跪く男
毎夜この時間になると自然と涙が流れてくる。そして不思議なことに、この二本の足は教会へと歩を進めるのだ。そこへ行ったところで中に入れるはずなどなく、ただその異国の様な外観を見つめているだけなのだけれど。
品川がどうしてここへ来てしまうのかと言えば、幼い頃に残した傷痕、若かりし頃に犯した過ち、それを今でも払拭出来ない弱い自分を呪うためだった。
「神様、僕は悪い子です」
いつも同じ台詞から品川は嘆く。昔の友達を追い詰めたこと、同じ夢を見た友人を裏切ったこと、今もそれを神に向かって懺悔している。本当に謝らなくてはならない相手を、品川は知っているのに。
それでも毎夜ここに来て、自分と自分の罪を呪うことしか出来なかった。いや、それ以外をしようとは思わなかったのだ。
小学生の頃、裕福な暮らしをしていた友達が羨ましかった。彼はよく一人でいて、時折寂しそうにしていたけれど、品川から見ればそんなことは関係なかった。狡いと思った。きっと彼は幸せを知っている。
そう思ったから彼が必死ですがっていた四本の腕を彼から奪った。彼はもっとお金持ちになったけれど、日の光を浴びることはなくなった。
ごめんなさい、ごめんなさい。
大学生の頃、同じ夢を見て歩いていた人がいた。彼は才能に溢れていて、努力も怠らなかった。だから彼は選ばれた。たくさん延びる中から一つの手をとって、羽ばたこうとした。きっと彼も幸せを知っている。
だから捥いだ。ここに一人残されるのは嫌だったから。だけど堕ちてきた彼は、もう僕の隣にはいなかった。
ごめんなさい、ごめんなさい。
教会の前に跪く。この教会の中に神はいない。何年も前に廃墟になったのを品川は知っていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
譫言のように呟く。品川はその行為に意味など無いと、もうとっくにわかっている。