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第九十六話 要塞突入戦

 デブリミサイルとドローンに対し、触手砲台による迎撃に加えて、ナラカ・コーラルの表面がまた新たに何か所もべろりと捲れると、内部から十メートル前後の巻貝のような魔物と五十メートル近いマンタを思わせる魔物達が次々と飛び立ち始める。

 魔物少女達がソルグランドを惑星ナザンに招き寄せ、決戦を仕掛けた時には多種多様な魔物が存在していたが、迎撃用の魔物は種類が少ない分、その数が多かった。


 それまでに倍する数の光線やプラズマの砲弾、生体ミサイルが発射されて、デブリミサイルとドローンの数が見る間に減って行く。

 魔物側の防衛行動に変化が見られたのを確認し、ザンエイはエンジン出力を引き上げて、何重にも展開しているステルスが無効化されるのも構わず、突撃を辞さない勢いでナラカ・コーラルとの距離を詰める。


 ナラカ・コーラルから見て下方、人類側がSフィールドと仮称した方向からの突撃だ。

 ナザンからの道中で追加生産したデブリミサイル、デコイの宇宙船も光の尾を引いて魔物の支配する醜いサンゴ礁へと殺到する。

 統一された意思のもと、新たなデブリミサイルとデコイに飢えたイナゴのように群がり、見る間に貪って行く二種の魔物に向けて、ザンエイの巨体各所から展開された砲台から、プラーナを利用した無数の光線が雨あられと降り注いだ。


『ライブラリに照合。魔物の内、小型種はかつてマムール、大型種はアマンタ。かつて我々から宇宙への道を閉ざした魔物達だ』


 カジンからのデータはすぐさま人類と妖精側に共有され、ザンエイのモニターでも二種の魔物の名称が更新される。


「更に三斉射の後、五分経過で機動部隊を出撃させる。それまで砲火を絶やすな。ランダム機動を継続。出撃順は予定通り使い魔、式神を第一、次いでキグルミ、ヌイグルミ、マジカルドールを第二、魔法少女は第三とする。第二陣と第三陣の出撃は予定通りの距離まで達してからだ。慌てるなよ。作戦は始まったばかりだ」


 ザンエイのブリッジではガルダマンの指示が素早く飛び、オペレーター達が艦内と待機中の魔法少女へと淀みなく伝達を行う。

 ガルダマンとマルザーダの背後にはカジンの立体映像が浮かび上がっていた。攻められ続けて滅びた彼らが始めて攻める側に回ったこの状況に、少しは緊張しているのかもしれなかった。


 いくら魔法少女やキグルミでもナラカ・コーラルまでの長距離を飛び続けるのは、迎撃の砲火や距離を考慮すればリスクが高い。

 可能な限りザンエイで接近して、内部へ殴り込みをかけた上で生還できるだけの余力を残せるようにしなければならない。


 デブリミサイルやドローンに比べれば格段に火力の高いザンエイの砲撃に巻き込まれ、何体かの魔物が跡形もなく吹き飛び、ナラカ・コーラルの表面にも大小の光の爆発が生まれ始める。

 魔物側に守る戦いを学習される前に、可能な限り速攻で戦いを負わせるのが人類側の勝利にとって、極めて大きな条件だった。


 ザンエイを目掛けて触手砲台や出撃した魔物からの攻撃が集中し始め、巨体に展開しているシールドに命中弾が出る度に、わずかな振動が襲い掛かってくる。

 きっちりと三回の斉射を終えてから五分、魔法少女の固有魔法によって生み出された無数の使い魔と式神達がまずは囮を兼ねて、真っ先に出撃してゆく。

 特殊な力場に包み込み、複数あるカタパルトから加速して一気に発進させる方式だ。生身の人間では耐えられない速度と負荷も、柔らかな臓器や脆い骨を持たなければどうということはない。


 ファントムクライの百鬼夜行もこれに含まれ、ハロウィンを連想するカボチャのお化けに古今東西の妖怪や怪物、あるいはファンシーな動物達がザンエイから出撃して、ナラカ・コーラルに取りつく部隊と、ザンエイに群がる魔物を迎え撃つ部隊とに分かれる。

 宇宙への適応訓練の最中、コツコツと製造を続けてきた式神や使い魔達の総数は四桁に届くが、迎撃に出てくる魔物達が少なく見積もっても準一級に相当する戦闘力を備えており、数で劣るとあって旗色は悪い。

 それでも囮としての役割は果たしている、と評価するべきだろう。


 ステルスで身を隠していた分、ザンエイは加速をし直さなければならない。

 ナラカ・コーラルの下方を螺旋を描くように加速しながら、ザンエイは一定の距離に達したところで第二陣のキグルミ、ヌイグルミ達が出撃を始める。

 今回の出撃組は妖精達が直接操縦しているのではなく、ソルグランドの鏡渡りの神通力とカジンのオーバーテクノロジー、フェアリヘイムの魔法技術の改良と組み合わせにより、ザンエイの内部にフェアリヘイムと繋がる空間を作り出し、そこを経由して遠隔操作している。

 他のマジカルドールや魔法少女達の生命の安全を確保するのにも、同様の技術が用いられていた。


 キグルミはマムール、アマンタと正面から殴り合える巨体で、全身に武装した機関銃やミサイルポッド、ガトリングガンやロケットランチャーに利用されるプラーナの出力は、日進月歩の速度で増している。

 周囲の環境に配慮する必要もないことから、この日の為に貯蓄されたプラーナ利用の弾薬を惜しみなく消費し、ザンエイの進路を妨げる魔物達を目につく端から吹き飛ばしてゆく。


「人類の皆さんに手間を掛けるわけにはいかないゾ。吾輩達で出来る限り、彼女らの負担を減らすんだゾ」


 二足歩行するライオン型のキグルミが周囲の味方に檄を飛ばせば、カブトムシや鯨、犬などデフォルメされた妖精達の入れ物が勢いよく返事をする。

 人間の子供達に重荷を背負わせていた負い目は、今なお、妖精達の心に大きなしこりとなって残っている。

 だからこそ、彼らは魔法少女と共に戦場に立つ時には、見た目の愛らしさを裏切る戦の鬼と化して、怨敵たる魔物を徹底的に叩こうと凶暴化する。

 そしてそれは人類側の大人達にしても同じ話だった。


 キグルミらと同時に出撃していたマジカルドール部隊は、中身である各国の精鋭軍人達の気迫が乗り、妖精達に負けじと苛烈な戦いぶりだ。

 顔の上半分を仮面に隠したマジカルドール達は、国籍ごとに異なる装備ながら、実戦の場では事前の鬼の訓練が功を奏して、相互の連携を密にしつつ、今も増え続ける魔物達を撃ち落し続ける。


 その中でも異常なほどの活躍を見せていたのは、どの国のマジカルドールでもなかった。

 なにしろ中身が人間ではなかったのだから、ある意味では当然の話だったかもしれない。

 分類としてはマジカルドールである為、第二陣として出撃した妖精女王直属部隊『ネイバー』の面々は専用に調整された仮初の肉体で、人間と妖精に混じり、ようやく魔物達と戦える機会が巡ってきたことに、気炎を吐いて暴れていた。


 ネイバーについては一応、マルザーダの指示を聞く立場ではあったが、彼らについては高い自由度を持たされており、戦場に出た後の彼らはほとんど自由に行動していた。

 いわゆる如意棒をスケールダウンさせた棒を振り回し、筋斗雲を思わせる黄色い雲に乗るトウセンショウこと孫悟空は、一瞬でキロメートル単位に伸ばした如意棒を振り回し、まとめて十、二十と巻貝型の魔物を叩き潰す。


 各国のマジカルドールが現代の銃火器を模した装備で戦っている中、本家魔法少女と同等かそれ以上の威力を発揮するネイバーは注目を集めたが、戦闘中に誰何することではないと、とりあえずは後回しにされた。

 なにより味方としては頼もしい限り。

 ネイバーの隊員数は決して多くはなかったが、単体の戦闘能力が強化フォームに覚醒済みのワールドランカークラスとあり、妖精女王直属の肩書は伊達ではないと事情を知らない人々を納得させた。


「唸れ、ミョルニ、いや、わはははははは!」


 つい愛用の武器の名前を口にしそうになったサンダーハンマーは、豪快な笑い声で誤魔化しながら長柄のハンマーを振って、目の前で大口を開いたアマンタの腹を大きく打ち抜き、更に打撃面から周囲へと広がる雷がアムール達を焼きすぎた巻貝に変えて行く。

 白い雷の網が広がり、海産物型の魔物達をまとめて絡み取る中を、青銅の馬が牽く古代の馬車に乗り込んだマーズグラディウスは、青銅の槍と盾を手に光と見紛う速さで戦場を駆け抜け、すれ違いざまに魔物共を突き倒し、切り裂き、叩きのめし、引き潰している。

 速さと力による圧倒的な蹂躙。そう表現するのが適切な戦いぶりであった。

 それができるのなら苦労はしない、そう誰もが望みながら諦める戦い方の一つを、戦の神は実現していた。


 十七体目のアムールに突き立てた槍を振り回し、口から触手を何本も伸ばしながら接近してきた別の巻貝の怪物に叩きつけて、マーズグラディウスは戦争の喜悦を感じて唇を舐めた。

 ギリシャ彫刻の理想像の一つと表現しても、なんの誇張にもならない美しく逞しい戦の神は戦闘の熱とは別に、冷めた思考で戦況の推移を観察していた。


「絶対に守るという気概を感じん。元より魔物共ゆえ人間や神のような思考とは無縁だが、今回は誰かの思考に基づいているな?」


 フォビドゥン達が魔物の群れを率いてソルグランドと戦った時のように、今回のナラカ・コーラル攻防戦において、魔物側に指揮者が居ると看破していたのは流石だった。

 ネイバーの、人類側にとっても想定外の戦闘能力は、一時的に魔物側の防衛線に空白地帯を作り出し、そこを目掛けてザンエイが速度を緩めずに突っ込む。


 常に巨体のどこかから火線を描くザンエイは事前の想定よりも、奇跡的なほどに被弾はなく、シールドの消耗度もわずかだった。

 都合がいいとマルザーダとガルダマンが嫌な予感を感じるほどである。

 しかし、想定していないイレギュラーの発生そのものは織り込み済みだ。いつイレギュラーが発生しても対応できるように、余力を持たせながら作戦遂行には全力で当たる、これしかなかった。

 想定通りの距離にまで達し、人類側の本命となる第三陣の魔法少女達が次々と出撃を始める。彼女らの目標はナラカ・コーラルへの取りつきと内部への侵入経路の確保となる。


「皆、いくよ!」


 ワールドランク第一位のスイートミラクルの短いが、それ以上、語るべき言葉の無い掛け言葉に励まされて、初めての宇宙の戦場へと魔法少女達が次々に飛び出してゆく。

 長期戦も想定されていたが、出し惜しみしては魔物側の隠し玉に手痛い反撃を受ける可能性が高い、と魔法少女と妖精達の占いで判断された為、最初から強化フォームに変身済みでの強攻だ。


 ワンダーアイズのような特殊な魔法を持つ魔法少女達は先んじて、ナラカ・コーラルそのものを抹消するか、あるいは干渉など出来ないかと試すが、それ自体が強大な魔物であるナラカ・コーラルは、保有するプラーナ量と質量があまりに桁違いである為、十全には機能しなかった。

 事前に想定されていた結果に、ワンダーアイズらは早々に支援行動へと移り、スイートミラクルやファントムクライ、ブレイブローズらに前線を任せる。


 電撃的な速攻を成功させ続ける人類側の動きに、ナラカ・コーラル中枢のボイドリアは、感情の希薄な顔色を変えずにいた。

 人類のポテンシャルと妖精の技術力、カジンの遺産らを組み合わせれば、これだけの

ことはできるとアンテンラが推測していたからである。

 想定内の範疇であり、そしてボイドリアにとってザンエイや魔法少女達の抹殺は任務ではないことから、彼女は歯牙にもかけずにいた。


「防衛兵器稼働率十二パーセント低下。自律砲台による迎撃を敵戦艦に固定。敵機動兵器には生体兵器による迎撃のみ実行。ソルグランドの反応、戦場に確認できず。敵戦艦内部かステルスによる要塞内部への潜入の可能性を演算……」


 ボイドリアの目的はあくまでもソルグランドの撃破だ。

 創造主アンテンラにそのように設定されたとはいえ、いささか融通が利かないのは、まだまだ生まれたて故の経験不足を感じさせる。

 人間の姿を模している分、情緒の無さが浮き彫りになっているボイドリアの視線が、新たに映し出された立体映像へと寄せられる。

 迎撃に出撃させた魔物達との激戦区になっているフィールドとは正反対の位置に、これまではなかった動体反応を捕捉したからだ。


「未知のステルス技術による可能性大。プラーナ反応照合……魔物少女第一号から第四号、魔法少女三体、ソルグランドを確認。目標は本要塞の心臓部破壊と推測」


 ようやく待ち望んでいた獲物が来たと、ボイドリアは希薄ではあるが確かに存在する感情を動かし、モニターの向こうに映る船の上に威風堂々と立つソルグランドただ一人を見ていた。

 この時、ザンエイから秘かに出撃していたソルグランドらワイルドハント部隊は、ソルグランドの作り出した一艘の船に乗り込み、ナラカ・コーラルへと取りつくことに成功していた。


 彼らが乗り込んでいるのは、古事記において鳥のように速く、石のように固い楠の船にして、神でもある天鳥船(アメノトリフネ)をモチーフとした宇宙船『宇宙鳥船(ソラノトリフネ)』だ。

 全長は二十メートルほどで、ザンエイと比べれば砂粒のように小さいが、目的を果たすのには十分な速さを誇る。

 鳥のように速く飛ぶと伝わる船の模造品は、この宇宙戦闘においてもザンエイに引けを取らない速度で飛び、ソルグランド達を目的の場所へと導いていた。


「相手方の守り方が拙いのと私の特性によって、呆気なくたどり着けましたが、そろそろその分のツケを払う頃合いでしょうか」


 これは船首に立つソルグランドの左肩に留まる夜羽音の言葉だ。

 人類側の切り札であるソルグランドを可能な限り損耗の少ない状態で、敵中枢に送り届ける──この作戦は思いのほか、上手く行っている。

 場当たり的な魔物側の対応によって、迎撃に出た魔物のほとんどはザンエイと魔法少女達を目指して殺到しており、ソルグランドらの進路を阻む敵はほとんどいない。


 魔物達の出撃してきたハッチもいくつか把握できており、内部への侵入はさして苦労しないと思われた。

 懸念は夜羽音の言う通り、これまでの幸運の反動かあるいは魔物側があえて誘き寄せている可能性についてだった。


「警戒を忘れるべきではありませんが、ここに至っては罠が張られていても全て食い破って勝つ、そういう段階ですよ。幸いネイバーの方々は想像通りの強さだ。頼りになる味方も多いから、後のことを任せて苦殺那祇剣を遠慮なくぶっ放せます。大丈夫ですよ」


「貴方に笑顔でそう言われると反論の言葉はありません。この道に引き込んだ者として、どこまでもお供いたします」


「それはまた畏れ多いや。ははは、ま、これまでみたいに苦戦はするでしょうけれど、これまで通りに勝ちます。俺から言えるのは、それくらいですね」


 高速で飛ぶ船の前方に、ようやくまばらに魔物達の姿が見え始める。ソルグランドの両手にはすっかりと手に馴染んだ闘津禍剣が二振り、握られている。


「さて、こほん。この汚いサンゴ礁の怪物をぶっ壊して、魔物連中に痛い目を見せてやろうか! ワイルドハント、行くぜ!!」

いつも誤字脱字の報告やご愛顧ありがとうございます。ぼちぼち百話が見えてきた本作ですが、終盤に入っております。最後までお付き合いのほどよろしくお願いいたします。

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