珈琲と人生は苦い方がいい
夢のような時間だった。
あなたと、こんなに楽しめるなんて。
あなたが、こんなに笑ってくれるなんて。
夢のような時間は、儚い。
すぐに、泡のように弾ける。
あなたは、アメリカへと旅立ってしまった。
それまでの、楽しい時間だった。
夢だと分かっていた。
あの時間が、二度と来ないことも分かっていた。
でも、楽しいことに変わりはなかった。
楽しさは過ぎ去った。
でも、優しさはずっと残っている気がする。
「お待たせいたしました。オリジナルコーヒーです」
「ありがとうございます」
「どうしたんですか?元気ないですけど」
「プライベートでいろいろあって」
「恋の方ですね」
「まあ、そんな感じです」
コーヒーカップを口に付けた。
「今日は何も入れないんですね」
「はい。今は、そういう気分なんで」
「私も苦いのが飲みたくなるときが、たまにあるんです。どんな時かは、内緒ですけど」
「苦いものには、苦いものの良さがありますからね。あっ、何かすみません」
「いいですよ、分かりますよ。コーヒーに限らず、苦さが成長させてくれるもの、沢山ありますよね」
「はい」
苦い人生には、苦いコーヒーがよく合う。