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精霊使いと賢者の遺産  作者: 夜空琉星
第2章 雷狼と風の忍び
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第2章 14話 魔獣の元へ

 みなさん、お久しぶりです。

 一ヶ月ぶりの更新となりました。


 前回の精霊使いと賢者の遺産は・・・・・・


 里を出発し魔獣と戦闘があった場所へと辿り着いた宙翔たちは、現場の惨状に息を呑んだ。

 魔獣と戦っていた人数とその場にいる忍びの数が合っていないことに気がついた隼人が1人の忍びに声をかけると、数人の忍びたちが魔獣を森の奥へと誘導したことを知る。

 怪我人の治療を紅葉たちに任せた一行は森の奥へと向かい・・・・・・という内容でした。


 ということで本編をどうぞ!

 宙翔(ひろと)を含めた討伐組の面々は、森の奥にいると思われる魔獣の元へと急いでいた。


 十三人の負傷者がいた地点から走り続けること約十数分後。

 森の中を走る討伐組の者たちの耳に森の中特有の風の音や木の葉が擦れる音とは違う、別の種類の音が聞こえてくる。

 それは金属同士が激しくぶつかり合うような硬質な音や木々が折れる破砕音、地面に何かが強くぶつかるような衝撃音だった。

 それらの音が魔獣と戦っている音だということは間違いない。そしてその音は次第に大きく、はっきりと聞こえるようになってくる。


 「だいぶ近いな」


 先頭を走る隼人(はやと)の呟きに宙翔たちは頷き、間近(まぢか)に迫った魔獣との戦闘に備えてそれぞれが霊具(れいぐ)霊装(れいそう)顕現(けんげん)させる。

 そしてついに目的の場所に到着した一同は、目の前に広がる光景に驚き目を見開く。


 「!?」


 「おいおいマジか!」


 ここに来るまでに聞こえていた戦闘音からある程度予想していたが、密集している周囲の木々はいくつかが半ばからへし折られている。地面は所々にクレーターができ、なかにはまるで大きな獣が爪で切り裂いたかのような亀裂もあった。


 そして魔獣を負傷者たちから引き離すために森の奥へと誘導した七人の忍びのうち、二人は地面に倒れ伏せていた。見る限り出血量はそれほど多くないようだが、すぐに動ける状態でもなさそうだった。


 十三人の負傷者がいた場所と同様に、その場の光景が戦いの壮絶さを物語っている。


 そして魔獣と懸命に戦っている残り五人の忍びたちの額を伝う汗や切迫した表情と乱れた呼吸から、戦況はかなり不利であることが伝わってくる。

 そんな五人の忍びは、宙翔も一度は見たことがある顔ぶれだ。


 一人は先刻、宙翔と立ち合いをしていた凌也(りょうや)だった。

 他四人に関しては第五班班長の義輝(よしてる)と第六班の剛介(ごうすけ)、第七班班長の時風(ときかぜ)虎助(こすけ)と第八班班長の波風(なみかぜ)直樹(なおき)なのだが、実は宙翔は彼らの名前を知らない。

 しかしながら義輝と剛介は凌也との立ち合いの時に物見やぐらにいたのを見ていたので、宙翔も顔自体はよく覚えている。虎助と直樹については宙翔が最初に里長の間に訪れた時にその場にいたので、なんとなくではあるが見覚えがあった。


 そして五人が相対している魔獣。四足歩行で尻尾があり、全身は毛に覆われている。鼻や口、顎は顔から突き出しており、頭には三角形の耳が付いていた。瞳は血のように真っ赤で、口からは鋭い牙がのぞいている。その特徴は狼のそれと酷似していた。


 そのうえ全身に雷を纏い帯電した魔獣の毛は激しく逆立ち、その姿と放たれる強烈な怒気と威圧感は思わず後ずさりしたくなるほどだ。


 そんな魔獣に対して義輝は両手に装着した手甲(てっこう)の霊具からそれぞれ一本ずつ糸を射出する。魔獣の体に糸を巻き付け動きを封じるつもりのようだ。

 しかし一人では魔獣に力負けをしてしまい、魔獣が体を動かす勢いで義輝は前方に倒れこみそうになる。

 そこにすかさず直樹が駆けつけ、義輝の左手から伸びている糸を掴む。

 直樹のおかげで義輝はなんとか踏みとどまると、左手から伸びる糸を手元で切って直樹に渡す。

 そしてそれぞれが力いっぱい糸を引っ張り、二人がかりで魔獣の動きを止める。

 その隙に残りの三人が魔獣に攻撃をしていた。


 『噓じゃろ・・・・・・』


 そんな魔獣の姿と忍びたちの攻防を見て、炎姫(えんき)の泣きそうな震え声が宙翔の脳内に聞こえてくる。

 宙翔も同じ気持ちであったし信じたくなかったが、魔獣の外見的特徴と覚えのある気配が否応なく一人の上位精霊の姿を思い起こさせる。


 『あれは雷亜(らいあ)じゃ・・・・・・』


 炎姫が絞り出すようにその名前を発した途端、とある光景が宙翔の脳内に流れ込んでくる。


 周囲には木々が生い茂っているが今いる森とは違う場所のようで、特に戦闘の痕跡もないし木々の生え方や並び方も若干違うように感じる。しかも周りにある木々や生い茂った草木が、いつもよりも高く大きく見える。おそらくいつも宙翔が見ている目線よりも低い目線での光景なのだろう。

 見覚えのない場所のはずなのだが、不思議とどこか懐かしい感じがする。

 そして目の前には少女の姿の雷亜がいて、あの特徴的なニカッという笑みを浮かべてこちらを見つめている。


 『(あね)さん』


 雷亜が嬉しそうにその言葉を紡いだところで、その光景は霧のように儚く消えた。


 (この記憶は・・・・・・)


 「危ない!」


 瞬間的に見えた不思議で懐かしい記憶に宙翔が戸惑っていると、誰かの警告の声で我に返る。


 宙翔が身に覚えのない記憶を見ていた一瞬の間に魔獣化した雷亜は力づくで糸を引きちぎり、攻撃しようと目の前に迫ってきていた凌也に向かって鋭い鉤爪のついた右前足を振り下ろそうとしていた。


 それを見た瞬間、宙翔は瞬時に右足に霊力を集約させ地面を蹴りだすと同時に一気に開放。

 それによって爆発的な瞬発力を得た宙翔は、その姿が煙ってしまうほどの速度で凌也と雷亜の元へと突進して行く。

 そして雷亜の鉤爪が凌也の目と鼻の先まで迫ったところで、宙翔は凌也を抱きかかえて間一髪のところで攻撃を回避する。


 「大丈夫? 怪我はない?」


 「お前は!?」


 凌也は自分を助けた相手が宙翔だとわかると、顔をしかめて少し複雑そうな表情になる。

 しかし、すぐにハッとした表情に変わる。


 「それよりじいちゃんは!?」


 じいちゃんという言葉から凌也が身を案じる相手が義輝であると察した宙翔は、雷亜の後方に視線を向ける。

 義輝は雷亜の体に巻き付けていた糸が切れたことで直樹と共に後ろにあった木に強く背中を打ちつけたようだったが、半蔵と綾が駆けつけて介抱しているようだった。


 「風間(かざま)くんたちがついてくれてるみたい」


 「そうか・・・・・・」


 宙翔の言葉を聞いた凌也は、安心したようでホッと胸をなでおろした。

 そして雷亜の方を一瞥すると、痛みで顔をしかめつつも立ち上がろうとする。

 宙翔は手を貸そうと右手を伸ばすが、払いのけられてしまう。


 「お前の手を借りなくても・・・・・・っ!?」


 何とか立ち上がりかけた凌也だったが、不意に膝から力が抜けて倒れそうになってしまう。

 宙翔はすぐさま凌也のことを受け止める。


 「風上(かざかみ)さんが一緒に来てくれてるから、風谷(かぜたに)君はおじいさんと休んでて」


 宙翔が声をかけたのとほぼ同時に、隼人が凌也の元へと駆けつける。


 「凌也、大丈夫か?」


 「はい、なんとか・・・・・・」


 宙翔は受け止めていた凌也を隼人の方に預けると、隼人は凌也に肩を貸す。


 「風谷君をお願いします」


 「わかった。そのあいだ魔獣の相手を頼む」


 宙翔が頷くと、隼人は凌也を連れて半蔵たちがいる方へと向かった。

 隼人たちが離れていくのを見届けると、宙翔は雷亜の方へと向き直る。


 魔獣化した雷亜は血のように真っ赤になった瞳で宙翔のことを鋭く睨みつけ、鋭い歯をむき出しにして低く唸っている。その様は(まさ)しく威嚇(いかく)する獣だ。



 「雷亜! 俺だ、宙翔だ!」


 宙翔の声が聞こえないのか、はたまた理性を失い言葉を理解できなくなったのか、雷亜が威嚇を解く気配はない。


 「今朝君が助けてくれた、空閑(くが)宙翔だ」


 もう一度呼びかけてみるが、雷亜は低く唸り声をあげて威嚇するばかりだった。

 ならばと、宙翔は右手に握る霊具を雷亜に見えるように掲げる。


 「炎姫も一緒にいる」


 宙翔が言った炎姫という言葉に反応して、雷亜はカッと目を見開き咆哮を上げる。

 空気を揺るがすほどの咆哮に内包されているのは、怒りや憎しみといった負の感情。

 それが振動となり宙翔の鼓膜と魂を震わせる。 


 あまりの迫力に宙翔が一歩後ずさりした瞬間。


 雷亜の体から膨大な量の霊力が溢れ出す。それに呼応して雷亜の体に帯電する雷は激しさを増して火花を散らす。全身を覆う毛も先ほど以上に激しく逆立っていく。


 そして雷亜が地を蹴ると、雷亜の姿がブレたように見えた。すると地面が爆ぜ、閃光となった雷亜が瞬く間に宙翔の元へと迫る。

 宙翔の眼前へと迫ってきた雷亜は、魔獣と化した自身の鋭い鉤爪で宙翔を切り裂こうと右前足を振り下ろそうとしていた。

 宙翔は紙一重のところで雷亜の鉤爪と自分の体の間に刀を滑りこませ防御する。

 しかしスピードに乗った雷亜の攻撃の威力は凄まじく、宙翔の体は後方へと勢いよく吹き飛ばされる。

 そのとき刀と鉤爪がぶつかった部分から放電が起き、それによって周囲の木々は焦げ跡をつけながら裂けていった。

吹き飛ばされた宙翔は両足を大きく開き左手を地面に押しつけてブレーキをかけ、なんとか雷亜から十数メートル離れたところで止まる。

 雷を纏った攻撃を受けた影響なのか、刀を握っていた手がビリビリと痺れて小刻みに震えていた。


 「空閑さん助太刀(すけだち)します」


 宙翔が顔を上げると、木の上から半蔵や隼人をはじめとした忍びたちが飛び降りてくる。

 どうやら怪我人の治療を綾と数名の忍びに任せ、加勢するために木々を飛び移りながら宙翔の元へとやって来たようだ。


 「だめだ!!!」


 忍びたちが加勢するべく戦闘態勢に入ろうとしたのを見て、宙翔は焦った様子で待ったをかける。


 「空閑さん、なぜ!?」


 「この魔獣、雷亜なんだ」


 「ホントですか!?」


 宙翔の言葉を聞いて半蔵は目を見開き驚きの声を上げる。隼人たちも雷亜の存在については里長の間での半蔵の報告で知っているため、半蔵と比べると程度の差はあるがそれぞれが驚きの表情を見せた。


 「だから攻撃せずに、ここは俺に任せてくれないかな」


 「でも・・・・・・」


 半蔵は眉をひそめて困ったような顔をする。

 宙翔の強さは今まで何度かこの目で見ている。しかし先ほど魔獣化した雷亜の攻撃を受けて吹き飛ばされていたのも見ていた。

 いくら宙翔でも一人で戦うのは少々荷が重いのではないだろうか、というのが半蔵の本音だった。

 そんな半蔵と宙翔の様子を見た隼人は、二人の間に割って入る。


 「君に任せるとして、何か策はあるのか?」


 「それは・・・・・・」


 隼人の問いかけに今度は宙翔の方が困った表情になり、わずかに視線を逸らす。

 魔獣の討伐を目的としてここに来た彼らが雷亜と戦えば、たとえ刺し違えてでも雷亜を殺そうとするだろう。

 宙翔としては、どちらの被害も最小限に抑えたうえで雷亜を元の姿に戻したい。

 しかし具体的に何か考えや作戦があるかというと、何もないのが現状だ。


 (炎姫、何か雷亜を元に戻す方法はないの?)


 魔獣化した雷亜を見てから、ずっと元に戻す方法について考えていたのだろう。

 宙翔が焦った様子で炎姫に問いかけると、すぐに頭の中で答えが返ってくる。


 『雷亜と別れてからの時間から考えると、幸いにも魔獣化してからそれほど時間は経っておらぬ。それなら雷亜に体力と霊力を限界まで消費させ、消耗しきったところで魂に強力な一撃を与えられれば元に戻せるはずじゃ!』


 (わかった!)


 宙翔は頷くと逸らしていた視線を隼人の方に戻す。


 「もしかしたら雷亜を元に戻せるかもしれません」


 「本当か?」


 隼人が問うと、宙翔は真っ直ぐに隼人の方を見つめ力強く頷く。


 「はい! だから俺に任せてもらえませんか?」


 隼人はそこから宙翔の自信と決意の強さを感じた。

 それもそのはず。宙翔は炎姫のことを心から信じている。

 その炎姫が元に戻す方法を示してくれたのならそれを迷わず実行するのが自分の役目だと、宙翔は信じて疑っていないのだから。


 「わかった。けど危ないと思ったら躊躇(ちゅうちょ)しないから、そのつもりで」


 「わかりました」


 宙翔は再び頷くと、雷亜のいる方向へと走り出した。

 第2章14話「魔獣の元へ」を読んでくださり、ありがとうございます。


 今回は遂に宙翔と魔獣化した雷亜が相対することとなりました。

 魔獣化した雷亜との戦闘シーンはこの章に入って最も書きたかったエピソードなので、自分的にいつも以上に気合を入れて書きました。

 みなさんにも楽しんでもらえたらうれしいです!


 次回の更新日ですが、8月5日金曜日の21時ごろを予定しています。


 次回もぜひ読んでください。

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