第2章 10話 忍びの里のもてなしと精霊のあれこれ
みなさん、お久しぶりです。約一ヶ月ぶりの更新となりました。
前回の精霊使いと賢者の遺産は・・・・・・
宙翔と凌也が立ち会いをしていた頃、別行動していた雷亜は魔獣増加の原因を探るため森の中にいました。
すると怪しげな黒ローブを着た男二人組を発見。なんと彼らは精霊に薬を打ち込み魔獣化させていました。
しかも雷亜自身も捕まってしまい薬を打たれてしまって・・・・・・というお話しでした。
今回は雷亜が薬を打たれた直後、立ち会いを終えた宙翔たちへと場面が移ります。
それでは本編をどうぞ。
凌也との立ち合いを無事に勝利で収めた宙翔は、シャルロットと共に里長の屋敷の中に用意された客間の一つで体を休めていた。
ちなみに炎姫は、あぐらをかいて座っている宙翔の太ももの上に頭を乗せて寝ころんでいた。
「食事の準備ができました」
宙翔たちが声のする方に視線を移すと、襖が開き半蔵が姿を見せる。
襖が完全に開くと半蔵は台車から人数分の食事を取り出し、それぞれに配膳しようとしていた。
宙翔たちは長机を準備したり、一緒に食事を運んだりと半蔵を手伝う。
そして食事の準備が整うと宙翔の右隣りに炎姫が、そして宙翔の左隣にシャルロットが座る。
半蔵は宙翔の向かい側に腰を下ろした。
ちなみに宙翔の契約精霊となった炎姫は、契約者である宙翔からの霊力供給で存在を維持しているため生きるための食事を必要としない。
そのためこの場には宙翔、シャルロット、半蔵の三人分の食事が用意されていることになる。
「空閑さん、先ほどはすみませんでした。俺たちの問題に巻き込んでしまって」
半蔵に謝られ、宙翔は首を横に振る。
「いや、俺の方こそ。勝手に首を突っ込むようなことしてごめんね」
「いえ。空閑さんが悪いことなんて何一つないですよ」
半蔵も宙翔と同じように首を横に振った後、わずかにうつむいてしまう。浮かべる表情もなんだか暗いようだった。
「俺にもっと力があれば・・・・・・」
半蔵の囁くような小さな声を宙翔は聞き取ることができなかった。
「どうかした?」
宙翔が心配した様子で半蔵の顔を覗き込むが、半蔵は急いで顔をあげると勢いよく首を横に振る。
「いえ、なんでもないです。さあ、冷めないうちに食べてください」
先ほどの暗い顔とは一転、半蔵は笑顔を作り食事を食べるように勧める。
宙翔としては「なんでもない」と言われれば深く話を掘り下げることはできないので、少し心に引っかかりを覚えつつも箸を持ち食事をとることにする。
お膳の中に視線を向けると、そこには光に照らされ艶やかに光るご飯と、透き通るような綺麗な色のすまし汁。そして香ばしく焼き色のついた川魚と、山菜を使ったおひたしが並べられていた。
料理から立ち込める湯気や鼻腔をくすぐる匂いが食欲をそそる。
先ほど立ち合いをしていたこともあり、実はかなり空腹だった。
宙翔が「いただきます」と口にしようとした時、ふと左隣から視線を感じた。
そちらをチラと横目で見ると、自分の手元と宙翔の手元の間で視線を行ったり来たりさせているシャルロットの姿が目に入った。
その様子を見てふと何かに気が付いた宙翔は、近くに置いていた自分のカバンの中からあるものを取り出す。
そして取り出したものを半蔵に見せる。
「風間くん、ごめん。これ使ってもいいかな?」
「別に大丈夫ですが・・・・・・」
宙翔が取り出したのを見て、半蔵は了承したもののわずかに首をかしげる。
「ありがとう。シャル、もし食べにくいようだったらこれ使って」
宙翔はカバンから取り出したそれ、フォークとスプーンをシャルロットに差し出した。
「ありがとうございます、宙翔さん」
シャルロットは安心したような表情でそれを受け取る。
箸で食事をするというのは古都国独特の文化であるため、シャルロットは箸で食べるということに慣れていないのだ。
そのことに遅ればせながら気がついた半蔵は、配慮が足りなかったと反省した。
それと同時に細かいことにすぐ気がつき、フォローができる宙翔に感嘆に似た思いを抱いた。
そして宙翔からフォークとスプーンを受け取ったシャルロットは、丁寧にフォークで魚の身をほぐすと口に運ぶ。
モグモグと咀嚼しているシャルロットから笑みがこぼれていた。
宙翔はシャルロットがストレスなく食べている姿を見て安心すると、自分も焼き魚を口に運ぶ。
焼きたての魚は身がホクホクで柔らかく、塩加減もちょうどいい具合だ。
「ん! うまい!」
「ほんと、すごくおいしいです!」
宙翔とシャルロットは顔を見合わせながら感想を言い合う。
このちょうどいい塩加減ならご飯がいくらでも食べられそうだった。
「ありがとうございます。町の市場なんかにはあまり出回ってない山菜なんかも使ってるみたいなんで、遠慮せずにどうぞ」
半蔵に促され、宙翔たちは目の前に並べられた料理を食べ進める。
山菜を使ったおひたしはシャキシャキとした歯ごたえが楽しく、すまし汁は優しく繊細な出汁の味を堪能することができた。
宙翔が料理に舌鼓を打っていると、今度は右隣りから視線を感じた。
宙翔はチラと視線を右側に移すと、炎姫が興味津々といった様子で宙翔の食べているところを見ていた。
そんな炎姫の様子を見た宙翔は、何かピンとくるものがあった。
「炎姫も食べてみる?」
「良いのか!?」
炎姫はよほどうれしかったのか、宙翔の言葉を聞いて瞳をキラキラと輝かせ体も前のめりになっていた。
炎姫の言葉に宙翔は頷くと、魚の身を箸でつまみ炎姫の口元まで持ってくる。
「はい、あーん」
炎姫は一瞬戸惑ったような表情を見せたものの、頬をわずかに赤らめ恥ずかしそうに口を開ける。
「あ、あーん」
炎姫はその小さな口で噛み締めるようにモグモグと口を動かす。
そしてごくりと飲み込むと、とびっきりの笑顔を見せる。
「うむ、美味なのじゃ!」
今の炎姫にとって食事は必要のないものだ。だが意味のないものではない。
食事とは栄養補給をし、生命を維持するためだけに行われるものではない。
同じものを食べ、大切な人と同じ時間と思いを共有する。それによって得られる多幸感は何事にも代えられないものだ。
それは長い間孤独を感じてきた炎姫にとって、とても大切なことで意味のあることだった。
戦争で両親を亡くした宙翔もそのことを痛いほど理解していた。そんな宙翔だからこそ、炎姫の思いに気づけたのかもしれない。
ただ大切な人には笑顔でいてほしい。宙翔の行動はその思いに直結しているのだ。
シャルロットにフォークやスプーンも渡したこともそんな思いからの行動だった。
「空閑さん、さっきの立ち合い本当にすごかったです!」
そんなふうに半蔵が話題を振ったのは、宙翔とシャルロットが食事を食べ終わったぐらいのところだった。
「当然じゃ! 妾と主様が組めば向かうところ敵なしじゃからな!」
炎姫は腰に手をあて、胸をそらしながら得意げに言う。
「確かに炎姫と一緒だったら負ける気がしない。でも実際は危ない場面が何度もあった」
炎姫の頭をポンポンと撫でながら言う宙翔の表情は、どこか浮かないものだった。
「経験の差ってやつを思い知らされたよ。あれじゃ、守りたいものを守れない」
「それは仕方のないことじゃよ。主様は精霊使いになってからまだ数日しかたっておらぬのじゃから」
炎姫はそう言うと、その小さな体をぐっと伸ばして宙翔の頭を撫で返した。
「経験はこれから積めば良いのじゃ」
炎姫のその言葉を聞いて幾分か宙翔の心の中の重みが消え、顔もほころんでいた。
そんな二人のやり取りをシャルロットは微笑ましそうに見ていた。
一方で半蔵は真剣な顔で何かを考えこむような硬い表情をしていた。
「精霊使いになってからたった数日であれだけの戦いを・・・・・・」
その呟きは小さく、この場の誰の耳にも届くことはなかった。
炎姫はしばらく気持ち良さそうに頭を撫でられていたのだが、自分の表情がとろけていることに気づき一瞬ハッとしたような表情を見せた後、一つ咳払いして真面目な表情に戻す。
「そういえば凌也とかいうやつの契約精霊は、闇属性の精霊じゃったのう。風間の里と言うくらいじゃから、てっきり皆風属性の精霊と契約しておるものだと思ったぞ」
「それは流石に。相性というものがありますから。みんながみんな風属性の精霊と契約できるわけじゃないんですよ」
「そうなの?」
宙翔の問いを半蔵は首を縦に振って答える。
「精霊にはそれぞれ、火、水、風、地、雷、光、闇の七つの属性があります。精霊使いはこの中で自分と相性の良い属性の精霊と契約ができます。相性の悪い精霊と契約すると本来の力が発揮できなかったり、そもそも契約自体できないなんてこともあるんですよ」
半蔵は自分の両手を使い、数を数えながら説明する。
精霊は基本的にこの七種類の中のどれか一つの属性を持っており、複数の属性を持つことはない。
しかし精霊がこの世に誕生してから現在に至るまでの長い年月の中で精霊も多様化が進み、ある種例外的な存在が現れ始めた。
例えば水属性。
水属性の精霊の中には水から派生し氷の精霊術も使う精霊がいるのだが、一部では氷の精霊術に特化しそれのみを使う精霊がいる。
そして凌也の契約精霊であるスコルピオンにも同じことが言える。
スコルピオンは本来、闇や影を操ったり精神干渉や状態異常を引き起こしたりするのを得意とする闇属性の精霊だ。
そんなスコルピオンは数ある闇属性の精霊術の中で、毒の効果がある精霊術を使うことに特化した。
このようにそれぞれの属性の中でさらに一点に特化した精霊が現れるようになったのは、精霊としての力つけていくうえでより自分に合った強さを選択していった結果だと言われている。
しかしレームル王国の研究者たちは氷属性や毒属性といった新しい属性を設け分類するかどうかは検討中としていて、現在は《水属性氷特化》や《闇属性毒特化》などと分類している。
主な理由は二つある。
一つは氷の精霊術のみを使ったり毒の精霊術のみを使ったりする精霊の数がかなり少ないから。
もう一つはもし氷属性や毒属性といった新しい属性区分を設けた場合、属性別に分けるのが困難になるのではと考えられているからだ。
例えば今まで水属性であるが氷の精霊術も使う精霊として知られていたものは、果たして水属性なのか氷属性なのかどちらの属性として判断すべきなのか悩む場合があるのではないかと、一部の研究者の間で懸念されている。
一方でこのまま精霊の多様化が進んでいけば複数の属性を合わせ持つ精霊が誕生する可能性もあり、これまでの一体の精霊につき一つの属性という考えを改める必要があると唱える研究者もいる。
その他にも既存の精霊とは強さや存在感において一線を画する存在がいる。
このような特別な存在や精霊の成り立ちについて、そして精霊の属性など、宙翔が精霊についてより深く知るのはもう少し後のこととなる。
そして宙翔に向かって説明をしていた半蔵の視線が炎姫へと向けられる。
「空閑さんが精霊使いとなって数日であれほどまで精霊術を使いこなせるのも、炎姫さんとの相性がよほど良かったんでしょう」
「えへへへ。そうかのう」
半蔵が言った「相性がよほど良かった」という言葉が相当うれしかったのだろう。炎姫は頬を赤らめたうえに口元は緩みきっており、その表情は完全にとろけてしまっていた。
数秒の間その状態が続いたが、すぐに我に返ったようで炎姫は慌てたように一つ咳払いをすると急ごしらえの真面目な顔をつくる。
「こほん。それと、あの者の精霊は独特の気配があったのう。あれは古都国の精霊ではないのではないか?」
炎姫の質問に半蔵は大きく頷いた。
「さすが炎姫さんです。確かに凌也の契約精霊であるスコルピオンは古都国の精霊じゃありません。あれは《精霊商》に捕らえられていた精霊なんです」
「精霊商って、あの!?」
半蔵の言葉を聞いて、宙翔は驚きで目を見開き思わず身を乗り出してしまう。
シャルロットは驚愕といった表情を浮かべ、右手で口元を覆ってしまう。
精霊商という言葉はそれだけインパクトのあるものだった。
「はい、精霊を無理やり捕まえて売りさばいているあの精霊商です。古都国をはじめとしたレームル王国領の国々では営利目的として精霊を捕まえて売るのは犯罪なんですが、そんな犯罪行為が横行しているのが現状なんです」
レームル王国と古都国は以前から精霊の売買を禁止しており、それは古都国がレームル王国領に属することになってからも変わっていない。
周辺諸国の一部では精霊の売買を認めていたが、レームル王国領に属することになってからはレームル王国の法律に合わせ精霊の売買を禁止するようになった。
しかし法律で禁止されているのにも関わらず裏市や闇オークションといったところでは、精霊の売買が横行しそれを専門とした商人たちが多数存在している。
その商人というのが精霊商と呼ばれるものたちなのだ。
「だから俺たちは二年前にレームル王国からの密令を受けて古都国に潜伏していた精霊商を摘発しました。その時に捕らえられていた精霊のうちの一体が凌也に懐いてしまって。王国側に確認を取ったら契約しても問題ないっていうことだったので、凌也はその精霊と契約しました。それがスコルピオンなんです」
半蔵は凌也がスコルピオンと契約した経緯をかいつまんで説明した。
ちなみに今までその姿を公にさらすことなく活動してきた風間の里の忍びたちだが、七年前の戦争時には古都国を守るため派手に行動することを余儀なくされた。
その結果レームル王国にその存在を認知されてしまったわけだが、風間の里の忍びたちは王国側の要請や命令に積極的に従うことを条件に今まで通りの活動することを許されている。
当時の精霊商の摘発もそれが関係しているというわけだった。
そして半蔵から凌也がスコルピオンと契約した経緯を聞いたとき、宙翔の中で一つの疑問が生まれた。
「もしかして風間くんの精霊も?」
「いえ、俺の契約精霊は、精霊商の摘発の少し後に《精霊召喚》で来てくれた精霊です」
「精霊召喚?」
新たに登場した聞き慣れない単語に、宙翔はまたしても首をかしげる。
「精霊召喚は、自分と相性の良い属性を持つ精霊を呼び出すことができる儀式のことですね。たしか王国にあるナイトオブスピリッツの本部でも同じことができるはずですよ」
半蔵の説明を聞いて、宙翔はナイトオブスピリッツの古都国支所でのことを思い出した。
それは傭兵集団《蛇の鱗》のボスであるデトス・チャートの身柄を古都国支所の精霊使いに引き渡した後、宙翔の精霊使いとしての能力測定を受けた時のことだ。
通常レームル王国領内で精霊使いになろうとした時、王都にあるナイトオブスピリッツの本部で精霊使いの適性検査を受けた後に適性があると判断されたら精霊召喚で精霊を呼び出し《契約の儀》を経て精霊使いとなると事前に説明されていた。
それと似たことがこの風間の里でもできるのだろう。
「あの空閑さん、お願いがあるのですが」
突然姿勢を正し改まった表情で見つめてくる半蔵に、宙翔は何事かと首を傾げた。
「俺に稽古をつけてください」
「え!?」
そして半蔵から飛び出してきた予想外の言葉に宙翔は面食らってしまう。
「いやいやいや、風間くんも聞いてたでしょ。精霊使いになって日も浅い俺じゃ無理だよ」
「なら、俺の練習相手として軽く撃ち合ってくれるだけども構わないから、お願いします!!」
宙翔は首を横に振り実戦経験の乏しい自分では教えられることはないし務まらないと断るが、半蔵の意志は固いようで土下座をして頼み込む始末だ。
「うーん」
宙翔は腕を組みしばらく考え込む。
だが宙翔の性格上こんなふうに熱心に頼み込まれては、出す答えはひとつしかない。
「わかったよ。俺なんかでよければ」
「はい! ありがとうございます」
半蔵は嬉しそうな顔でお礼を言う。
困っている人を放っておけないのが宙翔なのだが、(戦うのは好きじゃないのにどうしてこうなったんだろう?)と心の中で思ったのはここだけの話だ。
第2章10話「忍びの里のもてなしと精霊のあれこれ」を読んでくださりありがとうございました。
今回はいわゆる説明回で精霊の属性について知ることができたのですが、どんなものにも例外はつきもので少し説明がややこしい感じになってしまったのは申し訳ないと思っています。
今後の話で宙翔が精霊について詳しく知る機会があるので、そこで本編上でもわかりやすく説明できるのかなと思っています。
なにかのタイミングで読者の方向けに用語集として詳しく解説できる機会を設けられたらなとも考えているので、ご要望があればお声がけください。
さて次回の更新日ですが、4月1日金曜日の21時ごろを予定しています。
続きが気になる方は、ぜひ次回も読んでください。




