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再結成

作者: 如月文人

※いでっち51号さん主催「歌手になろうフェス」参加作品です。


挿絵(By みてみん)

「歌手になろうフェス」参加特典の柚癒様から頂いたイラストです!

左がギタリストの弁財秀人。

右がボーカルの御堂寺敦司です。


 2000年代初頭。

 二十一世紀を迎えた人類は、

 子供の頃、思い描いていた未来像とは異なる新時代を迎えたが、

 大半の者がその現実を受け入れて、

 二十世紀と比べて特に変わりのない生活、人生を送っていた。


 だが幸か不幸か、この時オレは人生の絶頂期を迎えていた。

 オレの名は御堂寺敦司みどうじ あつし

 そんなオレの職業は所謂シンガーソングライター。


 デビュー当時の十代の頃は、アイドルとして売り出されたが、

 気がつけばオレはギターを片手に観客の前で歌っていた。

 人気の方はまあわりとあった方だと思う。


 そして1999年にオレは元『HハイI-GROWグロウ』のギタリスト・

 弁財秀人べんざい ひでとと組んで二人でロック・ユニット、

 『Superiorityスーペリオリティ』を結成した。


 そこから先は兎に角、目まぐるしい日々が続いた。

 シングルやアルバムを出せば、オリコンチャートにランクイン。

 ライブを開けば満員御礼、兎に角、毎日が忙しかった。

 酷い時は一日の睡眠時間が三時間という日も珍しくなかった。


 だがそれでも最初の頃は楽しかった。

 秀人のギターの音色の合わせて、オレが歌う。

 オレは秀人の作る曲が好きだったし、

 オレはその曲に合うように必死で作詞する。


 そんな関係が二年近く続いた。

 だが気がつけば、オレと秀人は顔を会わすたびに喧嘩するようになっていた。


 喧嘩の理由は……今となってはどうでもいい。

 多分お互い若かったし、音楽性の違いやら、

 人間的相性という問題で神経をすり減らしていたのだろう。


 まあこれはよくある事だ。

 ミュージシャンといえど一人の人間。

 当然好き嫌いはある。


 その頃はオレも秀人もお互いに憎み合ようになっていた。

 そしてある日、それが臨界点に達した。


「……敦司あつし、もうお前とはやってられねえよ!」


「……そりゃオレの台詞だよ」


「……俺はもうお前と一緒にステージに上がりたくない」


「秀人、奇遇だな。 オレも同じ心境だよ?」


「そうか、ならいいじゃん。 もう止めようぜ?」


「……そうだな、もう終わりにしよう」


「ああ、ならば次のライブが最後だ」


「そうだな、だけど最後のライブまでは全力を尽そうぜ?

 そうじゃないと集まってくれたファンに対して、失礼だ」


「……分かっているさ」


 こうしてオレ達『Superiorityスーペリオリティ』は、

 次のライブを最後にして、

 2001年11月8日に無期限の活動休止宣言を出した。

 テレビや雑誌、WebNewsではオレ達の事を色々と噂したが、

 オレも秀人もソロ活動に戻って、

 自分のやりたい音楽をやれて、心から満足していた。


 少なくとも当時のオレはそう思っていた。

 だがそれからしばらくすると、

 次第にオレの人生に陰りが見え始めた。


---------


 7年後の2008年。

 この年はオレの人生の中でも最悪な時期だった。

 この時、オレは三十一歳になっていた。


 オレは地道にソロ活動を続けていたが、

 年々売り上げが低迷していき、悶々とした日々を送っていた。

 そこでオレは心機一転して、独立して個人事務所の設立を決意。


 だがこの独立によって、オレは予想だにしない状況に追いやられた。

 前所属の事務所で、会社スタッフによる会社資金の使い込みが発覚。

 事務所の空中分解という状況で、

 オレは前事務所の音楽部門若手スタッフを引き連れて、個人事務所を設立した。

 

 正直言ってオレも不安はあった。

 だがオレについて来てくれる若い連中の手前、泣き言は言えなかった。

 だからオレは――


「利益が出るまでオレは家に帰らない!」


 とオレは大見得を切って、スタジオにソファを入れて暮らし始めた。

 だがそう簡単に利益が出るわけもなかった。

 赤字を垂れ流す日々が続き、窓が無い地下室の生活は、

 湿気も多くて、ある日、突然オレの肺にカビが湧いたり、

 頭の皮が剥ける、といった身体の至る箇所が痛み始めた。


 だがそれでもオレはその生活を止めなかった。

 地道にソロ活動、俳優としてテレビや映画に出演したりして、

 苦しい中、歯を食いしばって、その辛い生活に耐えた。


 だが現実は甘くなかった。

 事務所の売り上げは精々トントン、

 オレ自身もそんな不衛生な生活を意固地になって続けた。


 そうして行く内にオレの心が徐々に荒んでいった。

 他人と会うのが、喋るのが煩わらしくなり、

 仕事以外では他人と会う事、喋る事を避けるようになった。


 そして三年後の3月11日。

 あの大震災が起きた。

 オレはこの世のものとは思えない凄まじい光景をテレビで観ながら――


 ――何かオレに出来る事はないか。

 ――オレには何も出来ないのか。


 と、思いながら、言い知れない焦燥感に襲われた。

 恐らくこの時、多くの日本人がオレと同じような事を思っただろう。

 何かしたい、でも自分に何が出来るのか。

 オレはそんな自問自答を続けた。


 そして数日後、事務所の電話が鳴った。


 電話の相手はあの秀人、弁財秀人べんざい ひでとだった。


---------


「もしもし、お電話、変わりました。

 ……本当に秀人なのか?」


 オレは事務員から電話を受け取って、受話器に向かってそう言った。


『ああ、敦司か! 声変わってないな』


 間違いない、秀人の声だ。

 その低くてハスキーな声が妙に懐かしく思えた。


「お前も変わってないよ。 ところで何の用だ?」


『ああ、そうだな。 なら単刀直入に言うよ。

 実は俺の所に東日本大震災のチャリティーライブの話が来てるんだ』


「……そうなのか?」


『ああ、だから俺とお前で『Superiorityスーペリオリティ』を再結成しないか?』


「!?」


 『Superiorityスーペリオリティ』を再結成?

 ……秀人の奴、本気で言ってるのか?


『もしもし、敦司? 聞こえてる?』


「ああ……、聞こえてるよ」


『……でお前としてはどうなんだ?

 まあ再結成といっても東日本大震災のチャリティーライブの一日間限定だけどな。

 でも何というか今しか再結成は出来ないと思うんだ……』


「……そうか、秀人。 正直、急な話で混乱している。

 だから三日後にオレの事務所へ来てくれないか?

 それまで考えて、返事はその時にするよ」


『そうだな、やっぱり時間が欲しいよな。

 了解だ、じゃあ三日後、俺がお前の事務所へ行くよ』


「ああ、待ってるよ」


『敦司、良い返事期待してるぜ』


「……秀人、三日後に会おうな。

 それじゃもう電話切るぜ?」


 オレはそう言って、受話器をかちんと置いた。

 すると周囲の従業員の視線がオレに集中していた。


「社長、本気で『Superiorityスーペリオリティ』を再結成するんですか?」


「……分からんよ、これからちょっと考えるよ」


「そうですか、でも実現すれば凄い事になりますよ!!」


「うん、俺は今でも『Superiorityスーペリオリティ』の曲よく聴くもん」


「私も!」


「んじゃ後の仕事は任せるぞ。

 必要な仕事以外は俺を呼ばないようにな」


 社員達が一同に「はい!」と答える。

 そしてオレは地下室へ行き、ソファに深く腰を下ろした。


「皆、暢気なもんだぜ……。

 でも未だにあの時のオレ達の事を覚えていてくれるんだな。

 アレから約十年か、長いようで短かった……のか?

 だけど安易な気持ちで再結成は出来ない。

 でもこの機を逃せば……。


 オレはそれから秀人が来るまで、

 ずっと独りで色々と考え込んだ。

 そして三日後、秀人が事務所にやって来た。


---------


「久しぶりだな、敦司」


「ああ、というか髪の色スゲえな」


 オレと秀人は対面になるように、黒革のソファに腰掛けていた。

 秀人の髪はピンク色に染められており、

 着ている服も真っ赤という凄く攻めた服装。


 秀人って確かオレより年上だったよな?

 三十超えてこの格好するのは、ある意味凄いな。

 でも不思議と似合っている。


「ああ。 俺、今はヴィジュアル系だからね。

 でも敦司は若い頃からあまり変わってないな」


「……そうか?」


「うん」


 これは褒め言葉として受け取っていいのか?

 まあいい、そんな事はどうでもいい。

 とりあえず本題に入ろう。


「……それで敦司の答えは出たかい?」


「ああ」


「じゃあその口でハッキリと伝えて欲しいな」


「オレは……再結成しても良いと思っている」


「ほ、本当?」


「ああ、三日三晩考え抜いたよ。

 オレはあの大震災が未だに現実の出来事でないと

 時々思ってしまう事がある。

 あるいはそうだと思い込みたいのかもしれない」


 オレは自分の率直な気持ちを打ち明ける事にした。

 秀人がどう思うかは分からないけど、

 ここは自分の本心をきっちり伝えるべきだと思う。

 対する秀人も凄く真剣な表情でオレの話を聞いている。


「多分、普通に再結成したいという話なら

 断っていたと思う。 何というかオレは『Superiorityスーペリオリティ』を

 絶頂期で活動休止宣言させた事に何処か満足していた。

 最高の時に終わらせる。 そしてその思い出をオレ達と

 ファンが永遠に共有する。 それがオレの本心さ」


「不思議だな、俺も同じ事を考えていたよ」


 秀人の言う言葉は嘘じゃないだろう。

 なんだかんだいってオレ達はあの時は最高のパートナーだった。

 だから秀人も同じような考えを持ってたのも、

 何となくだが分かる、分かっていた。


「だからオレは『Superiorityスーペリオリティ』を再結成するのは、

 オレ達の為でなく、震災で苦しんでいる、心を痛めている

 全国の方々に少しでも勇気づけられたら良い。

 オレ達の音楽が少しでも世の中の為になるなら……

 という思いでチャリティーライブをやりたい」


「……」


 オレの言葉を聞いて、秀人はしばらく無言になった。

 そしてオレは秀人が口を開くまで辛抱強く待った。


「……やっぱり俺達、パートナーだったんだな。

 俺も敦司と同じ気持ちだよ。

 ギャラなんか要らない。 でも今、日本中が苦しんでいる中、

 俺の音楽、俺と敦司の音楽で何かをしたい。

 だから『Superiorityスーペリオリティ』を再結成する。 

 それもたった一日間だけ、俺は二十四時間の魔法の瞬間とき

 作りたいんだよ」


「……二十四時間の魔法か、悪くないフレーズだ」


「……だろ?」


「ああ」


「……じゃあ決定だな」


「ああ、二十四時間限定で久しぶりに二人で暴れようぜ」


「ああ、観客と一緒に音楽という魔法で一緒に暴れまくりたい」


「そうだな、でもやるからには本気マジだぜ?」


「勿論さ、限界まで本気マジで行こうぜ」


「ああ」


 こうしてオレ達は二十四時間限定で『Superiorityスーペリオリティ』を再結成する事にした。

 正直オレ達のライブで他人を救えるとは思えない。

 何というか今は単純にライブして、ファンと一緒に歓喜する。


 というレベルの話じゃない。

 でも何もしないより、何かがしたい。

 それはきっと秀人も同じ気持ちだろう。


 でも何故かな。

 不思議とこの再結成を決めた瞬間から、

 オレの胸のうちがジワジワと熱くなってきた。


 こういう風に心を躍らせるのは久しぶりな気がする。

 でもこの熱い気持ちをライブとファンにぶつけたいぜ。

 正直、時間はあまりない。


 だから短時間で秀人と呼吸を合わせないとな。

 それからは秀人と時間を合わせて、音合わせを繰り返した。


 オレと秀人はお互いに妥協せず、徹底して練習を続けた。

 その感じがまた心地よかった。

 まるで十年前に戻った、戻れたような気分だ。


 そしてあっという間に日々が過ぎて、

 2011年7月30日、東日本大震災のチャリティーライブの当日を迎えた。


---------


 2011年7月30日、場所は東京アリーナ。

 観客席は既に満席だ。


「……スゲえな、六万人近く入ってるぞ」


 秀人が舞台裏から観客席を覗いてそう言った。

 六万人か、まさかそんなに入るとはな。

 そして観客席から「Be My Friend」というコールが沸き起こる。


「Be My Friend」は『Superiorityスーペリオリティ』のデビュー曲。

 十年ぶりの再結成を飾るオープニング曲はこれしかない。

 その気持ちはオレ達だけでなく、観客も同じようだ。


「Be My Friend」


「Be My Friend」


「Be My Friend」


 観客の年齢性は若干高めだ。

 基本は三十代から四十半ばの中年男女が多い気がする。

 でも中には二十代、時には十代と思える若い観客も居た。


「……まさかこの日の為に、こんなに観客が集まるとはな。

 皆、オレ達の事――『Superiorityスーペリオリティ』の事を覚えていてくれたんだな」


「ああ、皆。 オレ達の事を待ってくれてるんだ。

 敦司、そんじゃ全開フルスロットルで行こうぜ」


「ああ、秀人! 行こうぜ!!」



「Be My Friend」が鳴り響き、ステージ内は既にかなり盛り上がっている。

 そしてステージの左端から秀人、右端からオレが登場するなり、

 観客席から大歓声が湧き上がる。


 そしてオレ達はゆっくりと中央に歩み寄り、

 中央に辿り着くなり、がっちりと握手をかわした。

 この時点で東京アリーナは、割れんばかりの歓声と拍手で既に最高潮に達した。


 どくんとオレの胸の鼓動が鳴り響く。

 熱い感情が全身に伝わり、身体の熱が自然と上がる。

 そしてステージが暗転して、バックバンドの演奏が始まる。


 もうここまで来れば、引く事は出来ない。

 ならばオレに出来る事は一つ。

 全力で歌う、それが今のオレに課された使命。


「Be My Friend」


「Be My Friend」


「Be My Friend」


 再びステージに照明が灯る。

 そしてオレはファンの掛け声に合わせて、

 右手に持ったマイクに向かって、シャウトする。


「Be My Friend」


「Be My Friend」


 そして満員御礼の東京アリーナに、オレの伸びやかな歌声が響き渡る。

 すると観客がオレの歌声に手拍子を合わせる。

 まさかこんなに観客が集まるとはな。

 正直、予想外だったぜ。


 でもこんな嬉しい事はない。

 十年経った今でもオレ達とファンはこうして繋げるのだから……。

 ステージ上で秀人と目線が合った。


 すると秀人がギターを弾きながら、微笑を浮かべる。

 オレも同様に微笑を浮かべて、マイク片手に歌い続ける。

 まあこの「Be My Friend」という曲は、

 実は「Be My Friend」の繰り返しで、歌詞の量はそれほど多くないんだけどな。


 でもオレはそんな事を気にせず、

 ただひたすらマイクに向かってシャウトする。


 二十四時間限定の魔法か。

 どうやらそれは実在したようだ。


 力強いイントロと、ロックの旋律。

 秀人の指がしなやかに動き、複雑なフレーズを綺麗に紡いでいく。

 流石は秀人だ。


 十年前と変わらない。

 いや十年前の時より凄いかもしれない。

 ならばオレも全力で歌う、歌いまくる。


「――愛しているぜ。 でも今は恋人でなくていい。

 ただお前と一緒に居たい。 だからまずは友達になってくれ!」


 オレの歌声と秀人のギター。

 会場の観客も歓声を上げながら、ウェーブする。


 ――最高だ。

 ――最高の瞬間だ。


 十年前、いやあの時より凄いかもしれない。

 そう、過去は大事だ。

 でも現在はそれ以上に大事だ。


 だから最高の瞬間ときを迎える為に、

 オレは、オレ達は歌い、弾き続ける。


 ――今、この瞬間。

 ――オレは、オレ達は幸せだ。

 ――でもまだ終わりじゃない。


 ――ライブはまだまだこれからだ。

 ――だからエンジン全開で歌うぜ。


 そしてオレの中の熱は最高潮に達して、

 オレは心にビートを刻みながら、いつまでもいつまでも歌い続けた。


 再結成・おわり


---------


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― 新着の感想 ―
[一言]  あの時、彼らに限らず何かしてあげたい、力になりたいと思った方は大勢いるのですよね。  それを思い出して私も熱くなりました。  で、多くの方々に確実に出来ることは、普通に生活を送り、時に遊ぶ…
[良い点] 勢い最高潮の時に解散するというのが男気あってかっこよかったです! 解散後の転落とも言える生活も描写が丁寧で思わず「うわぁ……」って言ってしまいました。 1日限りの、というのも熱いですね! …
[良い点] 「二十四時間限定の魔法」←(感涙)。 めちゃめちゃ素敵な、お話でした~!
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