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幼馴染み

作者: 庭 こま子
掲載日:2022/10/15





 金色の光る三日月を眺めながら、ロバートはふらふらと夜道を歩いていた。騎士仲間と酒を飲んで別れたのはつい先ほどのことである。冬の寒気に反して、体は暖かく、上機嫌だった。

 ふいにロバートはシャノンに会いたくなった。シャノンは実家の隣に住む7つ年下の幼馴染だ。小さな武器屋を経営していて、長女である彼女は看板娘をしている。太い眉につり上がった目尻は、気性の荒さを示していたが、時折見せる弱々しい姿は、「この女を守らなくては」と強く感じさせた。

 他人に気を張って大人ように振舞うものの、まだ16の子供である。ロバートは年上の女性が好みなのだが、最近、綺麗になっていくシャノンのことが頭の隅に引っかかってしょうがなかった。

(あんな女、面倒なことこの上ないってのに)

 チッと舌打ちしたくなった。一体惹かれる要素はどこにあるのだろう。兄弟のように育ったために、彼女の良し悪しを把握している。

 しかし、彼女が自分以外の男といるのに向かっ腹が立つくらいには好いているらしかった。

 ロバートを片手で髪をクシャクシャにして、眉間にシワを寄せる。深く嘆息して両肩を落とした。

 彼女はロバートのことを嫌っている。

 それはロバートが特定の女性を作らず、遊び歩いてるからだ。利害の一致で成り立つ関係は純粋な少女にとって不快なものでしかない。

 それだから、シャノンは家族ぐるみの付き合いをしているロバートに近づこうとはしなくなった。

 懐いてくれた時期もあったが、遠い昔の話だ。


 ロバートは体を丸めて、ズボンのポケットに手を突っ込むと、道端にあった小石を蹴り上げた。


* * *



 騎士団鍛錬所は見学者の女性で溢れている。若い青年らがそちらに目を向きたくなるのは当然で、ロバート自身も女性を値踏みしながら様子を楽しんでいた。

 剣を振り上げて太い木の棒に叩き込む。楔帷子と鎧で重量があるにもかかわらず、軽やかな足取りだった。

 額に汗を流しながらも、息を乱さず、たまに白い歯を浮き立たせた顔を女性達に向けると、黄色い歓声がとどろいていた。

「よくもまぁ、面の厚い」

 あきれ混じりの同僚は、ロバートの華やかな笑みを見て言った。

 ロバートにとってこれは自然体だった。こんなことで女性に喜んでもらえるならいくらだってする。

 口端を上げて、余裕ぶっていたが、唐突にふっと表情が消えた。目線は左から右に移り、首を横に向ける。

 今、シャノンが通り過ぎていった。

 遠目だが、髪にピンクのリボンをして、服も余所行きだった。

 ロバートの心臓は早鐘を打つ。

 同時に、誰か目当ての騎士がいるのではないか、と気分が沈んだ。


 その後、ロバートは彼女のことを忘れようと勤めた結果、皆に気味悪いと思われるほど真剣に取り組んでいた。




* * * *




(いっそ、さっさと恋人でも作ればいいのに)

 あの奥手がそうそう男を捕まえると思わないが、自分で自分の発想に腹が立った。


 鍛錬場を出て、ロバートは騎士団本部を目指していた。次の仕事に向かうため、早足でいくと、道の途中で木陰に潜むシャノンの姿を見つけた。

 ロバートは声をかけようにも言葉が見つからず、無視をすることにしたが、シャノンの方がロバートを見つけてしまった。

「ロバート! ちょうどいいところに」

 顔を綻ばせて、近付く彼女は可愛らしかった。

 小走りで、頬を紅潮させ、上目遣いをする姿は他の誰にも見せたくなかった。

 一人で良かった、とほっと胸をなでおろす。

「頼みがあるの。お願いできるかしら」

 両手を合わせ拝まれる。嫌な予感がした。いつものようにツンケンしていないのは異常だ。

「実は、その……とある方にお世話になったから、お礼をしたいんだけど、仕事中に呼び出すのは、ご迷惑でしょう? 」

(なんだ、この乙女顔は。見たことないぞ)

 ロバートは口をへの字にしてムスッとなる。

「だから、このクッキーとお礼状、届けてくれないかな」

(俺も仕事中なんですけどね)

 と言いたいところだが、彼女の真剣なまなざしグッと堪える。

 悲しませるところは見たくなかったし、なにより彼女が自分に頼んでくるなんて何年ぶりのことだった。複雑な感情が入り混じり、ロバートは嘲笑した。

「いいぜ。届けても。そのかわり、キスしてみろよ。ここに」

 自分の頬を指差して、意地悪そうに口端を上げた。

 彼女は一瞬キョトンとして、すぐ顔を青ざめた。次に頬を真っ赤に染めて「なんで、そんな事しなくちゃいけないのよっ」と声を荒げた。

「あれぇ。人に用事を頼むなら、これくらいの駄賃はくれないと。いいのか、お礼しなくて」

 これくらいの悪戯は許されるだろう。頬を膨らませて、潤んだ瞳で睨む様子を見て、ロバートは少し気持ちがスッキリした。

 そろそろ冗談にしようと口を開こうとした時、動作を止めた。

 頬に湿ったやわらかいものが触れた気がした。



「これでいいんでしょっ。馬鹿! 」

 彼女は自分の唇を袖で拭うと、身を翻して走り去った。



 ロバートはしばらく呆然とその場に突っ立っていた。

 何が起きたのか理解できない。

 体を震わせて、耳まで赤く染まっていた。

 ギッと歯を強く噛み締める。


(これだから、ガキは嫌いだ)


 ロバートの腕の中にあるクッキーとお礼状のためにこんな無茶苦茶なことをするなんて、どうやら本気らしい相手に、ロバートは嫉妬を隠せない。


 破り捨ててしまいたくなったが、シャノンと約束してしまった手前、むげにも出来ず、顔を大いに歪めた。


END

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