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精霊使いと賢者の遺産  作者: 夜空琉星
第2章 雷狼と風の忍び
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第2章 16話 二人でなら

 みなさん、お久しぶりです。

 一ヶ月ぶりの更新となりました。


 前回の精霊使いと賢者の遺産は・・・・・・


 魔獣化した雷亜を元に戻すべく戦う宙翔だったが、雷亜に攻撃をしようとする度に身に覚えのない記憶がちらついていた。

 それは雷亜との大切な思い出が詰まった炎姫の記憶だった。

 炎姫の記憶見たことと、自分の攻撃に殺気が乗ってしまったらという恐怖心から雷亜を斬ることに躊躇いが生まれる宙翔。

 しかし炎姫との対話を通して、過去の後悔と心強い仲間である炎姫の存在、そして戦う理由を再認識する。

 「絶対に雷亜を助ける!」

 強い決意を胸に、ついに宙翔の精霊使いとしての本気の実力が・・・・・・という内容でした。


 ということで本編をどうぞ!

 「空閑(くが)さん!」


 宙翔(ひろと)雷亜(らいあ)の攻撃を受けて地面に倒れ伏したのを見て、半蔵(はんぞう)は宙翔の身を案じて声を上げる。


 「隼人(はやと)さん! これ以上は!」


 これ以上は宙翔の体がもたないと思った半蔵が、宙翔の元へ駆けつけるために両手に持った二本の鎌の霊具を握りしめ駆けだそうとした時だった。


 「待て!」


 それを隼人が左手を大きく広げて止める。


 「どうして!」


 半蔵が隼人に向かって抗議しようとした時、隼人の視線がとある場所に向かってくぎ付けになっているのに気が付いた。

 半蔵がその視線を追いかけると、宙翔がゆっくりと立ち上がったところだった。

 この距離からでも宙翔が目をつむっているのがわかる。

 そして宙翔が何かを呟いて目を開いた瞬間、半蔵たちはまるで空気が重量を増して全身を押しつぶそうとするような感覚に襲われ、息をするのも忘れそうになる。

 数秒後、半蔵はようやく絞り出すように声を出す。


 「雰囲気が・・・・・・変わった!?」


 半蔵たちが空気が重くなったように感じ息をするのも忘れそうになった原因は、宙翔の雰囲気が変わったから。もっと言えば宙翔の放つ強烈な威圧感やプレッシャーに飲まれそうになったからだ。

 今朝イノシシ型の魔獣と戦っていた時や凌也との立ち合いの時、半蔵と稽古をしていた時、そして先ほど雷亜と対峙していた時とは雰囲気がまるで違う。


 今まで戦っている宙翔を見ても、戦闘時特有の圧迫感や威圧感、緊張感を全くと言っていいほど感じなかった。

 しかし、今宙翔から放たれるプレッシャーは相対していない半蔵たちも息が詰まり、すくんで身動きができなってしまうほどの濃密で重たいものだった。

 理性を失った雷亜でさえ、ただ事ではないと感じ動きを止めるほどだ。


 「これは殺気?」


 半蔵はそう言って、なぜだがわからないが殺気という言葉は適切でないと感じた。

 その理由はすぐに隼人から告げられる。


 「あれは殺気じゃなくて、闘気だ」


 闘気という言葉を聞いて、半蔵はすぐに納得がいった。

 なぜなら宙翔から発せられるプレッシャーは確かに息が詰まるほどの重圧を感じるのだが、それにさらされても命の危機を感じないからだ。

 殺気とは文字通り人を殺そうとする気配であり、それを感じると命の危機を感じる。

 だが宙翔からはそれを感じない。

 それもそのはず。宙翔が発しているのは、単純な戦うための気力だからだ。


 そして宙翔は刀を構えるのだが、それも今までにない構え方だった。

 宙翔は今まで両手に持った刀を中段に構える、いわゆる正眼(せいがん)の構えをとっていた。

 刀の構え方では、攻守のバランスが取れた最も基本的な構え方と言える。

 しかし今の宙翔は刀を上段に構えていた。

 上段の構えは防御にはあまり向いていないが最も刀のリーチを生かすことができ、斬り下ろしの攻撃に関しては最速の行動が可能になる構え方だ。

 それはつまり今まで以上に攻撃的な構えになったということ。


 そして上段に刀を構えた宙翔から膨大な量の霊力が溢れ出し、それに伴い刀から噴き出す炎の勢いも激しさを増す。

 刀から噴き出す炎の激しさは凌也との立ち合いで発動した精霊術《陽炎(かげろう)》に匹敵するほどだが、宙翔の体から溢れ出している霊力はその時の比ではない。


 そんな宙翔の姿を目の当たりにした忍びたちは、驚きで呆然としてしまう。

 それは自分たちがどんなに力を振り絞って霊力を捻出しても、宙翔の霊力出力量には遠く及ばないからだ。

 仮に自分たちが宙翔と同程度の霊力を出力しようとすれば、すぐさま保有する霊力量が底をついて戦闘不能になってしまい回復するのに何時間、いや何日かかるかわからない。


 「なんだ、あの光は?」


 そんな状態の宙翔を見た誰かがポツリと呟く。

 その言葉に釣られて半蔵と隼人が宙翔の周りをよく見ると、宙翔の周囲に淡い小さな光の粒がたくさん集まってきていた。


 「あれは微精霊?」


 半蔵が小さな光の正体に気がついたとき、微精霊たちが宙翔に近づくにつれてその輝きを増していく。


 「微精霊が活性化している」

 

 隼人がその言葉を発した時、半蔵はハッとした。

 点と点が線で繋がるような感覚を感じたのだ。

 宙翔の膨大な霊力量。

 神性を分け与えられた上位精霊と契約し、精霊使いとなって数日しか経っていないのに霊具と精霊術を完璧に使いこなしてしまうほど、精霊との親和性と精霊使いとしての適性の高さを持っている。

 そして体から溢れ出す霊力に反応して、活性化する微精霊。

 そんな宙翔の状態をあらわす言葉を半蔵は知っている。いや、精霊使いならば誰もが知っている言葉だ。


 「空閑さんは精霊の加護を持っている」

 

 半蔵の呟きを聞いて隼人は驚くが、やはりと納得できた。

 精霊の加護を持っているのなら、宙翔が精霊使いとしてS級相当の実力を持っているのも頷けるからだ。

 なぜなら今いるS級精霊使いは、全員が精霊の加護を持っているから。

 ということは・・・・・・


 「ついに見られるわけか・・・・・・」


 「何をです?」


 半蔵に問われた隼人は、やや緊張した面持ちで答えた。


 「彼の本気だよ」


 その言葉の直後、宙翔は地を蹴り一気に雷亜との間合いを詰めると上段から刀を振り下ろした。

 その斬撃は今まで見たどんな宙翔の攻撃よりも鋭く速く、そして力強い。

 雷亜は宙翔の闘気にあてられ体が硬直してしまい、僅かに反応が遅れる。

 回避が間に合わないと直感した雷亜は、足元に霊力を瞬時に集約させる。

 そして集約させた霊力を一気に開放したことによる爆発力を利用して、後ろに飛ぶようにその場から緊急離脱を(はか)る。

 雷亜の咄嗟の回避行動によって宙翔の刀は(くう)を斬り、攻撃は回避された。


 はずだった。


 しかし雷亜が爆発力によって後ろに飛んだ瞬間に宙翔はさらに刀に霊力を込め、噴き出す炎の勢いを急激に増大させる。

 それによって刀による攻撃範囲が一時的に拡張し、斬撃は届かなかったものの噴き出す炎が雷亜の体を焼いた。


 雷亜は炎によるダメージに顔を歪めたものの戦意は衰えることなく、着地後に激しく体を帯電させると宙翔に向かって右前足を振り下ろし鉤爪による攻撃を仕掛けてくる。

 雷亜の鉤爪による斬撃を宙翔は再び刀の側面を使って左上へと擦り上げるようにして完璧に受け流し、手首を返して左上から右下に向かって刀を振り抜く。

 もはや雷亜を攻撃することへの躊躇やためらいはなく、炎が噴き出す刀で雷亜を焼き斬る。

 雷亜は苦痛に顔を歪めるが、沸き上がる怒りや憎悪がそれを塗りつぶす。

 宙翔の斬撃などお構いなしと言わんばかりに、唸り声をあげながら左前足の鉤爪で横()ぎに切り裂こうとする。

 最高クラスの敏捷性を誇る雷亜の二撃目だ。宙翔は反応できずに攻撃を受けると、この場にいる誰もが思った。

 その時だ。


 「爆ぜろ」


 宙翔が短く言い放ったその瞬間、雷亜の体が爆発した。

 その爆発による衝撃で雷亜は左足の鉤爪による横薙ぎを封じられてしまう。


 忍びたちはなぜ突然雷亜の体が爆発したのかと驚いていたが、半蔵はその理由を宙翔との稽古で身をもって知っていた。

 宙翔は炎姫(えんき)の精霊術《裂焔傷(れつえんしょう)(ばく)》を発動して、先ほど斬りつけた場所を爆発させたのだ。

 本気を出した宙翔が今まで以上に速く力強い攻撃をしたとしても、最高クラスの敏捷性を誇る雷亜のスピードにはまだ及ばない。雷亜の一撃目をしのいでも、宙翔が防御や回避をするよりも早く二撃目、三撃目が襲ってくる。

 そう考えた宙翔は《裂焔傷・爆》によって、雷亜の連撃を封じたのだ。


 そして体が爆発したことによって生まれる隙を狙って、宙翔は右上から刀を振り下ろし雷亜の胸元を斬り裂く。その直後に素早く手首を返して刀を跳ね上げる。

 跳ね上げた刀は左上へと抜けていき、一連の斬撃はV字の軌跡を描く。

 雷亜は苦痛の声を漏らすと、飛び上がるようにして宙翔から距離をとる。


 宙翔が更に追撃をしようと雷亜へ迫ろうとした時、雷亜が右前足を振り下ろす。

 すると、その鋭い鉤爪の軌跡をなぞるようにして雷の斬撃が宙翔に向かって飛来する。

 宙翔はその飛来する斬撃を右方向に転がりながら回避する。

 雷亜は回避した宙翔を追いかけるように左前足を振るって斬撃を飛ばす。

 宙翔は二回目に飛んでくる斬撃も危なげなく回避すると、雷亜に向かって走り出す。

 雷亜が続けて右、左と斬撃を飛ばすが、宙翔は走りながら体を僅かに捻り最小限の動きで回避して減速することなく雷亜へと迫っていく。

 そして宙翔が刀の間合いまで雷亜へと迫った時、頭上からバチバチッと音が聞こえ目の前の地面がかすかに光に照らされているように感じた。


 (主様(あるじさま)、上から来る! 避けるのじゃ!)


 宙翔がその照らされた場所に踏み込みそうになるのとほぼ同時に、脳内で炎姫の警告の声が聞こえてくる。

 直後、頭上から雷が落ちてくる。

 先ほどのバチバチッという音と地面がかすかに光に照らされたのは、雷亜による落雷攻撃の前兆だったのだ。

 宙翔は体勢を崩しつつも、炎姫の声掛けのおかげで何とか回避が間に合った。

 その後も続けて数回落雷が宙翔を襲うが、バックステップで回避する。

 宙翔は落雷を受けることなく回避し続けることができたのだが、気がつくといつのまにか間合いを詰める前の地点まで戻ってきてしまっていた。


 その後も宙翔は雷亜との距離を詰めようとするのだが、飛来する雷の斬撃を警戒すれば落雷への注意が(おろそ)かになり、逆に落雷を警戒すると飛来する斬撃への回避が間に合わなくなりそうになってしまう。

 雷亜の飛んでくる雷の斬撃と落雷という二種類の中距離精霊術に行く手を阻まれて、なかなか前に進めずにいた。


 (こんなのが続いたら攻撃できない・・・・・・)


 宙翔は思わず心の中で歯嚙(はが)みする。


 『雷亜の精霊術に関しては(わらわ)に任せるのじゃ』


 早く雷亜を元に戻さなくてはと焦りの色が強くなりかけたところで、宙翔の脳内に炎姫の幼く可愛らしい、しかしとても頼りになる声が聞こえてくる。


 『雷亜との長い付き合いの中で、あやつの精霊術に関してはだいたい心得ておる。それに精霊である妾の方が精霊術の発動の兆候(ちょうこう)をつかみやすいからのう。じゃから主様は前に進むことだけを考えるじゃ』


 (わかった!)


 一人では困難だと思えることでも、二人でならできるはずだ。

 宙翔は強くうなずくと、雷亜に向かって走り出す。

 雷亜は宙翔を近づけさせまいと左右の前足を振るって斬撃を飛ばす。

 宙翔は迫りくる斬撃を走りながら回避しようとするが、それとほぼ同時に頭上からバチバチッという音が聞こえてくる。

 このままでは飛んでくる斬撃を回避できたとしても、雷が落ちる場所の把握が間に合わず攻撃を受けるだろう。


 『主様!』


 しかしそうはならない。


 『回避した先、雷が続けて三回落ちてくるぞ!』


 炎姫の声と共に雷が落ちてくるであろう場所が、明確なイメージとなって宙翔の脳内に流れてくる。

 宙翔は飛んでくる斬撃を回避した後、そのイメージに従って軽やかに雷が落ちてくる場所を避けて雷亜へと距離を詰めていく。

 雷亜は続けざまに絶え間なく雷の斬撃を飛ばしたり落雷を繰り出したりするのだが、宙翔は後退するどころか走る速度を落とすことなく次々と攻撃を回避して雷亜へと迫る。


 「あいつ、頭の上に目でも付いてるのか!?」


 その様子を見ていた一人の忍びが叫び声に近い驚愕の声を上げる。

 実際は炎姫のアシストを受けて雷亜の攻撃を回避しているのだが、他の人には炎姫と宙翔のやり取りは知る由もないので、はたから見ると宙翔が超反応で回避しているように見えるのだ。



 隼人も宙翔の一連の戦いぶりを見て思わず驚きの声を上げた。

 

「体内霊脈の回転効率の良さが尋常じゃない!」


 体内霊脈。


 地属性の神格精霊を起点に地中に張り巡らされた霊力の通り道である霊脈と同じように、人間にも霊力の通り道が存在する。

 体の中心から全身へと向かって流れる霊力の通り道は体内霊脈と呼ばれ、体内霊脈を流れる霊力の速さが早ければ早いほど精霊使いとして戦うときにより速くより俊敏に動くことができ、精霊術の発動スピードも速くなる。

 その状態のことを精霊使いたちは体内霊脈の回転効率が良いと表現しているのだ。

 そして宙翔の戦いぶりは、風間の里でえり抜きの忍びがなることができる班長でありA級精霊使いでもある隼人に尋常じゃないと言わしめるほど凄まじいものだった。


 そうこうしているうちに、宙翔はあっという間に雷亜の眼前まで接近していた。

 ここまで接近されては斬撃を飛ばしても意味がないため、雷亜は鉤爪で直接攻撃しようと右前足を右から左へと薙ぐ。

 宙翔はそれを雷亜の頭上へとジャンプして回避する。

 宙翔は順手で持った刀を逆手に持ち替え雷亜へ落下の勢いを利用した回転斬りを仕掛けようとする。

 だがその時、宙翔の真上から先ほどから幾度と聞いたバチバチッという音が聞こえる。


 『まさか!』


 宙翔も雷亜の落雷攻撃の発動の兆候を感じ取り、炎姫と同じ思いを抱く。

 自分を巻き添えに攻撃をしないだろうと思って宙翔は雷亜の頭上へと回避したというのに、その考えは完全に外れたことになる。

 しかも空中では宙翔も回避のしようがない。

 こうなっては選択肢はひとつしかない。


 (炎姫、雷が落ちるタイミングを!)


 『心得た!』


 宙翔は歯を食いしばり、強引に体を捻る。それと同時に左手に霊力を集約させる。


 『来るぞ!』


 炎姫が言うのと同時に上空から宙翔をめがけて雷が落ちてくる。

 宙翔は精霊術《狐炎球(こえんきゅう)》を発動し、迫る落雷に向かって左手から火球を放つ。

 咄嗟(とっさ)の宙翔の判断で落雷は《狐炎球》によって相殺される。


 しかしそれすらも雷亜は想定済みだったのだろうか。


 完全に獣の顔になってしまっているので正確にはわからないが、しかし宙翔には雷亜が獰猛な笑みを浮かべているように見えた。

 落雷を対処したことによって空中で無防備になった宙翔に向かって雷亜は口を大きく開け、鋭い牙が並ぶその顎で嚙み砕こうとしていた。

 おそらく野生の勘の類であるのだろうが、宙翔は雷亜によってこの状況に誘導されてしまった。

 しかし、ここで終わらせない。絶対に雷亜を元に戻すのだ。


 「爆ぜろ!」


 宙翔が短く鋭く叫ぶと、《裂焔傷・爆》が発動して雷亜の胸元にV字の刀傷が浮かび上がり爆発した。

 それにより雷亜は宙翔に噛みつく前に口を閉じ、ノックバックする。

 宙翔は雷亜がノックバックして生まれた一瞬の硬直の間に着地、右足を軸にして回転し雷亜の腹部を横一文字に斬り裂く。

 雷亜の顔は苦悶に歪み苦痛の声を上げる。


 それでも雷亜は(おく)することなくすぐさま反撃しようとする。

 しかし再び《裂焔傷・爆》が発動、先ほど横一文字に切り裂いたところが爆発して雷亜の反撃は阻止される。

 その間に宙翔は刀を順手に持ち直すと、一回、二回と刀を振るい雷亜に斬撃を浴びせる。

 雷亜が斬撃によるダメージをこらえて反撃しようとしたり回避しようとしたりするそぶりを少しでも見せたら、すぐさま《裂焔傷・爆》を発動させる。

 そうやって雷亜に攻撃も回避もさせる隙を与えず、絶え間なくダメージを与えていく。


 幾度となく炎が噴き出す刀が閃き次々と斬撃を与えた場所が爆発する様は、例えるなら夜空に咲き乱れる花火のよう。

 この絶え間なく続く怒涛(どとう)の攻撃から、宙翔がこの連続攻撃で雷亜の体力を削りきろうとしていることがわかる。


 (ここで終わらせる!!)


 宙翔の斬撃の速度がどんどん上がり、《裂焔傷・爆》による爆発も激しさを増していく。

 一方で宙翔の攻撃が激しさを増すのに呼応するように、雷亜の霊力がどんどんと溢れ出し体に帯電する雷は激しさを増して火花を散らす。

 しかしここまでの連撃を与えれば、帯電状態が激しくなって移動速度が増しても逃げられないだろうと思い宙翔は構わず攻撃を続ける。


 (もっと、もっとだ!!)


 連撃を重ねるほどに攻撃のギアが上がり思考も白熱していく。

 まさに息もつかせぬ連続攻撃で雷亜の体力をどんどん削っていく。だがそれと反比例するかのように雷亜の帯電状態は激しさを増していくばかりだ。


 その状況に炎姫は、ふと違和感を感じた。

 最初は炎姫も宙翔と同様に、雷亜は激しい雷を纏うことで移動速度を上げてこの連撃から逃れようとしているのだと思っていたのだが、途中から逃げようとするそぶりが見受けられなくなっているのだ。

 単に宙翔の連撃に圧倒されているだけかもしれない。だが、何か嫌な予感がした。

 そうこうしているうちに雷亜の霊力出力量と帯電状態が最高潮に達しようとしていた。


 その時、炎姫は雷亜がこの状態になった時に発動できる精霊術があることを思い出した。

 しかもそれが発動して直撃したら宙翔でも無事では済まないほどの威力であることも。


 『主様、すぐに雷亜から離れるのじゃ!』


 宙翔が炎姫の切迫した声を聞いて雷亜から離れようとした時、ついに雷亜の霊力出力量と帯電状態が最高潮に達する。

 その直後。


 「ワオオオォォォォン!!!」


 大気をも揺るがす咆哮(ほうこう)と共に雷亜は帯電させていた雷を一気に開放し、大規模な放電を起こした。

 雷亜を起点として爆発的な衝撃波と共に四方八方へと雷が走る。


 放電が収まると、地面に生えた草は雷によって焼かれて真っ黒になり、周囲の木々も裂けるように折れていたり、なかには燃えたりしているものもあった。

 俯瞰(ふかん)してみると雷亜を中心として円形の焦土と化していたのだ。それほど雷亜の放電が凄まじい威力であったことがわかる。

 そして宙翔はというと、雷亜の放電の範囲外ギリギリだと思われる焦土とそうじゃない場所の境目に立っていた。

 立っている位置的に回避が間に合ったのだろうか。


 しかし数秒後、わずかに宙翔の体に電気が走り、その後片膝をついてしまう。

 どうやら完全には回避しきれなかったようだ。


 (炎姫がいなかったら、この程度じゃすまなかったかも・・・・・・)


 宙翔は雷亜の大規模放電によるダメージで僅かに頬を引きつらせながらも、炎姫に感謝の気持ちを抱く。

 実際のところ炎姫がいなければ完全に回避が間に合わず、放電によって丸焦げになっていたところだった。


 宙翔が雷亜の方へと視線を向けると、流石にあれほど大規模な精霊術を行使した影響なのか帯電状態は完全に解除され、かなりぐったりした様子だった。

 表情も先ほどまでと比べると幾分か落ち着いてるようにも見える。


 しかしふと目が合い、雷亜の瞳に片膝はついているものの無事な様子である宙翔の姿が映ると、再びその瞳に怒りや憎しみが宿り鋭い歯をむき出しにして唸り声を上げ始めた。

 そしてそれが合図であるかのように、再び雷亜の体から霊力が溢れ出し霊力出力量が上昇していく。

 雷亜の衰えることのない闘争心と霊力に宙翔が驚き半ば呆然としていると、脳内に炎姫の切迫した声が響き渡る。


 『主様、まずいぞ! 雷亜は先ほどの精霊術で体も魂も限界に近い。それなのにこれ以上霊力出力量が上がれば、魔獣から元に戻す前に体と魂が耐え切れず崩壊してしまうのじゃ!』


 雷亜から告げられる衝撃の事実に、宙翔は目を見開き愕然(がくぜん)とする。


 『もはや時間の猶予(ゆうよ)はない。ここで一気に決めるのじゃ!』


 (わかった!)


 宙翔は刀を地面に突き立て、それを支えに立ち上がる。

 そして一歩、二歩、三歩と後ろに下がると左腰の鞘に刀を納刀し、腰を落として刀の柄に手を添える。

 すると炎姫の最大火力を発揮する精霊術《業火刹滅斬(ごうかせつめつざん)》の発動準備状態となり、刀から常時放出されている炎が鞘内で蓄積・圧縮されていく。

 雷亜の方もここで決着をつけるつもりのようで、火花を散らすほどの激しい帯電状態となると地面を力強く蹴り宙翔へと迫る。


 《業火刹滅斬》が十分(じゅうぶん)な威力を得るためには炎の蓄積・圧縮に五秒間ほど時間を要するのだが、帯電状態となり移動速度が増している雷亜に対してはあまりに時間がかかり過ぎる。

 宙翔は迫りくる雷亜に向かって《裂焔傷・爆》を発動する。

 雷亜の体が数回爆発するのだが、僅かに走る速度が落ちたものの《裂焔傷・爆》による爆発に慣れてしまったのか、もう動きが止まる気配はない。

 しかも《裂焔傷・爆》は一度の斬撃につき一回しか爆発を起こせないため、雷亜が宙翔との距離を三分の二にまで縮めた頃には爆発できる場所が無くなっていた。

 この時点で《業火刹滅斬》を発動できるまで残り三秒というところ。

 雷亜のスピード考えれば圧倒的に時間が足りない。

 しかし雷亜がとある場所を踏んだ瞬間、その場所を中心として雷亜の足元に円形の光が浮かび上がる。

 雷亜もその謎の円形の光に気が付いたが、雷亜が反応するよりも早く円内で大爆発が起こり、ドーム状になった灼熱の炎が雷亜の体を激しく焼いた。

 これはあらかじめ指定した地点を相手が踏むなどして触れると、その場所を中心としてドーム状の大爆発を引き起こす炎姫の設置型の精霊術《妖爆円陣(ようばくえんじん)》だ。

 ちなみ雷亜が踏んだとある場所とは宙翔が立ち上がる時に刀を突き立てた場所であり、その場所こそが宙翔が指定した《妖爆円陣》の設置場所なのだ。

 《妖爆円陣》による爆発は《裂焔傷・爆》の比ではない。

 さすがの雷亜も帯電状態が解除されて倒れそうになる。

 ここで残り一秒。

 しかしここで雷亜の目がカッと見開かれる。


 「ウオオオォォォォン!!」


 なんと、雷亜は倒れこみそうになる直前で踏みとどまり決死の咆哮を上げると、正真正銘最後の力を振りしぼり鉤爪による斬撃で宙翔を切り裂こうとする。

 だが雷亜が踏みとどまったのと同時に、宙翔の方も《業火刹滅斬》が発動可能状態となった。


 「はあああぁぁぁぁぁ!!」


 宙翔も()えながら鞘を握っていた左手の親指で刀の鍔を押し上げると、右手で刀の柄を握り抜き放つ。

 宙翔の裂ぱくの気合と共に抜き放たれた刀は業火の如き灼熱の炎を伴ってその刀身をあらわにし、雷亜の鉤爪が宙翔に届くよりも僅かに早く雷亜の体を水平に斬り裂いてその魂に強力な一撃を叩きこむ。

 燃え上がる業火が雷亜の体を包み込み、その場所に空高々と炎の柱がそびえ立つ。


 しばらくして炎の柱が消えると、そこには少女の姿をした雷亜が倒れていた。

 どうやら今の一撃が雷亜の体力と霊力を削りきり、無事に雷亜を魔獣から元に戻すことができたようだ。

 宙翔は霊装を解除すると急いで雷亜の元へと駆け寄り抱き寄せる。


 「雷亜!」


 呼びかけるが返事は無く、雷亜はぐったりとしていて動かない。

 宙翔は最悪の場合を考えてしまい体が強張る。


 「大丈夫、気を失っておるだけのようじゃ」


 「よかった~」


 隣から雷亜の顔を覗き込んだ炎姫の言葉を聞いて、宙翔は安心して全身から力が抜ける。

 そして抱きかかえた雷亜の顔を覗き込むと雷亜の顔に手をやって、乱れて顔にかかっていた髪をそっと払う。

 そこには戦いの最中、幾度となく炎姫の記憶の断片の中で見た雷亜の顔があった。

 その顔を見て雷亜を魔獣から元に戻すことができたのだと実感が湧いてくる。


 ほどなくして、離れた場所で戦いの行方を見守っていた半蔵たちが宙翔たちの元へと駆け寄ってきた。

 その中には紅葉(くれは)の姿もあり、森の中にいた十三人の負傷者たちも全員手当が終わって無事に里へと搬送されたことが伝えられた。

 こうして一人の死者を出すことなく、雷亜を魔獣から元の姿に戻すことができたのだった。

 第2章16話「二人でなら」を読んでくださり、ありがとうございました。


 今回ついに魔獣化した雷亜との戦いに決着がつきました。

 魔獣化した雷亜と宙翔の戦闘シーンは個人的に力を入れて書きたかった部分の一つだったのですが、文字数が多くなってしまい三話構成となってしまいました。

 結果的に決着がつくまで三ヶ月お待たせする形になってしまい、これでよかったのか今でも不安が残っています。

 ですがそのぶん読み応えのある戦闘描写ができたと思うので、みなさんに少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。


 次回の更新日時は、10月7日金曜日の21時ごろです。 


 次回もぜひ、読んでみてください。

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