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八話 カチコミ

 


 ファルコスファミリーだかゴミカスファミリーだか忘れたけど、とりあえずムカつく奴らの屋敷みたいな根城にやってきた。

 メメリュが入り口を見張ってたやつに話しかける。


「ハロー。死ね」


 バットを一振り。一人、壁に埋まった。二振り目、二人三人地面に埋まった。俺も遅れてはいられない。

 デバイスを起動し、身体強化を発動する。そして最後の一人に接近、頭を掴み、地面に叩きつける。


「さて、お邪魔しまーす」

「オラァ!」


 バゴォーン! と、メメリュが入り口の門を思い切り蹴飛ばした。凄まじい音を立てて蝶番が吹き飛び、門扉が俺達よりも先に中へ侵入する。

 中にいた何人かの人相の悪い男達が勢いよく飛んできた門扉に轢かれた。さて、門番達を叩きのめしていた時点で俺達の存在に気付いていたゴミカスファミリーの皆さんはここにきてようやく戦闘態勢だ。遅い、俺とメメリュを前にしてその体たらくではあまりにも、遅いのである。


「カチコミだァァ!」


 誰かが叫ぶ。その直後に身体強化を最大で発動した俺にぶん殴られる。もちろんメメリュも既に暴れている。


 近くにいた男を蹴り飛ばし、殴り飛ばし、掴み投げ、ちょっと遠い奴は《シューティングスター》をぶち当てる。

 彼らもやられ放しでは終わらない、俺に対して幾つかの魔法が飛んでくるが全周囲を囲う『結界プロテクション』で防御。俺が反撃する前に台風のようにバットを振り回すメメリュに轢かれていく。


「おい! 俺の獲物取りすぎ!」

「ハァ!? 早いもん勝ちだゾ! 私は急に襲われてめっちゃムカついてんの!!」


 メメリュは、俺の巻き添えで急に襲われたらしい。まず大勢で囲まれて凄まれたそうだ。めっちゃムカついてすぐにぶん殴ったと言っていた。そして、ミィロのやったことは私に関係なくない? でもそんなことしてくるなら関係者になってやるよボケコラ殺したるからなぁ。って言って、今ノリノリでマフィアらしい人たちをボコボコにしている。


 これこんな事して俺たち大丈夫なの?


 でも刺された左手すごく痛いし、突然現れて刺してきたアイツのことボコボコにしないと気が済まない。けど、ボス的存在のあの男にたどり着くには手下達を薙ぎ倒さないといけないのだ。

 てかなんであんなイかれた奴の手下やってんだよコイツら。腹立ってきたな。門から少し進んで屋敷に侵入したら、デバイスを構えた男達が襲ってくるのでボコボコにしながら少し考えてやはり許せないと憤る。

 楽しく臨時パーティの人達と打ち上げしてたのに、邪魔されて手を刺されたのだ。めっちゃ血が出たし。ああ……また、ムカついてきたな。


 何者かが放つ魔法強化された銃弾が俺の頭に当たる。ただの銃で放たれた通常の弾丸ならば異世島の人間には効果が薄い、むしろ異世島の人間にはデバイスを介した攻撃以外は通りにくいというべきか。なので異世島で銃を撃つ時はデバイスによって魔法強化するのが一般的だ。

 しかし、身体強化を常にフルで起動している俺は倒れない。でも痛いし、血も出た気がする。許せない。

 獣のように俺は高く跳ね上がり、吹き抜けのようになっている広間の二階通路に着地するや否や、そこから魔法銃弾を撃ってきた下手人の首を引っ掴み、近くにいた他の連中に向けて棍棒のように振り回す。


「死ねコラァ!」


 人間の身体は武器としてはそんなに強くなかった。ポイっと捨てて、俺は少しスッキリした頭で本来の目的を達するために近くに居た意識の残る男の首を掴み、優しく聞く。


「おい、テメェらのボスはどこだ。早く言わないと───この首、へし折るが?」

「ひっ、ヒィッ! ま、待ってくれ……言……アガ……」


「ミィロ、首締まって顔色えらいことになってるよ」


 後ろからメメリュに言われてハッとなる。力を緩めて、反省した。俺は最近、少しキレっぽくなっている。おそらくメメリュと共にいるせいだろう。この女はかなり短気なので、俺もその影響を受けているのだ。


「なんか失礼なこと考えてない? てか、地下にいるってさ」

「地下あるんだ」


 俺が反省している間にメメリュが聞き出してくれたらしい。ということで、その地下とやらに向かうことにした。

 地下への階段まで来ると、誰かが慌てて上がってくる。その顔には見覚えがあった。俺を刺したクソ野郎の側に居て、アイツへの攻撃を邪魔してきた奴だ。


「一体、なんだ! この騒───」


 飛び膝蹴り。空中で足を組み替え、後ろ回し蹴り。壁に叩きつけられて男は沈黙した。


「よし、行くか」

「逞しくなったねぇ……ミィロ」


 ホロリと、涙を流す仕草をしながら感慨深げにメメリュが言っているが無視をした。



 地下には檻のようなものがいくつかあった。地下牢ってやつか、ふらふらと覗いてみる。牢の中にはなんかよく分からない肉塊みたいなのが落ちてたり、白骨……人間のものらしきそれが落ちてたり……うわぁ、これ絶対碌な奴じゃないよ。


「ミィロ!?」


 鼻をつまみ、ウゲェと顔を歪めながら歩いていると何やら聞き覚えのある声が。声のした方を見ると、以前臨時でパーティを組んだ男三人と女一人のパーティが牢に入れられている。

 少し怪我をしているように見えるが、軽傷のようだ。他の牢に入れられていた者達の末路を見た後なので、少しホッとする。それも束の間───


「罠だ!」


 プシュー! と、至る所から何かが噴き出す音がしてきた。「ど、毒だ!」誰かが叫んだ。メメリュは「ふーん」と言って余裕の表情である。もっとビビれよ。

 俺は即座に臨時パーティのメンバーを囲うように『結界プロテクション』を張る。すると、結界の表面を瞬く間に覆っていく視認はしづらい普通の空気とは違う何か。毒ガスか……。メメリュはあくびをしているあたり、俺とメメリュの身体には効かないのかもしれない。弱い毒をわざわざこの状況で使ってこないだろう。つまりおかしいのはあくびをしている方だ。どうなってんだよアイツの体。


「はぁー? 入り口閉められたじゃん」

「く、クソがァァァァァ!」


 俺が結界の維持に動けないことを確認して、メメリュがどうしたものかと思案していそうな顔をする。

 だが、俺の怒りはマックスである。俺によくしてくれた友人達を人質に取り、あまつさえそれを囮に毒ガスだぁ? なんて姑息で卑怯な真似をしやがるんだ。


魔力ファルナ全開!」


 ギュィィィィン!

 デバイスが唸る。俺の魔力とデバイスの性能ならば───結界プロテクションを維持しながら、最高出力の『星弾シューティングスター』を撃つことが出来る。


 キラキラと、銀河の如き輝きが俺の頭上に瞬く。そして重力に逆らうように、空に登る流星群が地下牢の天井を粉砕した。




 *




「やったか」

「はい、奴ら、まんまと地下に入りました」


 部下に指示を出して毒ガスを噴霧させる。一吸いで人間を丸呑みにするような獣でさえ身体の自由を奪われる麻痺毒だ。

 しばらくしてガスが晴れたら、トドメを刺しにいくとしよう。当然、この愚行を充分に後悔させてからになるが。


 ファルコスの胸に満ちていた怒りはそれで晴れるだろう。今も、それを想像しただけでわずかに口角が上がる。


 ガキ二人。たった二人で、ファルコスファミリーはボロボロだった。攻撃が当たっても、皮膚を少々傷つける程度で全く止められなかった。あの細く小さな身体にどれほどの身体強化を施していたというのか……。


 だがあれほどの強化に使う魔力とデバイス負荷を考えると、今頃は地下牢でなす術もなく地面に伏していることだろう。

 驚異的なガキどもであったが、こんなショボい策にまんまと騙された。


「ふん、お子ちゃまのお遊びじゃないんだよ」


 そう、嘲るような口調で呟いた直後。

 床が膨張し、割れた隙間から光を漏れさせる。


「な、なんだ!?」


 ファルコスが悲鳴に近い声を上げた直後、目の前の部下ごと床が爆発し天井近くまで吹き飛んでいった。

 瓦礫が舞う中、キラリと銀にちらめく金属のような反射。


「もー、らいっ」


 それは、野球と呼ばれる球技に使われるバットという道具に酷似した棍棒だ。それを、ブンブンとデタラメに振り回しながら桃髪の少女が瓦礫を足場にファルコスに強襲する。

 咄嗟にデバイスを構えて『ブレード』を起動、同時に身体強化───闇雲に振るわれたバットの軌道は読むに容易かった。ファルコスは少女の一撃を万全の姿勢で受け止めてみせる。


 そして、まるでドラゴンの尾を受け止めたのかと錯覚するような力でデバイスごと腕を弾かれた。


「ッ! ウォォォォ!」


 ファルコスはらしくない咆哮で己を叱咤する。酒場で少女相手に遅れをとったのは記憶に新しい、あの時はデバイスを離してしまった。だからこそ今は、絶対に離すわけにはいかないとデバイスを強く握り込む。

 なんとか、その手から取りこぼすことなく耐えた。しかし、桃髪の少女はすでに次の一撃を構えている。間に合わない。


「メメリュッ! 俺のだぞ!」


 目の前をいくつかの流星が走る。何者かの『バレット』が、桃髪の少女とファルコスの間を通り抜けていったのだ。それに驚き、メメリュと呼ばれた桃髪の少女は攻撃の足を止めた。

 一瞬の隙だ。ファルコスは、千載一遇の好奇を得た。


「う、うわぁぁわぁ!」


 なのに気付けば情けなく背中を見せて逃げ出す自分がいた。ファルコスは自らを疑った。心中に満ちていく恐怖が、いつのまにか自分の自由を奪っていたのだ。

 この俺が、『双海』一帯を支配しているこの俺ファルコスが! あんなガキ二人に、情けなく敗走……!?

 プライドがズタズタに引き裂かれていく音が聞こえるようだ。それなのに、ファルコスは逃げ出す足を止めることができなかった。

 意味不明なのだ。今まで生きてきて、祖父や父親から継いできた組を背負う前から、ファルコスを前に恐れず向かってくる相手なんて、『格上の立場』以外にいなかった。


 アイツは、ミィロとかいうやつはなんの後ろ盾もないガキだ。その姉らしいメメリュとやらも、同じだ。どの田舎から来たのか分からないレベルの田舎モン。『双海』はもちろん、住んでいる『賭場』ですらなんの影響力も持たない小物だ。


 それなのに、いやそれだから向こうみずに?

 しかしこれではまるで災害だ。


「メメリューッ!」


 その声にハッとして後ろを見ると、床の穴から飛び出して来た緑髪の少女……ミィロが自身を球状の《盾》で囲っている。その後まるで空中で屈伸をするように膝を曲げた。

 そして、そのミィロの足裏に合わせてバットを振るうメメリュ。まるで砲弾のように、ミィロが飛来して───




 *





 名付けて『魔球ミィロのメメリュ特大ホームラン』。俺とメメリュの合体必殺技だ。


結界プロテクション』で俺を覆うことで空気抵抗を均一化し、それをメメリュがデバイスでぶっ飛ばすことで強力な体当たりをかますことができる。

 もちろん、メメリュの馬鹿力で《結界》を叩かれたら砕けてしまうので、俺はメメリュのバットを足裏で受け止め上手く力を利用しないといけない。土壇場だが上手く行った。


 そうして俺たちの合体技を受けたファルコスというゴミ野郎は地面に転がって気絶している。さて、どうしたものか。散々暴れて割とスッキリしているのだが、やはりもう少しケジメというものをつけなければいけないよねって義務感はある。


「早くトドメ刺そうぜ」


 メメリュが近付いてきてそんな野蛮な事を言う。すっかり怒りも冷めた俺はその発想に少し引いた。


「いやいや、殺しまではいいよ。でも、もう少しボコろうかとは思って……でも、そこそこで良いんだ、そこそこで」

「ふぅん」


 どうでも良さそうにメメリュは言って、少し考える。


「あのさ《回復系の術式》って、損傷が致命的であればあるほど難しくなるのよ」


 ふと思い出したようにそう言ってくるが、急な話に彼女の意図がいまいち意味がわからなかった。首を傾げる俺に、気にせずメメリュは続ける。


「簡単に言うと、例えば腕なんか生やせないわけ、普通」


 喋りながらしゃがみ込んだメメリュがガシッと、ファルコスの頭を掴んで持ち上げる。更にグッと拳を握り込んで、俺にその拳を見せつけるようにしてニカっと笑った。


「『人間』だったら、歯はそうそう生えてこないんだよね」


 バゴッ! とメメリュはファルコスの顔面を殴りつけた。ドン引きする俺。メメリュの拳が離れると、ファルコスの前歯のほとんどが地面に落ちる。俺はドン引きした。


「まぁこんなもんでいいでしょ。帰ろっか」

「そうだね」


 まぁ……前歯くらいなら、手に穴空けるよりはマシなのかな……? さすさすとファルコスに刺された左手を撫でながら俺はすっかり冷えた頭でそう考える。

 てか、そうだよな。こんな酷いことされて、命までは奪わない俺は優しいと思う。メメリュだったら絶対さっきので殺してたよ。歯をへし折るの躊躇いなかったし、多分殺しも同じ調子で躊躇わなさそうコイツ。



 俺達が暴れたことですっかり変わり果ててしまったマフィアの根城を、一度ぐるりと見渡してからその場を去る。何だか達成感があった。


「てかこの後お礼参りとかされないよね?」

「されたらまたシバきにこれば良くない?」


 確かに。





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― 新着の感想 ―
ミィロは本当にたくましいチンピラになったね。 もう帰れないね。 それを踏まえてメメリュは何なの? どうしてここまでスラムのチンピラなの? そしてミィロは何時まで染まり切らずに居れるのかねw
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