表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【完結済短編】異世界恋愛・ハイファンタジー

【短編】【ヤンデレ注意】没落令嬢は奴隷として氷の公爵に買われて飼われています

作者: 真波潜

どの位をヤンデレと定義するか分からずに書いたので、過激であったり温かったりしたら申し訳ありません。

私の中のR18じゃないヤンデレはこの位でした。

「今日の報告をしたまえ」


「はい、ご主人様」


 これが、ここ一ヶ月程で染み付いた日課だ。最初は抵抗があったが、今はもう何も抗う気概が残っていない。


 ――私の家は、一ヶ月半前、両親の抱えていた借金のために没落した。両親は国庫に手を付けて横領していたため殺され、あと一年で成人だったが、まだ未成年だった私は、辛うじて命だけは助かったものの平民落ちとなった。


 住む所もなければ、働くという頭さえなかった私は、平民になったからといって何ができる訳でもなく、綺麗な人形として耳の早い闇商人に攫われ、気付けば競売に……もちろん、国では人身売買を禁じている、表向きは……かけられ、仮面をつけたたくさんの好奇の目に晒された。


 普段身に付けるよりも薄いレースとシフォン生地の下着に綺麗な化粧を施され、痩せすぎない程度に与えられていたご飯と、商品としての質を落とさない為の毎日の湯浴み、そして、殴られたりはしなかったが徹底した奴隷としての躾の日々。


 精神とは思ったよりも簡単に、呆気なく、そして生命線を握られた時点で折れるのだと、頭のどこか冷静なところが、声を殺して毎夜泣く私を見下ろして考えていた。


 が、舞台の上に裸よりも恥ずかしい格好で……いっそ、裸体ならば自らの人間という立場と権利を放棄できたのに……上がらされ、商品として見られている。


 人間に値段はつけられるらしい。それも、高額だ。誰よりも法を重んじなければならないはずの貴族が、きっとここでの客なのだろう。


 少し前まで私もあなたたち(会場の客)と同じ貴族だったというのに、今の私は平民ですらなくなり、生きるための全てを奴隷商に握られ、商品としてここに立っている。一応、人間ではあるらしい。だが、これならまだ犬か猫のように扱われる方がマシだと思う。


 金額はどんどん吊り上がっていく。私はどこか他人事にそれを聞いていたが、落札者が決まった時に、はっと自我を取り戻した。


 ステージから降ろされ、落札者に手渡される部屋で、上等なドレスに着替えさせられ、落札者の顔は仮面に半分隠されたまま、次に生命線を握られる屋敷へ馬車で向かう。これも、奴隷商側が用意した黒塗りの馬車だ。貴族の馬車には家紋が入っているので、夜でも見かけられては変な噂が立つのだろう。


 落札したのは、若い男性のようだった。物が物……私のことだ……だけに、代理人という訳ではなさそうだ。


 馬車に乗ってフードを脱いだ時に露わになった燻したような銀髪を見て、私は驚愕に目を見開いた。


 デビュタントもまだの私は、噂に聞いているだけだったが、この国で銀髪を持つのは、ユルグウェル公爵家のみだ。元は北の国に血の由来を持ち、王家と共にここに国を造った5大貴族のうちの一つ。


 ユルグウェル公爵は妙齢だが独身で、妻を娶らなかった。今は、確か25歳だったはずだ。アイスブルーの瞳に常に冷たい表情を浮かべている美丈夫で、仮面越しにも整った顔立ちが分かる気がした。


 私は来年成人する。今は16歳なので、大体10歳の年の差がある。


 しかし、10歳の年の差だけで、一人は公爵として国の為に働く大貴族であり若い子女にもてはやされる人間で、私は平民にすらなれずに奴隷としてその人に買われたのだと思うと、まだ半月しか経っていない過去を思い起こして静かに泣いてしまった。


「何故、泣く?」


 問いかけには、答えていいことになっている。そう教えられた。


「私は、元は貴族だったので……、貴族の奴隷になるのだと思うと、情けなくて涙が出て来ました」


 感情のこもらない平坦な声で、私は涙を零しながら答えた。


 彼はそれ以上何も言わず、私を自ら用意した部屋に案内すると、次の日から専用の侍女を付け、貴族の令嬢としての生活をさせた。


 ただし、一つだけ……その一つが私の人権を奪い、その一つさえ遵守すれば私は貴族の令嬢として恙なく暮らすことができた。


「――以上が、本日の報告になります」


「こちらの報告書と違い無い。戻っていいぞ」


「おやすみなさいませ、ご主人様」


 氷の公爵、と呼ばれるユルグウェル公爵……ベルガー・ユルグウェル閣下に、毎日夜の22時に、私は目覚めてからの全てを報告することになっている。


 私付きの侍女と言えば聞こえはいいが、ようは見張りだ。そして、私は好きな物を欲していいし、屋敷の中を好きに動いていい。


 朝の何時に何を食べ、何色のドレスを着て、その下には何色のどんな下着を着けているのか、湯浴みは何時で、何の香油を使ったのか、化粧は誰にどのようなものをされたのか、……排泄は、何度、いつどの手洗いで行ったのか。


 全てを詳らかに報告する。それだけで、私の中では何もかもが挫けていった。心の中にあった、奴隷は人間だった、という思い込みを、全て砕かれている。


 しかも、報告書があがっているのに、私自らに毎晩、報告させる。自分の口から排泄した場所と時間、内容を最初に言わされた時、言うまでアイスブルーの瞳に凝視され、動けなかった屈辱。


 しかし、もう慣れた。この情報がどこに漏れる訳でもなく、ただ公爵が報告と相違無いことを確かめるために、私の従順さを測る為にやらせているのだと理解した後は、心が折れてひしゃげる音をたてたけれど、お陰で淡々と報告できるようになった。


 氷の公爵は妻を娶らない。どうやら婚約者もいないようだ。


 なのに、私に合うサイズのドレスも下着も用意され、趣味の合う部屋が宛がわれ、好みのお菓子とお茶がいつでも出て来て、好きな本を好きなだけ読み、趣味の刺繍も絵画も許されている。絵の具なんて贅沢品を、私が使う為に買っていたらそのうち奴隷を買った事もバレそうなものだが、公爵家というのはその程度の出費は雑費扱いになるらしい。


 私は毎日、贅沢に……以前よりもずっと贅沢に、そして、以前よりもずっと希望のない生活を送っている。


 この生活がいつまで続くのだろう、いつまで耐えればいいのだろう、という考えすら、もう湧いてこない。


 再び奴隷商の元に戻されるまで……氷の公爵が飽きるまで、私はここで、彼に全てをさらけ出して生きていくしかない。そんな日が来るとは思えないが、五大公爵家が妻を取らないということはもっとあり得ないのだから、と、ほんの少しだけ自由を……少なくとも、奴隷という商品としての生活の方がまだプライバシーがあった……望んでいる。


   ◇◇◇


「以上となります」


 ある日の報告を終えた日だった。買われてから一年程だったろうか。ある日から、私は日付を気にするのを止めたが、明日は誕生日で、私は成人を迎える。だから、その日だけはなんとなくカレンダーを見てしまい、日付を理解してしまっていた。


「結婚するぞ」


 何を言われたのか分からなかった。


 結婚? 私と? 身分も、人権も、プライバシーも、そして私とユルグウェル公爵の間には会話も生活も愛も無いのに、結婚?


 沈黙を返すしかなかった。私の中には最早感情がなく、絵は描けなくなっていて、刺繍も図案をなぞるばかり、読書の内容すら頭に入ってこない。何の感動もなくなり、感情が消え、部屋に籠ってただ座って過ごすばかりになっていたというのに。


「どう、して……」


 私は、『ご主人様』に対する口調ではないと分かっていても、茫然とそれだけ呟くのが精いっぱいだった。


 整った美しい顔が、一年近く一緒にいて、初めて微笑むところを見た。


「私は君を娶る為に君の家を潰して君を買った。最初からそのつもりだったし、君が成人する前に事を起こしたのはその為だ」


 一体、何を言われているのか分からない。


 氷の公爵、いくらでも美女が擦り寄ってきそうなその人が、私のような一令嬢を娶る為に……家を潰した?


「しかし……それでは、私の身分は……」


「君は知らないようだが、金で買えないものは、この国には存在しない」


 反論する言葉を失った。理由が、一切分からない。


 第一、私と結婚するのならば、普通に婚約を申し込めばよかっただけだ。


 こう言っては何だが、私はどこにでもいる貴族の令嬢そのものだ。特別なものは何もない。


 ミルクティー色の緩く巻いた髪に、未成年特有のまだ少しあどけない顔。瞳は菫色だが珍しい色でもないし、顔立ちも特別に可愛い訳でもなく、気立てがいい訳でもない。


「君は、私にここまで愛されているのに、何故不思議そうにしているのか?」


「……愛、され……て?」


「君がこの屋敷に来てからの下着の色からドレス、化粧、湯浴みに使った香油、何を食べ何を飲みいつそれらをどこで排泄したのか、私は全て覚えている。君に報告させていたのは、君が私に対して全てをさらけ出してくれるための準備だ。私は君にしか興味が無いし、君の全てに興味がある。これを愛以外の何と呼べばいい?」


 ふざけないで、と叫ぶだけの感情と気力と精神力が私に残っていたのならよかったが、そんなものは残っていない。


 この目の前の相手は、一方的に私の人生と人格と人権と感情を壊して粉々にしておきながら、それを愛だという。


 最早涙も出てこない。結婚、という言葉に、私の中の何かが一瞬動きかけたが、脆くなった思考は軽く揺さぶられただけで崩れて落ちた。


 私はもう思考すらままならず、悔しさも憎しみも抱けず、今更放り出されることに恐怖を感じ、結婚という言葉に安堵している。


 何の感情も動かないのに、愛してすらいないのに、いずれこの目の前の私の全てを……命や身体、心だけではない、思考と自由と権利も……奪った男に抱かれ、子供を産むことになる。


 それを自分が日々する報告のように情報として理解できたのは、最初の頃、アイスブルーの瞳に凝視されて罰を受けるかのように報告した日以来、長い時間その瞳を見つめ返してからで。


「畏まりました、ご主人様」


 私の口からは、その言葉しか出てこなかった。

お読みくださりありがとうございました。

普段はハッピーエンドなお話を書いています。ヤンデレ、いずれリベンジしてみたい気もします…!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 病んでるのは間違いない。サイコ過ぎる…。 デレは見当たらないような気もしたけど、公爵の中ではデレなのかも。 怖かったです。 [気になる点] 公爵、男性なので妙齢はおかしいかなと思います。
[一言] かなり 怖がりでガラスのハートの持ち主なのですが 怖いもの見たさで読ませていただいて 今 尻尾を後ろ足の間に挟んで震えてます・・・・ やっぱり ハピエン以外に手を出すのはやめておこうかしら・…
[気になる点] ガワがあればそれで良い、中身なんか必要ない。ってヤンデレなんでしょうか…?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ