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精霊使いと賢者の遺産  作者: 夜空琉星
第2章 雷狼と風の忍び
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第2章 26話 里の精鋭たち②  (前編)

 大変お待たせいたしました。

 今回も一つの戦闘シーンを前後編でお送りします。

 お時間がある方はぜひ続けて読んでみてください。

 

 それでは、本編をどうぞ!

 ここは風間(かざま)(さと)の外周をぐるりと囲んでいる防壁の南側。

 里長の(めい)により魔獣の群れの討伐を任された俊也(としや)(とおる)直樹(なおき)亮太(りょうた)の面々は、魔獣の群れが出現したと報告があった南の防壁へと向かっていた。


 「なっ!」


 「これは・・・・・・」


 「おいおい! マジか!?」


 南の防壁にたどり着いた面々は、現場の状況を見て息を呑んだ。

 目の前で繰り広げられていたのは、防御陣形を組んだ忍びたちと十五体の小型の魔獣との壮絶な攻防だった。

 小型魔獣の黒色の体は円筒形(えんとうけい)で細長く、大きさは人間よりも一回り大きい程度。

 頭部、胸部、腹部のそれぞれの間がくびれている。

 頭部には二本の触角と大きく発達した大顎。

 胸部には細く鋭い歩脚が左右に三本ずつ。

 その姿は、まさしく(あり)のそれだった。

 忍びたちが相手をしていたのは、蟻の魔獣だったのだ。


 そして、異質な気配を()()らし一際(ひときわ)目を引くのは、忍びたちと魔獣の群れのさらに後ろに立つ大型の魔獣。

 小型の魔獣がそのまま蟻の姿形(すがたかたち)だったの対して、見上げるほどの大きな体をもつ大型の魔獣は蟻の要素は残しつつも、まるで人間のように二足歩行だった。

 人間の肩に相当する部位からは四本の腕が生えており、細く鋭い鉤爪(かぎづめ)がついている。

 そこまではなんとか許容範囲内の見た目だったのだが、下半身からが異様だった。

 下腹部から背面に向かって謎の巨大な袋状の部位が存在し、なんと袋状の部位だけで自身の体の三倍以上もあったのだ。表皮を突き破って肥大化したのか、袋は乳白色であった。

 自身の体に見合わないほど異常なまで巨大な袋状の部位、それゆえか動かずにじっとしている様が、この大型魔獣を一際異質だと感じる要因だった。


 「班長!」


 そんな大型魔獣の異様な姿に呆然(ぼうぜん)としていた班長たちに駆け寄り声をかけてきたのは、現場で指揮をとっていた忍びであった。

 声をかけられて我に返った透は、駆け寄ってきた忍びに現状の報告を求めた。


 「状況は?」


 「一体の大型の魔獣が十五体の魔獣を引き連れて、防壁を破って里の内部に侵入。防御陣形を敷いてなんとか対処している状況です。すでにここに集まった忍びの半数以上が負傷しており、陣形が崩れるのも時間の問題です」


 「わかった」


 たしかに周囲を見渡すと、怪我をして動けない忍びや、満身創痍(まんしんそうい)でありながらも懸命に魔獣たちを押し返そうとする忍びたちの姿があった。

 しかも大型魔獣への行手(ゆくて)(はば)むように小型魔獣が密集しているため、なかなか大型魔獣に攻撃を仕掛けられずにいた。

 まさに防戦一方といった展開であるが、それでもなんと均衡(きんこう)を保っているような状態だ。

 だが報告された通り、いつこの状態が崩壊してもおかしくない。

 状況を把握した透は、忍びに指示を出した。


 「僕たちが前に出たら防御陣形を解いて、怪我人を連れて里長の屋敷の地下に向かいなさい。第十班の面々が誘導しているはずです」


 「しかし、班長たちを置いて現場を離れるなど・・・・・・」


 十五体の小型魔獣に加え、いまだ得体のしれない異様な気配を漂わせる大型の魔獣。

 不安要素ばかりであるため、眉をひそめて現場からの離脱を躊躇(ためら)っていた忍びだったが、そんな忍びの肩を俊也がポンと叩いた。


 「ここには班長が四人もそろっているんだ。安心しろ」


 力強く頼もしい笑みを浮かべる俊也。その言葉に同意するように、透や直樹、亮太も頷いて見せる。


 「わかりました。ご武運を」


 忍びが一礼をして防御陣形を組んでいる他の忍びたちの方に戻っていくと、四人の班長たちは魔獣の群れの方を鋭く見つめ、それぞれが契約の指輪に霊力を流し込み詠唱を始める。


 「我を守護する精霊よ。汝、(いかづち)の如く閃け。雷甲虫(らいこうちゅう)!」


 俊也が詠唱すると、右手の人差し指にはめた契約の指輪から、山吹色(やまぶきいろ)の粒子と化した霊力が溢れ出す。粒子はカブトムシの姿になると、瞬く間に再び粒子となって俊也の身体を包み込み、霊装と霊具を顕現させる。

 俊也の契約精霊は雷属性のカブトムシの精霊、雷甲虫。

 身に纏う霊装は山吹色の襟巻(えりまき)

 そして霊具は薙刀(なぎなた)だ。


 「我を守護する精霊よ。汝、灼熱(しゃくねつ)(ほむら)をもって()の者を両断せよ。焔馬(えんま)!」


 透が詠唱すると、右手の人差し指にはめた契約の指輪から、鉛丹色(えんたんいろ)の粒子と化した霊力が溢れ出す。粒子は馬の姿になると、再び粒子となって透の身体を包み込み、霊装と霊具を顕現させる。

 透の契約精霊は火属性の馬の精霊、焔馬。

 身に纏う霊装は、炎の文様が入った羽織。

 霊具は自身の身の丈はあろうかというほどの(おお)太刀(だち)で、(つば)が武器のほぼ中央にあるのが特徴である、長巻(ながまき)だ。


 「我を守護する精霊よ。汝、大きなうねりとなって彼の者を打ち倒せ。蝦蟇(がま)!」


 直樹が詠唱すると、右手の人差し指にはまっている契約の指輪から、青藍色(せいらんいろ)の霊力が粒子となって溢れ出す。粒子は(かえる)の姿になると、再び粒子となって直樹の身体を包み込み霊装と霊具を顕現させる。

 直樹の契約精霊は水属性の蛙の精霊、蝦蟇。

 身に纏う霊装は頭にかぶった編笠(あみがさ)と、羽織っている袢纏(はんてん)

 霊装は(むち)だ。


 「我を守護する精霊よ。地を()い、空を覆い、蹂躙(じゅうりん)せよ。蜈蚣(ごこう)!」


 亮太が詠唱すると、右手の人差し指にはまっている契約の指輪から(こき)(むらさき)(いろ)の霊力が粒子となって溢れ出す。粒子はムカデの姿になると、再び粒子となって亮太の身体を包み込む。

 亮太の契約精霊は闇属性のムカデの精霊、蜈蚣。

 身に纏う霊装はムカデを思わせるような意匠(いしょう)(ほどこ)された衣。

 霊具は槍だ。


 「亮太。まずは俺たちで雑魚(ざこ)を片付けるぞ」


 「あいよ!」


 直樹の指示を受けて亮太が駆けだす。


 「その間に二人はあの大型魔獣を」


 「了解!」


 直樹は俊也と透にも指示を出すと、亮太を追いかけるように駆けだす。

 小型の魔獣たちが密集している地点にたどり着いた亮太は槍を地面に突き立て、精霊術を発動する。

 直後、槍から黒煙が噴き出し周囲一帯を覆いつくす。


 「班長たちが来られた! 総員、後退!」


 それを合図に忍びたちは煙に(まぎ)れるように後退し、戦線から離れる。

 一方の小型魔獣たちは、突然周囲が黒煙に覆われ視界が奪われたことで戸惑いが生まれたのか、一瞬動きが止まる。

 その一瞬の隙をついて、亮太が縦横無尽かつ正確無比に魔獣の急所に向かって霊力を纏わせた槍を振るい、瞬く間に五体ほどの魔獣を撃退する。

 亮太が使ったのは、煙幕で相手の視界を奪い霊具で攻撃する蜈蚣の精霊術《(やみ)()ち》

 だがまだ亮太の周りには魔獣が残っており、精霊術発動直後の隙を狙うかのように大顎をカチカチと鳴らしながら亮太に迫る。


 しかしその直後、まるで亮太の隙を埋めるかのような絶妙なタイミングで直樹も煙幕から飛び出しその身を躍らせると、精霊術を発動した。

 水属性の霊力を纏った鞭がまるで荒れ狂う波のようにうねり、魔獣たちに次々と襲い掛かる。

 蝦蟇の精霊術《()(じょう)()ち》

 直樹の攻撃によって、瞬時に亮太に襲い掛かろうとした四体の魔獣の体がバラバラになる。


 二人の連携で瞬く間に九体の小型魔獣を倒し、その数は半分以下の六体。

 そして二人の攻撃によって小型魔獣の密集地帯に、大型魔獣に攻撃を仕掛けるための道が開かれた。


 「これで!」


 俊也が薙刀を、透が長巻を構えると、大型魔獣の元に突進していく。

 そしてそれぞれが雷と炎を纏った霊具で斬撃を繰り出そうとした瞬間。


 「キシャアアアアア!!!」


 大型魔獣が奇怪な叫び声を上げる。

 耳をつんざくような叫び声に俊也と透は思わず膝をついて耳を塞ぎ、攻撃が封じられてしまう。

 直後、大型魔獣から膨大な量の霊力が溢れ出し、精霊術発動の兆候(ちょうこう)が現れる。

 溢れ出した霊力は大型魔獣の袋状の部位に集約されていく。

 そして袋状の部位がムクムクと動き、人間ほどの大きさがある白く(たわら)(がた)の物体を九個排出した。


 「なんだ!?」


 突然の出来事に困惑していると、その白い物体の表面を黒っぽい何かが突き破って出て来る。


 「おいおい、まさか・・・・・・」


 班長たちは嫌な予感を感じ、胸がざわつく。

 白い物体を突き破って出て来た黒色の何かは、白い物体の中から這い出し、その姿をあらわにする。

 白い物体から現れたのは、先ほど亮太たちが倒したのと同じ蟻型の魔獣だったのだ。

 残りの八個の白い物体からも、次々と新しい蟻魔獣が這い出てくる。

 これで小型魔獣の数は元の十五体に戻ってしまった。


 それと同時に、他の蟻型の魔獣と比べて異質の存在感を放っていた大型魔獣の正体がわかった。

 大型の魔獣は、蟻は蟻でも女王蟻の魔獣だったのだ。

 そして異様なまでに肥大化しているあの袋状の部位は、卵を産むための部位、卵嚢(らんのう)だ。

 つまり先ほどの女王蟻の精霊術は、自身の配下たる小型魔獣の数を補填するための産卵だったというわけだ。


 そして十五体へとその数を戻した小型魔獣が女王蟻を守るべく、女王蟻に刃を向けていた俊也と透に襲い掛かる。

 二人は不意打ちでくらった女王蟻の叫び声に三半(さんはん)規管(きかん)麻痺(まひ)したのか、まだ立ち上がれずにいた。

 しかし、すかさず直樹と亮太が二人の元に駆け付ける。

 俊也たちと比べて女王蟻から離れた場所にいたからか、女王蟻の叫び声攻撃のショック状態からの復帰が早かったのだ。

 直樹と亮太はそれぞれが霊具を振るい、小型魔獣を退ける。

 そのとき三体ほどの魔獣を倒してしまい、女王蟻がまた叫び声と共に産卵を行うと思ったが、女王蟻は沈黙していた。

 とりあえず追加の魔獣が産み落とされないことに安堵(あんど)し、いったん魔獣たちから距離をとる。


 「どうする?」


 俊也の問いかけに、透は顎に手をやって考えを巡らせる。


 「これは推測ですが、先ほどの一連の攻撃から考えるに、取り巻きの数が半数以下になったら大型の魔獣が産卵し、すぐに新しい取り巻きが産まれるようですね」


 小型魔獣を九体倒した後に産卵を行った時とは違い、先ほど三体ほど小型魔獣を倒してしまった後に女王蟻が産卵の精霊術を発動しなかったことが、透がこの仮説を立てた根拠だった。


 「本来ならこの推測が正しいのか判断するために、もう少し攻撃を与えて様子見をしたいところですが・・・・・・」


 しかしこの仮説が本当に正しいかどうかは魔獣たちに継続的に攻撃を与え、行動パターンや精霊術の発動タイミングを見極めて分析し、確かめてみないことにはわからないというのが透の正直な思いなのだが・・・・・・


 「昨日の戦闘で霊力と体力が回復しきっていない状態じゃあ、そう悠長(ゆうちょう)なことは言ってられないな・・・・・・」


 俊也と透は顔を見合わせて考え込む。


 「どうしたらいいもんか・・・・・・」


 頭を悩ませる二人とは対照的に、至極(しごく)当たり前のことかのような口調で口を開いたのは、この四人の中では一番年齢が下の亮太だった。


 「どうもこうも言ったって、透さんが言った仮説を前提に動くしかないっしょ。取り巻きが半数以下にならないように気をつけながら戦い、なおかつ大型の魔獣の対応をしないと」


 亮太はそう言うと、俊也、透、直樹を順番に指さす。


 「おたくら昨日の疲労が完全には抜けていないでしょ。俺がデカブツの相手をするから、他の三人は取り巻きをアイツに近づけさせないでくれ」


 やや一方的とも取れる口調で、今後の立ち回りを指示する亮太。

 それに真っ先に異を唱えたのは透だった。


 「それだと、いくらなんでも君一人の負担が大きすぎます!」


 「でもおたくら、そう何発も精霊術発動できないでしょ。ここ一番って時に使えないってなったら笑えないじゃん! だからここは昨日戦いにあんま参加してない俺に任せとけって言ってんだよ!」


 「とは言っても・・・・・・」


 互いに主張を変えるつもりはないのか、言い争いに発展しそうな勢いであった。

 年下にも敬語を使うぐらい真面目な性格な透と、年上に対してもやや軽い口調でズバッとものを言う亮太は相性があまり良くなく、意見がぶつかることは今までに幾度(いくど)とあった。


 「なら、それぞれの状態を(かんが)みて役割を決めよう」


 そう言って透と亮太の間に割って入ったのは、直樹だった。


 「大型の魔獣の相手は亮太と透でやってくれ。亮太が前衛でお得意の目くらましと手数を生かした攻撃で魔獣の隙を作って、ここぞって瞬間が来たら透の高火力斬撃を入れる」


 二人に指示を出した後に、次は俊也の方に視線を向ける。


「それで俺と俊也は取り巻きの相手をする。取り巻きの数を減らしすぎないように気をつけながら、亮太と透に取り巻きが近づかないように牽制(けんせい)する。俺の範囲攻撃とあんたの攻撃速度をうまく組み合わせたら、これぐらいなんとかなるはずだ」


 それぞれの戦い方の特徴や、疲労の状態などを考慮した組み合わせと立ち回りを提案する直樹。

 普段は言葉数(ことばかず)も少なく返事も淡泊であるが、周囲をよく見てバランスをとり、的確にものを言うのが直樹という男だ。


 「これならいいだろ?」


 「確かにこれなら・・・・・・」


 「異議なーし」


 「わかった。それで行こう!」


 直樹の提案に、透、亮太、俊也がそれぞれ賛成の意を示す。


 「よし! それじゃあ、いっちょ行きますか!」


 そう言って亮太、以下三人の班長たちは各々(おのおの)の霊具を構え、魔獣の群れに向かって走り出した。

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