二十二話 ガゥダーさんと銀波さんのデート(デートじゃない)
「あ」
メメリュと二人でラーメン屋に来たら、先にカウンター席で食べていた銀波さんと目が合った。
銀波さんというのは、体やエロい部分がデカい獣耳生やした獣人さんだ。割と強面側だとは思うが、ラーメンに舌鼓をうちながら尻尾をフリフリしている姿は普通に萌え要素だと思う。
「治安局の女じゃん」
「どうも〜」
隣しか空いていないし、一応顔見知りにあたるので気にせず座る。メメリュは素っ気ない態度だが、基本いつもこんな感じなのでいちいち咎めない。
「初めてか? ここのラーメンは美味いぞ」
「いや何回か、来てますよ。もしかして常連なんですか?」
「まぁな。毎日とは、言わないが」
「仕事忙しいんでしょ」
「そうだな……回復素材が異域から産出した時は、大変だった。もう落ち着いたが」
「あぁ〜メメリュからその辺は聞きましたね。マジ異世島、治安悪いなって思いましたよ」
「味噌ラーメンと醤油ラーメンひとつずつ。てか、あんたらそんな仲良かったっけ」
ペラペラと喋っている俺の代わりに俺の分もラーメンを注文してくれたメメリュが少し驚いた顔でそう聞いてくるが、別に敵対していたことがあるわけでもなし、顔見知りならこれくらい話すと思う。
「ふふ、まぁ君もそうだが……私を見てここまで怖じけずに話してくれる人……しかも子供は少ないからね。私も少々テンションが上がってしまったようだ」
「美人なのに」
「怖いんだとさ」
そういうものか。
俺は納得しつつも、なんか寂しそうな銀波さんを少しかわいそうに思う。プライベートな内容でまともに会話したのは今が初めてのような気はするが、話してみるとかなり気さくな感じもするし。
「そりゃ治安局の人間だからなぁ。あんたは知らんけど、結構無茶苦茶する奴もいるじゃん。それにハンターはカスみたいな奴多いからなぁ。必然、ハンターと治安局は揉めやすい」
私も何度か治安局のお世話になったし。と続けるメメリュ。多分だけどそれはお前が悪いと思う。
「とはいえ異世島においてハンター稼業は非常に重要だ。本当は我々も揉めたくはないが……ギルドとはそのあたりの擦り合わせが中々大変でな」
あ、そうだ。と銀波さんは続けた。
「そういえば、この後ハンターズギルドに用事があるんだった。では失礼するよ」
そう言って、銀波さんは去っていった。俺は届いたラーメンを啜りながら、なんか普通の人だったなぁと初対面で身構えていた自分が、今や嘘のように気を許していたことに気付く。
「あの人となら、仲良くやれそうじゃん。ねぇ?」
「私、治安局好きじゃないもーん。何度か捕まったし」
「それは絶対お前が悪い」
*
「銀波さん、良いよね」
なんとなくハンターズギルドに顔を出すと、突然ガゥダーさんがそんなことを言い出した。カウンターに両肘を置いて、顎を両手で支えながらうっとりとした顔で口を開く。
「まずあの鋭い目がいい。責任感に溢れててさぁ……」
「胸だろ」
メメリュがぼそっと言った。
「実際、あの人ってすごい真面目でさ、なんていうか声色で分かるじゃん。あのキリッとした声も耳に沁みるよね……」
「デケェ胸が好きなんだろ」
ガゥダーさんはまるでメメリュの声が聞こえていないかの様に続けた。
「あとデケェ胸」
いやそこでデカい胸が好きなのは認めるのかよ。俺は馬鹿馬鹿しくなってその場を離れた。
*
「というわけでさ、ガゥダーが銀波を紹介しろって」
ちょうど『レイクスと二人の従者達』というパーティの全員がテーブルを囲ってトランプをしていたので、そこに混じって駄弁っているとガゥダーさんのところから戻ってきたメメリュが第一声にそう言った。
「ん? ガゥダーさんって今、銀波さん狙ってんの?」
「銀波って、治安局の?」
「絶対、胸目当てよ。ガゥダーさんってちょっとやらしい目線送ってくることあるし」
それは許してやって欲しい。身体はメメリュと同じだが、同じ男の心を持つ俺としてはガゥダーさんのことを責めることはできない。
「ケツも好きらしい」
「もうやめなよ……」
チラリとガゥダーさんの方を見ると、声は届いていないのかニコニコとこちらに手を振ってくる。
「しかし、紹介しろと言われても……精々が通ってるラーメン屋を知ってるってくらいだぞ」
以前、銀波さんと会ったあのラーメン屋である。
「もうその店のこと教えたらそれで良いんじゃね?」
めんどくさそうにメメリュが吐き捨て
「ラーメン屋で会えるまで通うって、なかなか厳しそうだな、一日に三杯も四杯も食べるわけにはいかないだろうし」
「そもそもラーメン屋でナンパ目的に話しかけられたら、嫌じゃない? 普通に」
「でもそれ以外だったら治安局に直で行くくらいしかなくないか? 銀波って、かなり忙しい局員の一人だろ」
レイクス(略)パーティが真剣に話し合う。俺も少し考えた。確かに、ラーメン屋でナンパはいやだろう。少なくとも銀波さんはよく思わないと思う。
「でも治安局に直で行くって、ラーメン屋よりヤバい気がする」
俺がそう言うと、まぁそりゃそうだと皆が頷く。
「どうでもいいじゃん、とりあえずラーメン屋教えようぜ」
*
「えーこれより我々は、この山に逃げ込んだ『指名手配ハンター』捕縛のため、山狩りをしまーす」
ガゥダーさんにそう言われて、俺達は山に入る手前で「おーっ」と手を挙げた。レイクスと(略)パーティや、他にもゾロゾロと何組かハンターが俺達に続く。
「で? なんでこんなことに?」
メメリュがそう言った。俺も分からなかった。ラーメン屋に行き、一週間かけてようやく銀波さんと遭遇できたガゥダーさんはその日のうちにデートの約束まで取り付けたとはしゃいでいた事も覚えているし、そのあとデートの打ち合わせと言って真昼間の治安局まで出向いていたのも知ってる。
で、帰ってきたガゥダーさんはハンター達を集め、数日後のこれである。うん。多分、デートの約束だと思ってたのガゥダーさんだけでしょこれ。
「まぁいいかぁ、楽しそうだし」
メメリュと同じ意見のハンターは多いらしく、犯罪者を狩りに来たのにまるでいちご狩りに来たかの様な賑わいであった。
一方で制服に防具をつけたお揃いの装備でずらりと並ぶ治安局の面々の顔は、それは真剣そのものでハンター達とは気構えからして違う。
「レッドハンターは一般島民を脅かす存在である! 我々治安局はその威信をかけて! その命の清算を行わなければいけない!」
ちょっと言ってること物騒ですね。
「えー、今回のレッドハンターはすでに治安局員を数人殺してます。なので治安局の方々はめっちゃ殺気立ってるので、せめて邪魔はしないで下さーい」
ガゥダーさんの呑気な声に「うぃーす」と中学高校の部活みたいな返事を返すハンター達。こんな重要な局面に何故、こんなゴミどもを呼んだのだろうか。人数不足?
「本来なら貴様らの様な下賤な者達に頼りたくはないが、ハンターのことはハンターの方が詳しいだろう……報酬は弾むことは約束する。ぜひ、知っている情報と諸君らの力を貸して欲しい」
治安局のちょび髭生えた鋭い目をした偉そうなおっさんが、ハンターを煽りながらそう言った。うんうん、と頷く治安局員も結構いるのでハンター達が俄かに血の気立つ。
しかし、突然ハンター側の空気が変わった。お立ち台の上で話していたガゥダーさんを押し退けて新たに現れた男が声を発する。
「ハンター諸君、レッドハンターとは我々の恥だ。名誉を汚す存在だ。我々にとって命よりも大切な、『信用』を汚す存在だ。許してはならない、生死問わず……必ず確保せよ」
ハンターズギルドの長である。シワの刻まれた顔面はハンター達を束ねる存在にしてはえらく高貴で知的だ。綺麗に整えられた頭髪と髭も、その雰囲気を飾るのに一役買っている。
しかし、その瞳に宿る暴力的な輝き、豪奢なマントとスーツの下に隠しきれない肉体の隆盛、それらはまさにハンターの鑑といえた。
「ギルド長、久々に見たけど凄いオーラだなぁ」
「昔はぶいぶい言わせてたらしいよ」
ギルド長の全身から迸る気勢はそれはもう、仲間をヤラれて殺気立つ治安局の人達に全く引けを取らない。
ただでさえ社会的信用が低いハンターという職業、その信用を失墜させかねない『ゴミ野郎』には凄惨な死を迎えさせる。その様な意気込みを、ギルド長の言葉の裏に感じた。
生死は問わないが、おそらく最終的に死体は見せしめに酷い姿で街に飾られるだろう。よくあることだとメメリュから聞いた。マジでハンター界隈っていうか異世島の治安終わってると思う。
そんなヤのつく職業もびっくりな心持ちでいるハンターズギルドと、全く引けを取らない気勢の治安局もやる気がすごいよね。
これは復讐なのか、自分達の治安維持という仕事に誇りを持っているからなのか、ハンターに負けていられないから、どちらなのかはわからないが……とりあえず、見渡す限り集まった大勢のそんな連中から追われるレッドハンターがもはや可哀想に見えてきた。
「では隊列組めィィ!」
「包囲網に隙間を空けるなよ!!」
「じゃあ銀波さん、今日はよろしくお願いします」
「ふむ、ガゥダーくんか。君が隣とはな。上の者達には対抗心が目立つが、今宵の我々は味方だ……ともに頑張ろう」
まぁ、そんなこんなでガゥダーさんと銀波さんのデートが始まった。俺とメメリュもめんどくさい気持ちを隠さないまま、山狩りに進む……。
*
「アニキ、俺達もここまでっすかね」
「馬鹿野郎、誰がここで負けるかよ」
大きな木の上で二人話し込む男達。
顔面に大きな傷がある男と、スキンヘッドの男だ。傷の男は不敵に笑い、手に握り込んだ何かの骨を砕き割る。
スキンヘッドの方は少し細身で、彼よりも三倍くらい体躯の大きい顔に傷の男をアニキと慕っている様だった。しかしその顔には疲弊と不安が浮かんでおり、絶大な信頼を寄せているはずの傷の男にすら、弱音を吐く。
「でも、もう治安局の連中、ハンター達まで動員してますよ。本気で俺達を……」
「まだだ、この異世島にはいくらでも逃げるとこなんてある」
賭波や我愚といったエリアなら、逸れ者も多く彼らがそこに潜り込んでもなんの違和感もないだろう。
とはいえ、その辺りを支配している裏稼業の者達には顔を通す必要はあるだろうが……。
「治安局にわざわざ引き渡すような真似はしねぇだろう」
多分、という言葉は飲み込んだ。
傷の男の仲間は、もうスキンヘッドしかいない。自分をアニキと呼んで信頼している彼の期待を裏切れない。その思いだけが傷の男の矜持を支えていた。
自分の実力に限界を覚え始めたハンター稼業。一人二人と離れていく仲間達、それでもハンター稼業にしがみつき……怪我の治療と装備の維持と収入が釣り合わなくなり、やがて首が回らなくなって……。
楽な方法を、覚えてしまった。
異域での『狩り』を終え帰路に着く、別のハンターのアガリを奪う。疲労している相手ならば実力が自分より多少上でもなんとかなった。
しかし、それも数回で終わる。すぐに他のハンター達に共有され、追われる身となった。そこからはもうずるずると、だ。
ハンターからは日夜問わず狙われる日々、食うにも困り、ついには非ハンターにまで手を出した。それを続けると……やがて治安局が出張ってくる。
治安局の人間を殺すつもりはなかった。しかし相手はこちらを殺す気で来ている以上、もののはずみで殺してしまうのも必然と言えた。
そうして、追い込まれた山の中。傷の男はまだ諦めてはいなかった。
「こんなとこで死ぬわけには、いかねぇんだよ……」
自身を鼓舞し、包囲網の隙を探す。そして……見つけた。
一人、仲間と逸れたのか不安そうに周囲を警戒する男。ヒョロっちい、見るからに弱そうなやつだ。
なぜかそいつの周りだけやけに人気が少ない。しかし不自然ではなく、偶然の産物であることは気配からわかる。
チャンスだ。
傷の男はスキンヘッドに無言で指示を出す。そして、デバイスを構えた。
(あれで、もし擬態した手練れなら───)
傷の男とヒョロ男との距離。起動したデバイスのかなり絞った駆動音。しかし音に気付く様子はない……見た目通りの雑魚、と判断していいだろう。
そして傷の男は炎の魔法を発動する。しかし、それは事前に這わせておいた『導火線』に導かせる。
スキンヘッドも同様に魔法を発動した。傷の男の補助だ。二人が結果生み出したのは、遠方での大爆発だ。
ドォォォォン───
遠い、だからこそいい。感触的に何人か巻き込んだ。この規模の魔法、普通ならば近くに術師が居ると考えるだろう。もし遠隔起動の可能性に気付いても、傷の男に辿り着くまでにはまだ時間がかかるはずだ。
ヒョロ男は遠くから聞こえた爆発音におおいに驚いたが、爆心地から距離が遠い事に気付いてどこかホッとした様子だ。そこを、突く。
傷の男は枝を思い切り踏み込み、へし折れる音を後方に置き去りにしてヒョロ男に肉薄した。
ビィィィン!
刃の発動。駆動音は気にしない。一撃で殺す。
「おっとと」
思い切り振り抜いた刃は空を切った。いきなりヒョロ男が何かに躓いたのだ。重心の移動に不自然な様子はなく、偶然よろめいて手をついたところに傷の男の刃が通り抜けた。
「くそっ!」
「え? えっ!?」
驚くヒョロ男に、傷の男から僅かに遅れてスキンヘッドも強襲する。しかし、驚いた拍子にのけ反ったヒョロ男は足を滑らせて完全に転倒した。その際にスキンヘッドは空中でヒョロ男に足を引っ掛けられ、バランスを崩す。
攻撃ができないまま、体勢を整えて近くに着地したスキンヘッドはすぐにデバイスを構えた。傷の男も間髪入れずヒョロ男を襲う!
だが、転んだヒョロ男は止まらない。ゴロゴロと近くの木にぶつかるまで移動していく。木にぶつかると、慌てて立ちあがろうとして頭を枝にぶつけた。
その痛みに頭を抑えながら横に移動する動きが、偶然また傷の男の攻撃を躱す。
「なんだ、こいつはァ!」
更にブン! と、横薙ぎに振るった刃。これは流石に避けられないだろう。確実にヒョロ男の胴体を半分に───
ガサガサガサッ!
突然、木の上から人が降ってきた。
少女だ。緑の髪をした少女と目が合った。そして、そのままその顔面へ刃が当たる。
しかしおよそ少女の見た目にそぐわない硬さを手に感じて刃が止まる。少女の頭からは星の煌めきに似た残光が揺らめき、まるで静止したかのように空中で傷の男の刃と拮抗した。
「は? なんだお前」
少女の口から出る、自分の顔にぶち当たる刃の事は何も意に介していない不機嫌な声。
少女の拳が、流星を纏った。
*
「綺羅星!」
「アニキ!」
なんか爆発したので、その場所へ向かおうと思って木の上を走ってたら枝が折れて下に落ちた。
すると、顔面にデカい傷のある人相悪いおっさんから出会い頭に刃で思いっきり顔を叩かれたので、ムカついて綺羅星を放つ。
しかし、遠くにいたスキンヘッドの男の手から伸びた糸みたいな光が顔面傷男を引き寄せ、俺の拳は空を切る。
「ぬりゃああああ!」
しかし込めた魔力と怒りは霧散させたくない。その勢いのまま地面をぶん殴り、先程遠くから聞こえた爆発に劣らない爆発が俺の前方の地面を吹き飛ばした。砕けた地面はあの男達を叩いたはず……。
これが綺羅星の威力だ……。くくく、と喉を鳴らしながら粉塵が晴れるのを待つ。まぁ大体、こういうのはやれてないよね。
「ミィロちゃん! あいつらが指名手配の奴らだよ!」
なぜか後ろにいた迷子のガゥダーさんが叫ぶ。え? そうなの? と振り返っていると、俺の首に何かが巻き付いた。
そのままぐいっとひっぱられるが、俺は逆にそれを掴みこちらに引き込む。さっきからスキンヘッドが使っていた光の糸だ。何かの魔法か?
「う、ウオォォォォ! あ、アニキッ!」
「『炎隗!」
空中へ舞い上がるスキンヘッド。もう少し引き寄せたらぶん殴ってやろうと構えていたら、首元の光の糸が急に燃え上がった。その際に糸は
消滅し、スキンヘッドは宙に投げ出されるが傷の男がそれを抱えてこの場から逃走する。
何故、俺がその様子を冷静に解説しているかというと、この程度の炎で俺様は動じないからである。
「う、ウオォォォォ! な、なんだコイツはッ!」
身体強化には二種類の魔法がある。
肉体性能そのものへの強化である『霊界式身体強化』と、鎧を纏う『術界式身体強化』である。
俺のデバイスは器用に術式を作る事が出来る異世島でも特別な代物なので、思いつきで新しい術式を開発することが可能なのだ。まぁ魔力消費は異常らしいが、俺の魔力量はすごい多いから気にしてない。
というわけで、首から上を燃やされつつも無傷で俺は指名手配ハンターどもに接近していた。
「お小遣いさん、死んでくださーい」
無慈悲な俺の宣告。
傷の男とスキンヘッドの男、それぞれ俺の蹴りを腹に喰らって撃沈した。
*
「お手柄ですね、ガゥダーさん」
「いや、僕の推薦したハンターであるミィロちゃんが優秀なだけですよ」
必要以上にボコろうとする俺を制止して指名手配ハンターを捕縛したガゥダーさんが、駆けつけた銀波さんに褒められてデレデレしながら謙遜風ちょい自己主張をしている。
俺はそれを呆れた様子で見ながら、奪い取ったデバイスを手で弄んでいた。売ればそこそこの金になりそうなので。
でもデバイスって、メインで使ってるやつ以外を身に付けてたら魔力精度が乱れたり『魔法使用制限』かかったりとややこしいので、取り扱いが大変なんだよな。
簡単に言えば、傷の男とスキンヘッド二人分のデバイスを手に持っている今の俺は魔法使用が困難な状態にある。まぁこの二つをすぐに捨てればいいんだけど。
「しかしコイツら、一応捕縛したんですが……ギルドに連れてくと見せしめで酷いことになるので、治安局が連れてってはどうですかね」
「うーん。我々も、身内をやられているものですから……結果はあまり変わらないかもしれませんね。譲り合いもギルドと治安局の揉め事に繋がりかねないので、ここは功労者のハンター側で処分するのが安定でしょう」
ガゥダーさんと銀波さんが物騒な処遇の話し合いをしている。俺は日本とは違う治安維持の方法にヒヤリとしたものを背中に感じながら、木にくくりつけられている男二人を見た。
道中に、コイツらがどんな目に遭わされるかの予想を聞いたが……ここで殺しておいた方が、彼らのためになったかもな……。なんて、慈悲なのか冷酷なのか分からない思考が流れて少し自己嫌悪である。俺はこんな物騒な世界で生まれたわけじゃないのになぁ……ずいぶん馴染んできちゃったなぁ……。
「随分と、恵まれた才に溢れているな」
そんなふうにポケーッとしていたら傷の男に話しかけられた。スキンヘッドはまだ気を失っているのに、丈夫な奴である。
「まぁね、あんたも俺の蹴りは効いたろ。すげえ魔力で強化したし」
「ああ……あれほど雑な身体強化があの威力だ、凄まじい魔力量と出力をしている。羨ましいよ」
なんだコイツ。俺はアンニュイな表情で見つめてくる傷の男をジロリと見下す。視線に気づいて、男は自嘲気味に笑った。
「負け犬を見る目だ。いいね……俺は、いつもその目を見返したくて振り絞ってきた。まぁ、空回ってこのザマだが」
人の視線をそこまで悪し様に言うか普通? 風評被害ですよこれは。俺は少しムッとしたが、ここまで惨めに負けたおっさんが悲観的になるのは仕方のないことなのかもしれないと同情し、我慢してやることにした。
「デバイスは無く、骨も数本がいかれている。縛られて立ち上がることすらままならない。だが、知っているか? 異世島のルール、それを破る方法を……ッ!」
は? と思っていると、傷の男は魔力を練り始めた。無駄なことを……。俺はそれを冷めた目で見つめる。魔法の杖という出力器が無ければ、異世島では魔法を使うことができない。
でもなんか黒木のいた研究所では、デバイス無しで魔法を使う方法を模索してたよな。なんかそんなこと言ってた気がする誰かが。
「『炎典万丈』!」
ゴッ! と、傷の男を中心に炎が湧き出した。顔に当たる熱風はそれだけで肌を焼くほどで、デバイスを複数持っていたせいで魔法の発動がわずかに遅れた俺は、立ち上がった傷の男に突き飛ばされて地面を転がる。
尋常ではない、様子だった。
目や鼻、耳や口、あらゆる穴から血を噴き出して、肌にはところどころ破裂した血管が浮き出している。
「バカな!? 『超法』っ!?」
銀波さんの驚く声、ガゥダーさんは「ほえ?」と間抜けな面でのんびり振り返る。その無防備な背中に、傷の男が謎に重傷を負いながら放った炎の魔法が迫る。慌てて銀波さんがガゥダーさんを庇おうとして───ようやく気付いたガゥダーさんが銀波さんをむしろ庇おうと───木の上からメメリュが降ってきて───炎がぶつかって破裂したそこそこの爆発───晴れた先に転がっているのは地面に横たわるメメリュだった。
しかし、俺とガゥダーさんが内心「まぁ大丈夫だろ…………」と無言で様子を見ているのに対し、銀波さんだけが心配そうにメメリュを見る。
もちろん、メメリュは普通に起き上がった。キョロキョロと周りを見渡して、先程の炎を飛ばしてきた傷の男を見つけて憤怒に顔を染める。
ところで一方、ガゥダーさんと銀波さんは先程のどさくさで折り重なるように地面に横たわっていた。
形としては、ガゥダーさんが銀波さんを押し倒しているようだ。メメリュが無事なことに安堵し、銀波さんが顔を正面に戻すと、真剣な顔をして見下ろすガゥダーさんの顔がある。
銀波さんが少しどいて欲しいなと言いたげな顔をしている中、しばし見つめあってガゥダーさんが口を開いた。
「銀波さん、好きです。付き合って下さい」
「え? ご、ごめんなさい……あまりタイプではないです」
ツッコミ所が多すぎてもはやどこから言えば良いのかわからなかった。早いとか、タイミングがおかしいとか、なぜ今この瞬間でいけると思ったのかとか、爆速でフラれたところとかそれはさておきメメリュがバットを振り上げ傷の男の前に立ち、一度目を見開いてこう言った。
「死んでる……」
死んでる!?
*
死んでた。
どうやらデバイス無く魔法を行使した反動で肉体の負荷が限界を超えたらしい。理屈は分からないが、そういうものらしい。まぁ普通はやろうとしてやれるもんでもないらしいが。
というわけで残されたスキンヘッドの処遇はギルドの方に任せて、俺達は帰路についていた。
「スキンヘッドの方は、主犯じゃないから顔面傷の方よりは刑が軽くなるらしいよ」
「へぇ、でも殺されるんでしょ?」
俺とメメリュがそんな話をしていると、凄まじく落ち込んだガゥダーさんが答えた。
「いや、どうかな。確かに見せしめは必要だし、規律には厳格な対応は必要だけど……ハンター相手になんでもそんなこと言ってたら、とてもやっていけないからね」
「へぇ」
というわけでラーメン屋に来て、ラーメンを食べることにした。隣に座っていた赤茶色の髪をしたヤカラみたいな柄の悪い男がこちらを見てアッと声を上げる。
「あっ! お前ら!」
ツンツンに逆立った髪型を見ながら、何か思い出せそうな思い出せなさそうな……。なんか見たことあるなこいつ。
「ケリーだよ! ケリー!」
……?
ぼんやりと、水蓮と一緒にいる時に絡まれた治安局員のことを思い出す。確か、あの時のガラ悪い治安局員がそんな名前だった気がする。でもお前本人から自己紹介されたっけ?
「ミィロ相手しといて」
もちろんメメリュは思い出そうとすらしなかった。視線すら合わせず、自分は関係ないことに気付いて知らんぷりをしているガゥダーさんと一緒にメニューを見つめている。
「俺は貝出汁ラーメンね」
「おい! 無視は感じ悪りぃぞ!」
とりあえず俺の食べたいラーメンを伝えて、仕方なくうるさいケリーくんに向き直った。
「なに? さっきからうるさいんですけど。銀波さん呼ぶよ?」
「お前、銀波さんの連絡先知ってんの? いや別に構わねーけど、そうじゃないんだよ」
ケリーくんはラーメンを食べている途中だと言うのに立ち上がった。大将の視線が厳しい。やめて欲しいと思った。なのに、彼は突然頭を腰ごと下げて俺達に礼を言う。
「治安局のさ、お前らが捕まえてくれた奴ら……殺されたの、まぁ……知った顔だったんだ。ギルドとか治安局とか関係ねぇ、お前らのおかげであいつらを捕まえることができた」
なるほど。俺は頷いた。
「ラーメン食うって時に、辛気臭い話やめてくれない?」
「空気読めよ」と、メメリュも続く。
ガラッと、店の扉が開いて銀波さんが現れた。
「あ、銀波さんだ」
「おや、君達……ケリーもいるじゃないか。何をしてる?」
「奇遇ですね。やっぱ波長合うとこありますよね僕ら。そう言えばこの間───」
銀波さんの視線を受けて、下げていた頭をゆっくり上げたケリーくんが真顔を銀波さんに向けた。真剣なその表情に、銀波さんは首を傾げる。ひょこりと、彼女の後ろから背の低い治安局員も顔を出した。「あれ? ケリーくんじゃない」と気さくに声をかける。
「銀波さん───俺、コイツらあんま好きじゃないっス」
「は? こんなに可愛いのに?」と、不満気な俺
「はー? 殺すぞー」と、にこやかなメメリュ
ケリーくんの舐めた発言に俺とメメリュが抗議の声を上げる。しかし銀波さんは困ったように頬をかいて、薄く笑いを浮かべて話を受け流しラーメンを注文した。




