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西の逃亡経路

作者: 加藤とぐ郎

 山の向こうを覗きこむように立ち上がると、朝日はもう真っ白な顔をしていた。生まれ故郷の都から西、名前もわからぬ土地をさらに西へと急いだ。小玄はいつも背に冷たい視線を感じながら、足を磨り減らしつつ土地から土地へと渡った。終わりの目処が一向に立たない長旅に辟易していた。


 小玄は太い川に行き当たった。先日に雨でも降ったのか、水嵩は増し濁っているようだった。薄い期待とともに渡船場に向かうと、一艘の舟が停まっていて、そこに物静かで頑固そうな船頭がいた。


「この舟は、向こう岸へ行くだろうか」

「行く」


 船頭の声は深くも大きくもなかったが妙に低く、小玄の腕に鳥肌がたった。なんだか変な奴だ。と小玄は思ったが、向こう岸へ渡る間だけだということで、二人は陸をしばし離れた。


 貫禄のある佇まいにしては、まるで落ち着きがなく舟はあっという間に流されて思う方へ行かなかった。始めの頃は小玄も黙っていたが、辛抱たまらずついに怒鳴った。


「我慢ならん!下手くそ!何年やってるんだ!」

「えいっ!」


 次の瞬間小玄の体は宙を舞い、水面を突き破って落ちてしまった。突然のことにあわてふためき、一生懸命にもがき、頭を水上に出した。すると恐ろしい程に美しい鬼の形相の船頭が、手に持っていた棹を振り下ろし、小玄の頭蓋を思いっきり強打した。


「くたばっちまえ小玄!父の敵!」


 船頭に扮していた女は、以前小玄に父を殺されその復讐のためにここまでやって来たのだ。胸に淀んだ闇を気が狂ったように吐き出しながら、川底に沈んでいくものに罵詈雑言を浴びせた。


 しかし運悪く急所は外れ、小玄の体は川下に打ち上げられた。目が覚めるまでの間ずっと小玄は夢を見ていた。西へ西へと一心不乱に歩を進ませて、終わりの無い長旅を延々と続けているのだった。

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