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精霊使いと賢者の遺産  作者: 夜空琉星
第2章 雷狼と風の忍び
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第2章 21話 悪い報せ

 眠っているシャルロットと雷亜(らいあ)を起こし、宙翔(ひろと)たちは一花(いちか)に連れられて里の中央にある里長の屋敷に向かった。

 里長の屋敷に到着すると、一花を先頭に迷路のような廊下を抜け里長(さとおさ)()に入る。

 そこには里長である善蔵(ぜんぞう)や十人の班長たち、そして半蔵(はんぞう)の姿があった。


 「空閑(くが)殿、疲れているところ申し訳ないな」


 部屋の最奥(さいおう)に座っていた善蔵は眉を()()にして、申し訳なさそうな表情で宙翔たちに座るように促す。

 宙翔たちは入り口のほど近いところに横並びになって腰を下ろした。


 「昨日の一件について前後関係も含めて、より詳しい話を聞きたくてな。早速で悪いが半蔵たちと出会ってから森で魔獣化した精霊雷亜と戦ったところまで、君の口から話してくれるかな?」


 宙翔は昨日あった出来事を、凌也との立ち合いや半蔵との稽古の話は省き、魔獣に関係している内容に絞り時系列に沿って説明する。

 森の中を歩いてる時に魔獣に追われている半蔵たちに遭遇したこと。その時に雷亜と出会ったこと。

 その後、霊脈泉を探している雷亜とは別行動になり、怪我をした半蔵と一花と共に風間の里に向かったこと。

 そして魔獣と戦っていた忍びたちの救援と魔獣討伐作戦に参加し、そこで魔獣が雷亜であることに気づいたこと。

 雷亜を魔獣から元に戻すために戦ったこと。


 宙翔が一通り話し終わると、善蔵は落ち着いた様子で一つ頷いた。


 「そうか、わかった」


 実は宙翔の話は、(おおむ)ね半蔵や他の班長たちからの報告通りの話であったし、善蔵もそうなることはわかっていた。

 ならば、なぜ善蔵は宙翔に話を振ったのか。

 ちゃんと事実確認をするためというのもあるが、それとは別に本来の目的がある。

 それは本命の話を聞くための流れを作ることである。


 「それで精霊雷亜よ。お前はなぜ魔獣になったのだ? お前が空閑殿たちと別行動を取ってから魔獣化するまでの時間があまりにも早すぎる。それほどまでに大規模な霊脈泉(れいみゃくせん)だったのか? その場所は?」

 

 本命の話とは雷亜のこと。もっと言えば未知の霊脈泉の所在だ。

 半蔵の報告と宙翔の話から、雷亜が彼らと別れてから魔獣化するまでの時間は半日と経っていない。

 上位精霊である雷亜が、自らの許容量を超えて魔獣化してしまうほどの霊力を取り込んだにしてはあまりにも時間が短すぎる。


 今現在、古都国内で確認されている霊脈泉は、どれも上位精霊を半日足らずで魔獣化できるほどの規模ではない。

 それができるのは、世界にたった数カ所しか存在しない規格外の大規模な霊脈泉である《大霊脈泉(だいれいみゃくせん)》くらいだ。

 もし大霊脈泉に相当する規模の霊脈泉が新たに出現したとなると、周辺地域の生態系も急激に変化する恐れがある。


 だから早くその所在を知りたい。


 善蔵は、はやる気持ちが抑えきれず(まく)し立てるように問いかけるが、対する雷亜はプイッとそっぽを向いてしまった。


 「(あね)さんにならともかく、なんでお前らなんかに事細かく教えてやらなきゃいけないんだ」


 そんな雷亜の態度を見て善蔵は思わず唖然(あぜん)としてしまう。

 それは周りにいた班長たちも同様だった。

 そんな雷亜の態度に俊也(としや)苛立(いらだ)ちを募らせ立ちあがろうとするが、善蔵の無言の視線に制される。

 そんな中、穏やかな表情で雷亜に問いかけたのは炎姫(えんき)だった。


 「雷亜、今ここで話してくれぬか?」


 「でも・・・・・・」


 雷亜がまるで小さな子どもが言い訳する時のような表情を見せるものだから、炎姫は首を横に振って雷亜の続く言葉を遮る。

 そして炎姫は、ちらと善蔵たちの方に視線を向けた。


 「(わらわ)たちとこの者たちは協力関係にある。じゃから情報を共有しておきたいのじゃ。それにおぬしが悪いわけでは無いが、風間の里の方にも少なくない被害が出ておる。おぬしには説明する義務があるのじゃよ」


 炎姫は再び雷亜の方に視線を戻すと、母親が子どもにするのと同じように優しい表情で諭した。

 それでも雷亜が反論しようとした時、炎姫の背中越しに眉を八の字にして困ったような心配するような表情を見せる宙翔と目が合った。

 昨晩の夢の内容を思い出して急に恥ずかしさが込み上げた雷亜は顔を真っ赤にすると、ものすごい勢いで宙翔の方から顔をそむけた。


 「わ、わかりました。姐さんがそこまで言うのなら話します」


 若干声がうわずっているような気もするが、炎姫の言葉で納得した雷亜は宙翔たちと別行動をとった後のことを話し始めた。


 「なんと・・・・・・」


 雷亜の口から語られたのは、善蔵を始めとしたこの場にいる全員にとって全く予想だにしない内容だった。

 それは黒ローブを身に纏った怪しげな二人組が精霊に薬物を注入して魔獣化させている現場に遭遇し、自分もその被害にあったというものだったのだ。


 「里長! もしこの精霊が言っていることが本当なら・・・・・・」


 「ああ。ここ最近の魔獣騒動は何者かの手によって人為的に引き起こされていることになる」


 善蔵は(とおる)の言葉に頷くと、透の言葉を引き継いだ。

 誰が何のためにそんなことをしているかはわからないが、それは許されざる行いであり、今すぐその犯人を突き止めて精霊の魔獣化をやめさせる必要がある。


 「その黒服の男二人組の特徴は?」


 「あたしからすると、人間なんてどいつもこいつも同じ顔に見えるからな〜」


 虎助(こすけ)が問いかけると雷亜は首を傾げてしばらく考え込み、黒ローブの男たちの特徴を思い出そうとする。


 「一人は白髪の歳をとった人間で、もう一人は黒髪の若い人間だったな」


 「大雑把(おおざっぱ)だな〜 他になんか無いのか?」


 剛介(ごうすけ)の言葉に、雷亜は黒ローブの男たちに遭遇した時のことをより鮮明に思い出そうとする。


 「んなこと言われても、人間の顔の違いなんてあたしには・・・・・・あ!」


 「どうした?」


 「そー言えば若い方の人間は、お前たちに顔が似てたな」


 雷亜はそう言って善蔵と半蔵を順に指さした。


 「!?」


 それを見た瞬間、その場にいた忍びたちに衝撃が走る。

 善蔵は大きく目を見開き、半蔵の顔からは血の気が引いて青ざめている。

 特に驚いていたのは、というよりも取り乱していたのは紅葉(くれは)だった。

 紅葉は血相を変えて雷亜の元に詰め寄ると、肩を勢いよく掴んで激しく前後に揺さぶる。


 「そいつは精霊使いだったのか!? 見た目以外の特徴は? そいつは今どこにいる?」


 早口で語気を強めながら問い詰める紅葉に、雷亜は完全に気圧(けお)されていた。

 そんな紅葉を落ち着かせるべく、いち早く動いたのは隼人(はやと)亮太(りょうた)だった。


 「紅葉さん!」


 「紅葉! 落ち着けって!」


 隼人と亮太が雷亜から紅葉を強引に引き離し暴れないように羽交締(はがいじ)めにするが、それでも紅葉が落ち着く様子はない。


 「亮太、隼人、離せ! やっとあいつの手がかりが見つかったんだぞ! 同じ班だったあたしたちが連れ戻さなくてどうする!!」


 「気持ちはわかるが、そんな剣幕で問い詰めたら答えられるもの答えられないだろうが!」


 亮太にそこまで言われて、紅葉はようやく幾分か落ち着きを取り戻した。

 紅葉が落ち着きを取り戻したのを確認すると、二人は紅葉から手を離した。

 そして隼人は紅葉に圧倒された様子の雷亜の元に歩み寄る。


 「びっくりさせて悪かった。それでその黒ローブの男たちのことを詳しく話してくれるか?」


 紅葉たちの一連のやり取りに少々面食らっていた雷亜だったが、隼人に問われて我に返る。


 「あたしも、魔獣にされて余裕がなかったんだ。今話した以上のことはわからないぞ」


 幾分(いくぶん)かいつもの調子を取り戻した口調であったが、さすがに紅葉の様子が気になるようで横目でちらちらと紅葉の方を見ながら答えていた。

 そして(とう)の紅葉はというと雷亜の発言で特に取り乱すようなことはなかったが、その表情は切迫したものだった。


 「そうか、わかった」


 そう言って隼人と亮太と紅葉が自分が座っていた位置に戻ろうとした時、里長の間の(ふすま)が勢いよく開け放たれた。


 「報告します!」


 「なんだ!? 今は大事な話の途中だぞ!」


 他の忍びたちに会議中は不用意に入室しないように通達していたため、義輝(よしてる)が里長の間に入ってきた忍びをたしなめる。


 「申し訳ありません! ですが緊急事態なんです!」


 だが息が上がって肩が大きく上下し、切迫した表情の忍びを見た善蔵や班長たちは、すぐに只事(ただごと)ではないと察して表情を引き締めた。

 場の空気がピンと張り詰める。


 「何があった?」


 「里の南、東、西の三方向から複数体の魔獣が襲来。防壁が破られ、現在里の内部で魔獣と交戦しています!!」


 往々(おうおう)にして悪い出来事というのは重なるもので、全く予期していなかった事態に再びこの場にいる者たちに衝撃が走った。

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