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  作者: 黒江 司
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夢を見る男

昨日はとても平和だった。いや、昨日と言っても、つい数時間前の話であって。まだ眠るには早い気がするのでこうして目を開けている。思えば朝から調子が良かった。渋谷しぶやは壁のシミをぼんやりと見つめながら昨日のことを考えていた。



長い人生において学生時代なんてものはほんの数えられる程度しかないのに、何故人はあの時にこだわるのか。


あの時は当たり前のように毎日が過ぎ、祝福され、きらめき、そして気怠く、全てが面倒で、他人を羨み、嫉妬し、欲しがり、愛されるのが当たり前で、幸せになりたがる。


大人になってもあの時手に入れられなかったものに固執し、あの時捨てたものを懐かしんで、あの時憧れていたはずのものを馬鹿にし、あの時は理解に苦しんだことを受け入れる。


あの時誰かに教えられていたことを忘れ、あの時嫌気がさした言葉を同じ様に吐き捨て、あの時と同じように何故分かってくれないのかと嘆き、あの時に恋焦がれ、あの時のせいにして、あの時を愛しては憎む。



そんな調子だから人間はいつまでたっても進化しないのだな、と渋谷はため息を吐ついた。


昼に散歩をして幼稚園児達、可愛かったなぁ。あの子達は今は天使だ。でも悲しいよな、この現世で暮らすうちに、天使はただの人間に成り下がってしまう。あの時のままの無垢な状態は擦り切れ、捻くれ、潰される。そのうち道に他人を慮る気持ちなど忘れ道を塞いで歩くのだ。


そうしてあっという間の青春を消化して大人の階段を上る。その中の大勢がいつの間にか働いて、いつの間にか病に倒れ、いつの間にか死んでいく。


けれどその中の何人かは、何か特別なことをしたいと思い始める。何でもいい、何でもいいから、みんなとは違うことしなくては、と。


うず高く聳そびえ立つビルから地上を見下ろす人々は、まるで自分が人よりも高い位置にいるのだと錯覚しているだろう。こんなに大きな会社で働ける自分はさぞ優秀なのだろう、と。そうしてそれを見上げる者もまた、恨みがましく見つめている。


けれど同じ人間なのだ。そこに大差など存在しない。それを互いにわかっている。だからこそ悔しく、優越感を求める。



夕方のカラスの群れの方がよっぽど愛らしい。彼らはその身一つで戦い、手を組み、生きている。












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