第2章 6話 郷に入っては郷に従え
みなさんお久しぶりです。
約1ヶ月ぶりとなってしまいましたが、第2章6話を更新しました。
救護所に運ばれた一花の様子を見に行き、そこで第十班班長の紅葉に会ったその後からのスタートです。
それでは、本編スタートです。
「これからどうする?」
救護所から外に出た宙翔は今後の予定について半蔵に尋ねる。
半蔵は顎に手をあて、しばらく考え込む。
「そうですね。まだ時間がありますし、里を軽く案内しますよ」
宙翔たちは半蔵の提案に乗り、里の中を見て回ることにした。
この風間の里は真円形の防壁に囲まれている。里は大きく東西南北に区分けされ、北側には擬似霊具を含む様々な道具を作る工房がある。東側には保存食やその他必要な道具が保管されている倉庫がある。南側には農作物を育てる区画が設けられている。西側には戦闘訓練場がある。
そして里の中央部に里長の屋敷があり、屋敷のほど近くに救護所がある。
半蔵に説明されながら里の中を歩く宙翔は一つ疑問に思うことがあった。
「なんか家っていうか長屋? が等間隔に建ってるんだな」
比較的小さな家はばらけて建っているのだが、長屋になっているところは等間隔で規則的に配置されているのが気になっていた。
「あの長屋は班に所属している忍びたちが住んでいるところで、どの方向から敵が来ても反撃したり、里長の屋敷を守ったりできる配置になっているんですよ」
半蔵の説明によると里長の屋敷を囲むように東西南北に四棟、少し離れた北東、南東、南西、北西に四棟、そして里長の屋敷のほど近くに一棟長屋が建っているということだった。
「一つ足りなのではないですか?」
シャルロットは指を折って数を数えた後、首をかしげて半蔵に問う。
里長の間で半蔵の父であり里長でもある善蔵が「総勢十人の班長」と言っていた。班長が総勢十人ならば全部で十の班があるはずであり、そして長屋も十棟あるはずなのではと思ったのだ。
「昔は九班までしかなかったんですが、紅葉さんが班長になったことで新しく十班ができたんです。それで当時すでに紅葉さんは救護所の所長をしていたので、十班の班員たちは救護所に居住区画を作って生活しているんです」
「なるほど、そうだったんですね」
そんな感じで半蔵から説明を受け、そろそろ里を一周し終えるころ。
「ああ、お帰りになってましたか。迷惑で無価値の次期里長候補様」
前方から乱暴な物言いで話しかけてくる忍びがいた。
「凌也」
半蔵が凌也と呼んだその忍びは背格好は半蔵と同じだが、つり目と乱暴な口調、そして高圧的な態度から粗野な印象を受ける。
「またお前が後先考えずに無鉄砲に突っ込んで行ったせいで、一花が大怪我したらしいじゃねーか」
歩みながら言う凌也と、その言葉を受けて目を背け黙り込む半蔵。
「おい! お前の身勝手な行動で仲間が傷を負ったんだってことわかってんのか!」
そんな半蔵の態度が気に食わなかったのか、凌也は声を荒げながら半蔵の胸ぐらをつかむ。
「十蔵さんがいなくなってお前みたいな任務もまともにこなせず、仲間を危険にさらす厄介者が次の里長だなんて俺は認めない。十蔵さんこそ里長になるべきなのに・・・・・・」
凌也はそこまで言うと突き飛ばすように半蔵を放す。よろける半蔵は凌也に言い返すこともなく、ただ唇を噛んで黙り込んでいた。
凌也は震えるほど拳を固く握ると、鋭い眼光で半蔵をにらむ。
「それが叶わないなら、おまえが里長になるくらいなら俺が里長になる!」
そこまで言われても反論せずただ唇を噛んで目をそらし続ける半蔵に、凌也の怒りは頂点に達する。
「何とか言ってみろよ! この能無しの厄介者が!!」
こぶしを振り上げ半蔵に殴りかかろうとする凌也だが、その拳が半蔵に届くことはなかった。
「!?」
気が付くと、いつのまにか二人の間に割って入った宙翔が凌也の拳を両手で受け止めていた。
「なんだ? お前」
宙翔に邪魔される形になった凌也は怒気をはらんだ声で宙翔をにらむ。
そんな凌也の視線に屈することなく、宙翔は力強い視線で凌也のことを見返す。
「風間くんがやった行動の結果、風倉さんが怪我をしたことはもちろん反省するべきだと思う」
宙翔は、ちらと半蔵の様子を見る。
殴られると思っていた半蔵は宙翔が割って入ったことに驚いた様子だったが、すぐ先ほどと同じように唇を噛んで目線をそらす。
宙翔の目にはそれがまるで責められるのを、殴られるのを待っているように見えた。
「でも風間くんは怪我した風倉さんを背負って、身体中に擦り傷ができるのをいとわず一生懸命に走ってた」
優しく笑いかけながら言う宙翔の言葉に半蔵が目を見開く。
魔獣と遭遇する直前、応急処置を受ける前の半蔵の姿を見たのはほんの一瞬だったが、宙翔は気が付いていた。
半蔵には明らかに魔獣と戦ってできた以外の傷や衣服の破れがあったことを。
魔獣と直接戦った宙翔はそれを確信していた。
だからわかったのだ。半蔵が怪我をした一花を里に連れて帰るため、自身に枝などで無数の引っ掻き傷ができるのを厭わずひたすらに走っていたのを。
そして宙翔は再び凌也を力強い視線で見つめなおす。
「そんな仲間を助けるために、仲間を守るために一生懸命になれる奴が能無しの厄介者のはずがない!」
「何も知らない部外者が口挟んでんじゃねーよ!」
凌也が声を荒げ、もう片方の拳を振り上げた瞬間。
「そこまで!」
その場に低く威厳のある声が響いた。その声を聞き、凌也の拳がぴたりと止まる。
声のするほうに視線を向けると、そこには里長である善蔵の姿があった。
里長に気が付いた凌也は、すぐさま拳を引っ込め膝をつき頭を垂れる。
そして宙翔が周囲に視線を向けると、いつの間にか周囲には騒ぎを聞きつけたほかの忍びたちによって人だかりができているのに気が付いた。
「何の騒ぎだ?」
善蔵が問うと、人だかりの中にいた忍びの一人が善蔵に耳打ちする。おそらくその忍びは一部始終を見ていたのだろう。
「なるほど。凌也、揉め事が起きた時の里の掟は覚えているか?」
善蔵に問われた凌也は膝をついたまま答える。
「揉め事が起きれば立ち合いで白黒はっきりさせる」
「そうだ。よってこれより、凌也と空閑宙翔殿の立ち合いを執り行う」
善蔵が声高々に宣言するのを聞いて、宙翔は驚きで目を見開き慌てて善蔵のもとに駆け寄る。
「ちょっと待ってください。戦わなくても話し合えば」
宙翔からすれば凌也の言葉は言い過ぎだと思ったので、半蔵に一言謝ってもらいたかっただけなのだ。それがこんな大ごとになるとは。
「時間をかけて話し合うより、そのほうが単純で後腐れがないですからな。これも昔からの里の掟。申し訳ないが空閑殿にも従ってもらいますよ」
確かにそうかもしれないが、その考え方は少々乱暴ではないだろうか。
しかしここまで大ごとになってしまい、里長である善蔵に立ち合いを宣言されしまった以上、断れる雰囲気ではなかった。
「わかりました」
こうなってしまっては腹を括るしかないと宙翔が了承すると、善蔵は頷き視線を凌也に向ける。
「凌也よ、お前は勝利したら何を望む?」
「俺が勝ったら半蔵の里長継承の権利を剝奪し、俺に継承の権利をいただきたい」
「!?」
凌也の望みを聞いて宙翔は再び驚きで目を見開く。それは他の人たちも同様だったようで、ざわめきが人だかりの中で広がっていく。
善蔵もピクリと眉を動かすが、すぐに表情を戻す。
「よかろう」
善蔵が了承したことにより、先ほど以上にざわめきの波紋が広がる。
「空閑殿は?」
善蔵に問われる宙翔だが、彼の要求は最初から決まっている。
「俺は風間くんに謝ってもらえればそれで」
凌也に対してあまりにも些細で小さな宙翔の要求に、凌也は呆気にとられた表情を見せた後、堪えきれずに噴き出した。
「ぷはははは。お前マジか!? そんな要求でいいのかよ」
「俺にとっては大事なことだ」
凌也に笑いながら聞かれるが、宙翔は至って真面目な表情で返す。
「双方の要求は理解した。すぐに訓練場に移動して立ち合いを始める」
善蔵の言葉を受け人だかりは解散し、一様に訓練場に向かって走り出した。
凌也も宙翔とすれ違いざまに鼻をフンと鳴らし、訓練場に向かって行った。
「空閑さん、すみません。俺にせいで巻き込んでしまって」
半蔵は申し訳なさそうに謝るが、宙翔は優しい笑顔で首を横に振る。
「ううん。俺の方こそ、風間くんの里長継承の権利のこと・・・・・・」
「いえ、空閑さんは強いのでそこまで心配してないです。それに・・・・・・」
半蔵はそこまで言うと言葉を紡ぐのをやめ、暗い顔になる。
「どうかした?」
「なんでもないです。早く訓練場に向かいましょう」
半蔵は若干無理をしたような笑みを見せながら首を横に振ると、訓練場に向けて歩き出した。
なんでもないと言われれば宙翔もそれ以上何も聞けないため、シャルロットとともに半蔵の後を追いかけ訓練場へと向かった。
***
「里長、立ち合いなんて許可してよかったんですか?」
訓練場に設置された里長用の物見やぐらで第一斑班長の風宮隼人が善蔵に問う。
今このやぐらには善蔵と隼人、《第五班班長》風谷義輝、《第六班班長》風見剛介がこの立ち合いを見るために集まっている。
ちなみに他の班長達は任務や里の警備のため、ここにはいない。
「凌也には悪いが、神性を持つ精霊と契約し魔獣の群れを単独撃破したあの少年の実力をこの目で見たくてな」
善蔵は正直言って凌也が宙翔に勝てると思っていない。彼の実力が少しでも引き出せればいい方だと思っている。
なぜ善蔵が宙翔の実力をそこまでして見たいのか。単純に里の脅威になりうるのかどうか見極めるためというのもある。
だが、それとは別にもう一つ理由がある。
里長の間で相対した時はそんな感じはしなかったのだが、もし半蔵の言う通り宙翔が魔獣の群れに加え巨大魔獣を単独撃破したのならば、宙翔の実力は善蔵の息子で風間の里の歴代最強の忍びである十蔵と同等以上ということになる。
十蔵と精霊である颯鷲丸を失ったことによる里の戦力的喪失は大きく、もし宙翔は十蔵に引けを取らない実力を持っているのならば、風間の里に引き入れられないかと考えているのだ。
だから今回の立ち合いで戦いの中から見える、宙翔の戦闘能力と人間性を見るというのがもう一つの理由だ。
「さあ、君の力を見せてくれ」
善蔵は品定めをするかのような鋭い視線で訓練場を見下ろした。
***
一方そのころ、訓練場の外周部にある木製の柵の外側にシャルロットと半蔵はいた。
もともと訓練場であるため観覧席のようなものは存在せず、柵の外側で立ち見をする形なのだが、それでも今現在暇を持て余した多くの忍びたちが立ち合いの様子を見物しようと詰めかけていた。
シャルロットと半蔵は当事者ということもあり、最前列に陣取ることができていた。
「半蔵さん、凌也さんってどんな方なんですか?」
「凌也は俺や一花と同い年なんです。同年代の中で一番実力があって、俺たちの中で一番最初に班長になるんじゃないかって言われてるんです」
「なるほど、それじゃあとてもお強いんですね」
シャルロットの言葉に半蔵は頷いた。
凌也は最近では祖父である《第五班班長》風谷義輝と特訓し、現班長たちと遜色ないほどの実力を身に着けていると噂されている。
そんな噂がされている凌也だが、宙翔が実際に魔獣と戦っているところを見ている半蔵は宙翔に軍配が上がるとみている。
しかし懸念点がいくつかある。
一つは凌也にとって戦い慣れた場所である訓練場での立ち合いというのは、宙翔にとって少々分が悪いということ。
毎日のようにこの訓練場で鍛錬している凌也が、地の利を生かした戦いを仕掛けてくることは容易に想像できるからだ。
二つ目は対魔獣戦と対人戦では戦い方が変わってくる点だ。
単純な力比べであるならば宙翔に分があるが、対人戦では戦闘技術や駆け引きなどで力量差がひっくり返ることもある。
特に凌也は巧妙で予想のつかない動きで相手を翻弄することに長けているので、そこに惑わされると宙翔が負けてしまう可能性もある。
シャルロットに「半蔵さんはどういう戦いになると思いますか?」と問われたため、迷ったが先ほどから思っていた懸念点を正直に伝える。
しかしシャルロットからは微塵も心配した様子を感じなかった。
その横顔は魔獣と戦っていた宙翔を見つめていた時と同じだった。
「心配じゃないんですか?」
そんなシャルロットを不思議に思った半蔵は、失礼だと思いつつも聞かずにはいられなかった。
「もちろん心配ですよ。でもそれ以上に信じているんです」
「絶対に勝つことをですか?」
そう問いかける半蔵にシャルロットは、にっこりと優しく微笑みかける。
「絶対に負けないことをです」
自信と確信をもって答えるシャルロットに半蔵は首を傾げた。
絶対に勝つことと絶対に負けないこと。そこにはどんな違いがあるのだろうか。
それをシャルロットに聞こうとしたところで、周囲のざわめきが一段大きくなったのに気が付き、半蔵は訓練場へと視線を向ける。
どうやら宙翔と凌也が訓練場に入ってきたようだ。
まもなく立ち合いが始まる。
みなさん、第2章6話「郷に入っては郷に従え」を最後まで読んでくださりありがとうございました。
次回の更新は12月3日(金)21時を予定しています。
また1ヶ月ほど間が空いてしまいますが、次回も読んでいただけるとうれしいです。




