第2章 22話 実験の第二段階
これは宙翔たちが目を覚ます数時間前。
太陽が顔をのぞかせる前の空白む薄明の頃。
「完成だ!」
ここは人里離れた山小屋。
まだ動植物も眠っているようなこの時間に、おおよそにつかわしくないような興奮冷めやらぬ声が響き渡る。
声の主はサイエン。
昨日古都国での活動の拠点にしているこの山小屋に帰ってきてから、サイエンはアビスから送られてきた彼の先生の研究資料を元に夜通し増幅薬の製作をしていたのだ。
研究資料の中から、残り少ない手持ちの材料と現地で採取できる材料で製作できる組み合わせを選んで増幅薬作り上げたためこれが完成形と言うわけではないが、確実にサイエンが一人で作り上げた増幅薬よりも効果の高いものを作ることができた。
まあ、時間的にも材料的にも新しく作ることができたのは一本だけであったが、現状を考えれば十分だと言えるだろう。
「これで実験を第二段階に進めることができるわい」
やや疲労感が滲んでいるものの、現状で作れる最高のものを作り上げた達成感がサイエンの言葉と口調から感じ取れた。
「しかし誰を被験体にするか・・・・・・」
サイエンにちらと視線を送られ、十蔵は首を大きく横に振った。
「俺はお断りだぞ!」
「わかっておる」
肩をすくめて言うサイエンが少し残念そうに見えたのは、たぶん、おそらく、いや絶対に気のせいだと十蔵は自分に言い聞かせることにした。
「実験の第二段階は、人間に増幅薬を投与した状態で精霊と契約した場合にどれほど霊力が上昇するのかと、精神と体に及ぼす影響を見るのが目的じゃ。だが精霊使いの適性が高くて、なおかつ今精霊と契約していない者なんて、そうそうおらんじゃろう」
そう言ってサイエンは作業台の方に視線を向ける。
「せっかくアビスから送られてきたんじゃがのう・・・・・・」
そこには乱雑に破いて開け広げられた小包があり、中身が露わになっていた。
アビスからサイエン宛てに送られたもの、それは契約の指輪だった。
しかもただの契約の指輪でははない。
指輪の中央にあてがわれた精霊の依代たる宝石は濁っており、わずかにだがアビスの得体の知れない力の片鱗を感じ取ることができる。
契約の指輪からアビスの存在を感じとった十蔵は、昨日のアビスの「博士の手伝い、よろしくね」という言葉を思い出していた。
「俺に一つ心当たりがある」
「本当か!?」
驚きと喜びが混じった声を上げるサイエンに、十蔵は肩をすくめて含みのある笑みを浮かべた。
「ああ。だが、少々厄介だがな」
「それでも構わん。実験のためなら少々の厄介ごとなんてたいしたことないじゃろう」
「いいだろう。なら、あんた渾身の出来の増幅薬を一本残して、残りは俺によこせ。あんたの実験の手助けをしてやろう」
現在サイエンの手元には先ほど新しく完成させた増幅薬が一本と、雷亜に投与したのと同じサイエンのオリジナルの増幅薬が三本ある。
十蔵はその三本を使って、何か考えがあるようだ。
サイエンは早く実験を次の段階に進めたいため、十蔵の申し出を断る理由は無いのだが・・・・・・
「それはありがたいが、今までのわしの実験にあまり乗り気じゃなかったのに、どういう風の吹き回しだ?」
「別に、俺の心境に何か変化があったわけじゃない。俺は俺の願いを叶えるために行動する。それだけだ」
そう言った十蔵の目は、サイエンが今まで見た中で一番鋭く覚悟のある目だった。
それは研究の完成のために自身の研究者としてのプライドをも捨てたサイエンと通じるような、そんな目だった。
そんな十蔵にサイエンは好感を持てた。
「お前のそういうところ、嫌いじゃないぞ」
「気持ち悪いこと言うな」
眉をひそめて心底嫌そうに言う十蔵に、サイエンは「はっはっはっは!」と大きく笑って見せた。
「ならここは一つ。お前に任せてみようではないか」
そう言ってサイエンは十蔵に手持ちの増幅薬のうちの三本を差し出す。
サイエンと十蔵、それぞれが胸の内に絶望と覚悟と叶えたい願いを抱いて早朝の森の中へと歩き出した。
第2章22話「実験の第二段階」を読んでくださり、ありがとうございます。
今回は天才忍者と老研究者の異色のバディの誕生を予感させる回となりました。今後の2人の動向にもご注目ください。
次回もぜひ読んでみてください!




