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精霊使いと賢者の遺産  作者: 夜空琉星
第2章 雷狼と風の忍び
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第2章 27話 里の精鋭たち② (後編)

 「よし! それじゃあ、いっちょ行きますか!」


 そう言って亮太(りょうた)俊也(としや)(とおる)直樹(なおき)各々(おのおの)が霊具を構え魔獣の群れに向かって走り出す。

 小型魔獣たちは班長たちの行く手を(はば)むように密集し、壁を作る。

 それでも四人は走る速度を緩めない。

 むしろ亮太は走る速度をあげ、一人先行する。

 そして不敵にほほ笑むと・・・・・・


 「あらよっと!」


 槍を地面に突き立ててるとそのまま踏み込み、槍のしなりを利用して跳躍。

 空高々とその身を躍らせ、小型魔獣の壁を軽々と飛び越えて見せた。

 女王蟻は口を大きく開くと、自らに向かってくる亮太を迎撃するために精霊術を発動。

 口から霊力を針状に形状変化させて飛ばしてくるが、亮太は空中で自在に槍を振るい迫りくる針をすべて叩き落す。

 そのまま落下の勢いを上乗せして、霊力を纏った槍を女王蟻の頭部へと叩き付ける。

 女王蟻は四本の腕を頭上で交差させて防御するが、亮太の槍による一撃で右から生えている腕の一本をへし折られる。

 女王蟻の悲痛な叫びがこだまする。

 女王を攻撃されたことへの怒りなのか、小型魔獣たちはカチカチと激しく大顎を鳴らしながら猛烈な勢いで亮太へと迫る。


 だがしかし、

 

 「悪いが・・・・・・」


 直樹は、そう言いながら先頭を走る小型魔獣の足に横から(むち)を当て、魔獣を転倒させる。それに(つまず)き、後続の魔獣の何体が巻き込まれて転倒していき小山ができる。

 しかし、怒り心頭の様子である小型魔獣たちの猛進は止まることはなく、仲間で作られた小山を残った数体の魔獣たちが乗り越えようとしていく。


 「近づけさせないぜ!」


 直樹の続く言葉を補うように俊也が言うと、雷鳴の如く小型魔獣たちの元へと(ひらめ)き、薙刀(なぎなた)(みね)の部分で小型魔獣の急所を次々と叩き、魔獣たちの進行を妨害する。


 そして透は、俊也と直樹によって何者にも邪魔されることなく女王蟻に走って近づく。

 亮太の攻撃によって隙が生まれた女王蟻に向かって、炎を纏った長巻(ながまき)を腰の(ひね)りを()かせて右から左へ横一文字に振るう。

 炎を纏った長巻は女王蟻の腹部を深々と焼き斬った。

 再び女王蟻の悲痛に満ちた叫び声が響きわたる。


 「これならいけるぞ!」


 「この調子で連携を繰り返しましょう!」


 そこからは、亮太は女王蟻の攻撃を抜群の槍さばきで防ぎつつ、蜈蚣(ごこう)の精霊術《闇討(やみう)ち》を織り交ぜて隙をつくる。そしてその隙が生まれた瞬間に、透が炎を纏った長巻で攻撃力重視の斬撃を浴びせる。

 その間、俊也と直樹は小型魔獣が亮太たちの元へ近づかないように、そして小型魔獣の数が半分を割らないように気をつけながら足止めをしていた。


 そんな状態が五分ほど続いた。

 五分の戦闘の間に女王蟻は腕二本を切り落とされ、まともに動かせるのは右から生えている一本のみ。

 体力も残すところ二割か一割程度と言ったところだろうか。

 あと少しで女王蟻を倒せる。

 四人が勝利を確信したその時。


 「ギシャァァァァァ!!!」


 女王蟻が今までにない一際(ひときわ)大きな、そして凶悪な叫び声を上げる。

 直後、女王蟻の黒色の体が、赤黒く変色する。


 「!?」


 「今までと様子が違う! 気をつけろ!」


 亮太が叫ぶと、亮太と透は一旦女王蟻から距離をとる。

 俊也と直樹は小型魔獣の足止めをしつつ、女王蟻の方にも警戒を強める。

 一方の女王蟻の方は叫び声をあげた後、まるでのたうち回るが如く卵嚢(らんのう)が激しく波打つ。

 直後、波打つ卵嚢から十個の卵が産み落とされ、卵を突き破って次々と小型魔獣が生まれ出でてくる。


 「おいおい、マジかよ!!」


 「取り巻きがさらに増えたぞ!」


 その光景を見て、流石の班長たちも顔を青ざめさせて動揺を隠せずにいた。


 「これ以上戦闘を長引かせるのは・・・・・・」


 透はそう言って、他の班長たちの様子を見る。

 亮太の方は体力と霊力、共にまだ余裕がありそうだ。しかし女王蟻に対して攻撃を(さば)いたり動きを牽制(けんせい)したりして、透が攻撃するための隙づくりを一人でこなしている。

 想像以上に精神的な疲労が大きく、いつまで今の集中力が持続するかはわからない。

 最悪の場合、精神的疲労による些細(ささい)な判断の誤りがそのまま命を落とすことに直結しかねない。


 続いて俊也と直樹の方に視線を移す。

 昨日からの疲労を引きずっていること、そして小型魔獣たちとの戦闘により体力、霊力、集中力は限界に近い。

 精霊術を連発できない状態で、さらに数が増えた小型魔獣を相手するのは自殺行為にも等しいだろう。

 それは透にも同様のことが言えた。

 これ以上の戦闘の継続は、得策とは言えない。

 だが、これ以上被害を拡大させないために一歩も引けない状況だ。

 ならば、やることは一つ。


 「亮太、時間を稼いでいください。僕の残りの全霊力を持って、女王蟻の魔獣を一撃で仕留めます!」


 覚悟の決まった透の表情を見て、亮太は頼もしさを感じ思わず笑みを浮かべる。


 「りょーかい!」


 「俊也と直樹は、合図と同時に取り巻きを一掃してください」


 「わかった!」


 「承知」


 透の指示に俊也と直樹も頷きと共に答えると、それぞれが覚悟を決めて魔獣たちと相対する。

 透は長巻を肩に担ぐように構えると、残りの霊力を全て注ぎ込む勢いで霊力出力量を上げて精霊術発動準備に入る。

 亮太は透の精霊術の発動準備が整うまで、女王蟻の相手をする。

 まともに動かせる腕は一本のみで、大きな卵嚢を持つため俊敏な動きはできないはずの女王蟻であるが、怒り状態に入った影響なのか鋭い鉤爪が付いた腕による攻撃や口から針を飛ばす精霊術は苛烈と言えるほど激しさを増している。

 それでも後ろにいる透に攻撃を受けさせないため、そして精霊術発動までの時間を稼ぐため、亮太は女王蟻の攻撃を懸命に捌き、牽制を続ける。


 一方の俊也と直樹も、透と亮太の方に小型魔獣を寄せ付けないようにするために今まで以上に激しく動き、数の増えた小型魔獣の相手をする。

 だが小型魔獣二十五体というのは、流石(さすが)に二人で相手にするには数が多すぎる。

 魔獣の大顎に噛まれた傷や鋭い歩脚による切り傷が、透と直樹の体の至るところに刻まれていく。

 それでも、(まさ)しく全身全霊をかけて透の合図が来るまで魔獣たちの相手を続ける。


 時間にして一分にも満たない間。

 だが永遠にも感じられたその時間に、ついに終わりが訪れる。

 精霊術の発動準備が整った透が声を張り上げる。


 「俊也、直樹! お願いします!」


 透の合図に待っていましたと言わんばかりに二人はほほ笑むと、霊力出力量を上げて一気に攻勢に転じる。


 直樹は小型魔獣の群れに向かって、右手に持つ水霊力を纏った鞭を円を描くようにクルクルと高速で回す。

 すると螺旋(らせん)を描く鞭によって巨大な水の渦が作られ、小型魔獣の群れを丸ごと飲み込んだ。

 小型魔獣たちは水中である渦の中では満足に動くことができず、もがき苦しんでいる。なおかつ激しく渦巻く水流に絡めとられて渦の中をぐるぐると回転し、魔獣同士で何度もぶつかり合っていた。

 脱出するどころか身動き一つとることも許さない、渦巻く水の牢獄(ろうごく)

 これは鞭によって生み出した水の渦に相手を閉じ込め動きを封じる蝦蟇の精霊術《渦巻(うずま)き》だ。

 そして直樹は、鞭を回している手を徐々に頭上へと持って行く。

 それに伴って《渦巻き》によって作られた水の渦も持ち上がり、そして水の渦が直樹の真上に来たタイミングで精霊術を解除してその場から離れる。

 小型魔獣たちは空中に一塊(ひとかたまり)になった状態で放り出された。


 そのタイミングで俊也が精霊術を発動。

 雷をその身と薙刀に纏い、魔獣たちに向かって跳躍した。

 雷を纏った影響で霊装の襟巻(えりまき)が左右へと大きく広がり空へと飛び上がるその姿は、さながら(はね)を広げて空へと飛び立つカブトムシのようだった。

 そして、魔獣たちの真上と飛び上がった俊也は雷を纏った薙刀を大きく振りかぶると、落下の勢いも上乗せして一塊になった小型魔獣たちに振り下ろした。

 相手の頭上から雷を纏った薙刀で一刀両断する雷甲虫の精霊術《兜割(かぶとわ)り》

 雷の如き一閃が、魔獣たちを一撃の元に一掃した。

 この連携で俊也と直樹は霊力を使い果たし、俊也が着地したタイミングで霊具と霊装が強制解除される。

 一方、小型魔獣が全滅したことにより、女王蟻がまた産卵を始めようと叫び声を上げようとする。


 だが・・・・・・


 「やらせねーよ!」


 亮太が女王蟻の顎先めがけて槍を右下から左上へと向かって振り上げ、女王蟻の産卵を妨害しようとする。

 しかし女王蟻も、もう後がない。このままでは終われないと思ったのか。

 それとも亮太の妨害を本能的に読んでいたのだろうか。

 なんと今までその大きさ故に女王蟻の動きを制限していた卵嚢を切り捨て、そのぶん身軽になったことで亮太の槍を寸前のところでバックステップで回避したのだ。


 「な!?」


 予想外の女王蟻の行動に亮太の顔が驚きと焦りで(ゆが)む・・・・・・


 「な~んてな」


 なんてことはなかった。


 亮太はまるで「残念でした~」と言わんばかりに、べっと舌を出して(あお)るような表情を見せると、槍に霊力を流し込み精霊術を発動。

 亮太の持っていた槍の持ち手が三分割(さんぶんかつ)にわかれる。

 三分割された槍はそれぞれが鎖状に編まれた霊力によって繋がっており、その見た目は槍の切先が付いた三節棍(さんせつこん)のようだった。

 これは槍の持ち手を分割し多節化することで、瞬時に攻撃範囲を自由自在に変化させる蜈蚣の精霊術《多節槍(たせっそう)

 亮太は精霊術によって攻撃範囲が広がった槍をそのまま振り抜く。

 女王蟻は流石にこの急激な間合いの変化には対応できず、槍先が顎を直撃。体が大きく仰け反り、大きな隙が生まれる。


 この隙を透は見逃さない。


 「これで、終わりです!!」


 透は精霊術を発動。

 時間をかけて高めた高出力の霊力を一気に開放し、長巻の刀身に爆焔が宿る。

 透は地面を強く蹴り、地を駆ける駿馬(しゅんめ)の如く女王蟻の元へと一気に間合いを詰める。

 そして肩に担ぐように構えていた長巻をその重量に任せて、右上から左下へと思い切り振り下ろした。

 爆焔を纏った長巻で重量を生かした大斬撃を繰り出す焔馬(えんま)の精霊術《大断焔(だいだんえん)

 《大断焔》を受けた女王蟻の身体は爆焔によってその身を激しく焼かれ、塵一つ残さない勢いで爆裂した。


 女王蟻を倒した透も霊力を使い果たし霊具と霊装が強制解除され、疲労と安心でその場に座り込む。

 戦闘が終わり、俊也と直樹と亮太は透の元へと駆け寄る。

 互いに魔獣を倒したことにより安堵の表情を浮かべ、健闘(けんとう)(たた)え合った。

 だが一人、険しい顔をしている者がいた。


 「あの、俺・・・・・・」


 眉をひそめた険しい顔で、ためらいがちに口を開いたのは亮太だった。

 その理由は魔獣の群れを倒したことによる喜びや安堵(あんど)の満ちた雰囲気を壊したくなかったのと、もう一つ気になることがあったから。

 それは里長の屋敷で雷亜の話。


 もしそれが本当なら・・・・・・


 そんなふうに亮太は思っていた。

 そんな亮太を見て、俊也、透、直樹は笑みを浮かべて首を縦に振る。

 三人は亮太が何を気にしていて、何を言いたいのか、わかっていたからだ。


 「彼を止めたいんでしょう?」


 「なら、けり付けて来いよ!」


 「行ってこい」


 透、俊也、直樹、三人とも短い言葉ではあるが、それぞれが思い思いに亮太を送り出す。

 亮太はそれがうれしくて一瞬表情が緩むが、この後のことを考えてすぐさま表情を引き締める。


 「三人とも・・・・・・あざす!」


 亮太は一礼すると、里長の屋敷へと駆けだした。

 これにて風間の里、防壁南側の魔獣の群れ。

 討伐完了。

 里の精鋭たち②の前編・後編を読んでくださったみなさん、ありがとうございました。


 第2章も終盤に突入し、班長たちも大活躍ですね。

 

 次回以降も、ぜひ読んでみてください!

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