた。
「けどキアラがグラードだと知った時から…少し予感はしてたよ。もしかしたら、こっちで会うんじゃないかって」
グレタはそう言った。
「君たちは、雪人がサガだって知ってたのかい?」
「ううん。けど、ユキは初期は、凄い額の援助金を出してくれたの」
リスティはそう言った。少しノワルドの面影があるだろうか。けど、グラマラスな女剣士とは、まったく見かけが違う。
「僕と雪人は…大学の友人だったんだ。だけど、雪人がリベレイトに関わってるなんて、全く知らなかった。…どうして彼が、君たちの支援を始めたのか、聴いてるかい?」
「ユキは、自分を同性愛者だって言ってたよ。私たちと同じでね」
そう答えたのは、年配女性のグレタだった。
「けど家族にも友人にも、そして好きな相手にも告白してないと言っていた。そんな中、同性愛者というだけで死刑にされるNISの事をニュースで知ったらしい。それが気になって調べてるうちに、私たちの置かれてる状況を知った」
僕は神妙な気持ちで話しを聞いた。リスティが、努めて明るい声を出す。
「ノワルドのリスティみたいにお色気が無くてごめんね」
「いや…そんな事は」
「あたしは12歳の時、地雷を踏んで片足が無くなった。けど、そのおかげで、あたしはNISの男たちの奴隷にならずに済んだの。わたしの同じ年くらいの女友達は…男たちの奴隷として、13、4歳頃には、みんないなくなってしまった。あたしがミラリアでも片脚を無くしたままなのは、その子たちを忘れないため」
「私は隠れていたビルが爆撃されて、頭が半分無くなりかけたの」
リスティに続いて、グレタが話し出した。
「なんとか命を取り留めたけど…その傷跡からは白髪しか生えなくなった。私は…面倒だから、スキャンされたままにしてるだけだけど」
二人の命のかかった話に、僕は驚くしかなかった。
「16歳の時、あたしはグレタに助けてもらってNISを脱出したの。あたしは自分がレズビアンだって判ってたけど…到底言えなかった。言えば死刑にされるから。NISでは同性愛を認めてない」
「それどころか、女にはあらゆる権利を禁じてるわ。携帯電話を持つ自由、髪や素肌を出す自由、好きな相手を選ぶ自由、それに…教育を受ける自由」
グレタの後に、リスティが言葉を続けた。
「中には女性がスカーフで髪や顔を隠すのは、男たちの好色な目線を避けるのに役立つ、と言って擁護する女性もいる。けど、あたしたちは、スカーフを巻いても巻かなくてもいい自由が欲しいの。それが他国では当たり前に許されてるという事実を知る、教育を受けたいのよ」
リスティの眼に、強い光が宿っている。そのために彼女たちは戦い続けてきたのだろう。




